犬と猫は人間よりもずっと多くのカルシウムを必要としていることはご存知ですか?
カルシウムの推奨摂取量を体重1 kgあたりに換算すると、成人男女では9〜13 mg、成犬(避妊去勢済み)では50〜80 mg、成猫(避妊去勢済み)では30〜50 mg。つまり犬猫は3〜10倍多くカルシウムを必要としているため、人の食事と同じ感覚で犬猫の食事を作っていると、カルシウムがまったく足りなくなってしまうのです。
標準体重1 kgあたりに換算したカルシウムの所要量(成犬を100%で示す)
生骨や骨付き肉は、犬猫本来の食性にあった最適なカルシウム源。カルシウムだけではなく、鉄、マグネシウム、マンガン、亜鉛など、手作り食に不足しがちなミネラルを補給するマルチミネラル剤として考えることができます。
注意点を守れば安全に与えることができます。今日から愛犬や愛猫の楽しみを一つ増やしてあげましょう。
参考 カルシウムの種類・給与量の目安について骨を使いたくない方へ 参考 うちの子に必要なカルシウムの量は?ライフステージ別栄養自動計算機骨付き肉の利点
サプリメントではなく生の骨付き肉でカルシウムを給与することには様々な利点があります。
犬と猫の長〜い進化の過程では骨と卵殻が唯一のカルシウム源でした。約2万8千年前の犬の祖先の化石に残っていた歯を調査した研究によると、その当時から動物の骨などの硬いものを食べていた跡が残っており、祖先の狼よりも多くの骨を食べていたようです。人間と一緒に暮らすようになって人の食べ残しの骨を消費するよう適応したんですね。
最小量さえ守っていれば、好きなだけ与えて大丈夫。面倒な計算もいりません。過剰分は吸収されずに便と一緒に排泄されます。ウンチが白〜灰色でカチカチになったら与えすぎのサイン。うんちがちょうどいい固さになるよう減らしてあげましょう。
犬猫では食事中のカルシウムとリンのバランスも大切です。どちらかが多すぎたり少なすぎたりすると、カルシウムの吸収がうまくできなかったり、体内のカルシウム量を調節するために上皮小体や腎臓に負担をかけることになります。また、リンと比べてカルシウムの量が極端に多かったり、ビタミンDの摂取量が過剰になるとカルシウムが体の中で石灰化することがあります。
骨は、カルシウムとリンのバランスに優れているため、面倒な計算をする必要がありません。
本能を満足させることでよく眠り精神的に安定した子になります。
肉をひきちぎる、骨を噛むという動作によって歯垢を除去することができます。ただし、歯の間隔が狭い小型犬や肉以外の食材を与えている場合は効果は完全ではありません。
ウンチが固めになるため、排便時に肛門嚢が適度に押されて液がたまらなくなります。
- 肉や骨髄中の脂肪に脂溶性ビタミンや脂肪酸が含まれる
- ヨウ素以外のミネラル(鉄、マグネシウム、マンガン、亜鉛、銅、セレン、フッ素など)が補給できる
- 肉と骨を合わせると必要なアミノ酸すべてを含む(タウリンを除く)
- 骨髄には骨や血液、免疫細胞の形成に必要なさまざまな因子が存在
どのくらい与えればいいの?
