新鮮でバランスのとれた犬猫の手作りごはんは利点がいっぱい。手作り食に切り替えた飼い主さんたちからはたくさんの健康効果が報告されています。
その一部を紹介すると…
(2015〜2016年診療アンケートまとめ)
こういったうれしい効果は切り替えてから数週間〜数ヶ月とわりと短期間で現れます。栄養素を新鮮なまま与えられることに加え、過度の加工や添加物の使用を行っているペットフードをやめることで、炎症性物質や酸化物質の量を大きく減らすことができるためです。体内の炎症や酸化を抑えることは長期的にみても「がん」「肥満」「腎臓病」などをはじめとするさまざまな病気を起こしにくくする効果があります。
でも、本当に手作り食に切り替えるだけですべての病気が予防できるのでしょうか。答えは残念ながらノーです。手作り食を与えている犬猫もやはり病気になって病院にやってきます。
健康のためにと考えて始めた手作り食なのに…いったい何が問題なのでしょうか。私たちがこの数年間で栄養分析を行なった犬猫約150頭の中から見つかった問題を多いものから順番に紹介します。
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1. 炭水化物の与えすぎ
ダントツで多い間違いは「炭水化物の与えすぎ」です。これは手づくりごはんに限ったことではなく、ペットフードにも多い問題です。お米やパン、パスタを主食として考える日本人は、これらの炭水化物食品が犬猫の食事の大部分を占めていても違和感を感じにくいのが原因のようです。
犬と猫は肉食動物として進化してきたため、穀物などの植物性食品を消化し、糖質を上手に利用する遺伝的能力が人間より低くなっています。与えすぎは体の負担になることを忘れないようにしましょう。特に完全な肉食動物の猫では注意が必要です。
- 肛門嚢炎
- 肥満、糖尿病などの代謝性疾患
- 猫の甲状腺機能亢進症
- てんかん・けいれん
- 湿性の皮膚病・外耳炎
- 腎臓病
- リンパ腫
- その他の炎症性疾患
穀類や芋類などの炭水化物食品の給与量の目安は犬で30%以下、猫で10%以下です(一部の疾患を除く)。
これらの食品には病気との関与が疑われているグルテンやレクチンなども含まれていますから、バランスのよい配分を心がけましょう。
2. カルシウムのバランスがとれていない
犬猫は人間よりもずっと多くのカルシウムを必要としています。必要なカルシウムの量を満たすことに加えてカルシウムとリンのバランスも大切です。カルシウム:リン = 1:1 から 1.4:1(カルシウムが若干多め)が理想的ですが、難しい計算を行わなくても、次のいずれかを守れば、ちょうどよいバランスになります。
骨折や歯が抜けるなどの重い症状を起こすことはまれですが、見えないところで病気が進行していくので普段から気をつけてあげましょう。
- 食欲・元気がない
- 異食・食糞
- 被毛がパサパサ
- 発育不良(子犬・子猫)
3. 冷たいまま与えている
生食(ローフード)を実践している飼い主さんに多いのがこれ。複数の有名なローフードガイド本に冷たいまま与えても大丈夫と書いてあったり、食事を温めるよう指示されていないのが原因のようです。冷たい食事が胃腸を冷やし、消化や代謝を妨げることで全身の循環障害を引き起こすことは伝統医学ではとてもよく知られていること。せっかくの手作り食ですから、その新鮮な栄養を存分に活かせるよう温めてから与えましょう。
- 消化器障害
- 関節疾患
- “水太り”・筋力の低下
- 子宮蓄膿症
- 攻撃性、縄張り行動、無駄吠え
- “特発性”とつく疾患
4. 生肉や生骨を冷凍せずにそのまま与えている(食あたり)
こちらもローフードに多い問題で、嘔吐や下痢などの食あたり症状が報告されています。新鮮な生肉は細菌による汚染の心配はそれほどありませんが、トキソプラズマなどの寄生虫が生存している場合があります。最低3日間は冷凍保存を行って、寄生虫を死滅させる必要があります。与える前日に冷蔵庫で解凍して、体温程度まで温めてから与えます。
余談になりますが、ペットフードを与えている子でも手作り食を与えている子でも動物病院に行くと「犬や猫がときどき吐いたりするのは普通」と言われることがあるかもしれません。でも、きちんとした栄養管理と衛生管理が行なわれてれば、胃腸の弱い子でも吐くことは非常にまれです。嘔吐や軟便などの症状がみられる時は、何らかの原因があると考えましょう。
参考 犬や猫がときどき吐くのは正常?病院で原因が見つからない場合はこちらをチェック5. 歯磨きをしていない
新鮮な手づくりごはんなら虫歯になりにくい…と主張する自然食派の獣医師や飼い主の方がいますが、これは一部の犬猫にしか当てはまりません。正しくは「骨つき肉を主食にしている場合は虫歯になりにくい」ということ。骨つき肉(または動物を丸ごと)を単独で与えている場合は、肉をひきちぎる、骨を噛むという動作で歯垢を除去できますが、カットした肉や野菜、穀物を与えている場合には当てはまりませんし、固いものを与えていても奥の歯の汚れしか取れません。ドライフードと比べると、手づくり食の方が歯周病になりやすいのが現実です。
6. ビタミンやミネラルのどれかが不足している
内臓肉や骨、サプリメントを利用していない場合に多い問題です。
2013年に米国の大学病院が発表した調査結果では、ペット用のレシピ本