「ウンチがカチカチにならない」程度なら好きなだけ与えて大丈夫。最低必要な量を知るには次の2通りの方法があります。生活スタイルに合わせて選びましょう。
1. 主食の肉に対する骨の割合で計算
お肉屋さんやペットショップで骨だけを購入したり、骨付き肉を買って骨と肉を分離する場合には、こちらの方法で計算します。
肉+魚+内臓肉の量に対し10〜25%(重さ)
肉+魚+内臓肉の量に対し5〜10%(重さ)
2. 肉に対する骨つき肉の割合で計算する
肉と骨を分けず骨付き肉のまま与える場合はこちらの方法で計算します。骨付き肉に付いている骨の量はさまざまですから、骨の含量で分類し、それぞれどれくらいの分量で主食の肉と混ぜればよいかを概算します。
- 牛リブ(脂身なし)
- 牛テール
- 鶏あし
- 鴨・七面鳥ネック
肉+魚+内臓肉の量 | 骨付き肉の量 | |
犬 | 75% | 25%(最大50%) |
猫 | 90% | 10%(最大20%) |
- 鶏手羽先
- 鶏ネック
- 鶏ドラムスティック
- 七面鳥手羽
- 七面鳥ドラムスティック
- 鴨手羽
- ラムスネ肉(脂身なし)
- 豚リブ(脂身なし)
肉+魚+内臓肉の量 | 骨付き肉の量 | |
犬 | 65% | 35%(最大70%) |
猫 | 85% | 15%(最大30%) |
- 鶏手羽元
- 鶏レッグ
- 丸鶏
- ラムチョップ(リブ)
- ラム肩肉
- ラムスネ肉
- 牛Tボーンステーキ
- 豚リブ
- 鴨レッグ
肉+魚+内臓肉の量 | 骨付き肉の量 | |
犬 | 50% | 50%(最大100%) |
猫 | 80% | 20%(最大50%) |
- 鶏骨付きもも
- 七面鳥骨付きもも
- 豚骨付きロース
- ラムウデ肉
- 七面鳥骨付きもも
- 七面鳥レッグ
肉+魚+内臓肉の量 | 骨付き肉の量 | |
犬 | 35% | 65%(最大100%) |
猫 | 65% | 35%(最大65%) |
どの種類の骨を選ぶ?
体の大きさや食べ方にあった骨を与えることが大切です。例えば猫や小型犬に牛リブやラムすね肉を与えても表面をかじるだけで骨を砕くことができないため、カルシウム源にはなりません。大型犬の場合は手羽などの小さなものを与えると、そのまま丸飲みして喉につかえる危険性があります。
丸飲みせずに時間をかけてかじり、完食できるものが理想的!
観察しながら色々な種類の骨を試して、自分の犬猫にあったものを選ぶようにしましょう。
- 鶏ネック・手羽・足
- テール・脊椎
- ラムリブ
- うずら丸ごと
- カットしたスネ骨など
- 鶏・鴨のガラ
- リブ
- ラム肩
- カットしたスネ骨
- テール・脊椎など
- 牛リブ
- 鶏レッグ
- スネ骨丸ごと
- またはカットしたもの
- 鴨・七面鳥のガラなど
注意点
- 人の食事の食べ残しなど、加熱調理した骨は与えないこと。加熱すると割れた時に尖ることが多く、消化管を突き破る危険性があります。
- 生の骨でもかじり方によっては尖る場合があります。初めての骨を与える際には必ず観察しましょう。
縦に割れたラムリブ(ラムチョップ)の生骨。本能で食べてはいけないとわかる犬猫もいるが、そのまま丸飲みしてしまう子もいる。
- いったん冷凍保存して寄生虫を死滅させるなど、生ものを与える際の一般的な注意点を守ること。
- 大きなものを与える時は、胃腸を冷やしすぎないようにお湯で軽く温めること。
- 骨では補えない栄養素があります。
- 血液検査(カルシウム、リンなど)と尿検査を年1〜2回行い、異常があった場合は精密検査を受けましょう。動物の体内では血液中のカルシウムとリンの量を一定に保つために骨への貯蔵、骨からの引き出し、腎臓からの排泄などの方法によって常にカルシウムとリンの量が調節されているため、血液検査や尿検査で異常が出るまでには時間がかかります。日頃からカルシウムの適正な給与量をチェックする習慣をつけましょう。
- 老犬、顎・歯が細く弱い品種、猫には柔らかめの骨を与えましょう。鶏ネック、手羽、関節、若い動物の骨(若鶏、雛鷄、ラムなど)が比較的柔らかめです。鶏肉の骨であれば、バイタミックスなどプロ仕様のミキサーで肉や骨を丸ごと細かくして与えることができます。
- 歯みがき代わりになるとは限りません。特に小型犬や肉以外の食事を与えている場合は注意が必要です。重度の歯の疾患がある場合は、骨を与える前にまずは治療をお勧めします。
- スモークボーンやボーンミールでもカルシウムとリンを補うことができますが、加熱しているためビタミンや造血因子などの栄養素は失われます。
- 与えすぎるとウンチがカチカチになって便秘します。骨の量を加減して、ちょうどいい給与量を見つけましょう。
- 原産国によってはフッ化物汚染されている可能性があります。水道水にフッ素を添加している国では、その水道水を飲んだ家畜の骨にフッ化物が高濃度に蓄積していることが報告されています。
丸のみした場合の対処方法
そのまま様子をみましょう。大抵は、自然に消化されます。消化できなかった部分だけ、あとで吐くことがあるかもしれません。丸飲みした骨は今後与えないようにしましょう。
上顎を一方の手で、下顎をもう一方の手で持ち、口を大きく開けて中を確認します。唇を歯にかぶせるようにして持つと、犬猫が噛もうとしても怪我をする危険性が少なくなります。
手でとれない場合は、スプーンなどの尖っていないものを差し込んで外します。フォークやナイフは危険なので使わないように。
お腹を押して吐き出させます。
- 猫や小型犬の場合は、お腹を上にして片方の腕で抱くか、横に寝かして片方の手で背骨を支え、もう片方の手のひらを肋骨の下のお腹の部分に当て、頭の方向に向かって押します。
- 中型犬〜大型犬の場合は、立ち姿勢のまま、肋骨の下方のお腹の部分に両腕を回し、両手をしっかりと握ったら、前方(犬の頭の方向)に向かって犬を持ち上げるようにしてお腹に圧迫を加えます。立てない場合は、片方の手で背中を支え、もう片方の手でお腹を押し上げるようにします。
よくある質問
加熱した骨はかじった時に尖りやすく、破片が消化管を穿孔する可能性があるため危険です。
加熱する場合は、圧力鍋などで煮崩れるまで柔らかくするか、しっかりと熱を通したペット用のスモークボーンなどを利用しましょう。
加熱すればするほど栄養素が失われることにも注意しましょう。
老犬、顎・歯が細く弱い犬種、猫には柔らかめの骨がおすすめです。鶏ネック、手羽、関節部分の骨、若い動物の骨(若鶏、雛鶏、ラム)が比較的柔らかめです。
鶏の骨なら強力なミキサーで生のまま肉と一緒に丸ごとミンチにすることができます。骨の破片が残らないようよく混ぜ、生ものを与えるときと同じ注意を守って与えましょう。
高齢で歯がほとんどないような場合は無理せずにカルシウムサプリメントの使用も考えましょう。
主に3つの理由が考えられます。
- 消化力が弱っていて骨自体を消化することができない。嘔吐物に骨のカケラが入っていませんか?骨の量を少なくするか、チキンネック、関節部、若鶏の骨などの柔らかいものに変えて、少しずつ慣らしていきましょう。丸飲みさせず、かじらせることも大切です。
- 脂肪の消化が苦手。骨だけでなく、胃液や胆汁を吐いたり、お腹がゆるくなることもあります。骨髄は脂肪が豊富で、骨の周りにはたくさんの脂肪がついていることもあります。骨髄が少ない骨を与えたり、骨の周りの余分な脂肪をとってから与えてみましょう。
- 生ものを与える際の注意点が守れていない。生骨も生肉と同じ衛生管理が必要です。
嘔吐が続くようなら無理をせず、カルシウムサプリメントに切り替えましょう。
尖った破片が残らず、生ものを与える際の注意点を守れば栄養学的には問題ありませんが、家庭用のミキサーやフードプロセッサーで砕けるのは柔らかい鶏の骨だけです。固い骨は業務用の肉挽き器(ミートグラインダー)などが必要です。家庭用のミキサーでは容器が破損する危険性があるので気をつけましょう。
- 厚生労働省「第6次改定日本人の食事摂取基準(2015年版)」
- National Research Council Ad Hoc Committee on Dog and Cat Nutrition: Nutrient Requirements of Dogs and Cats, Rev. edn. Washington, D.C: National Academies Press. 2006
- 文部科学省食品成分データベース
- 米国農務省食品成分データベース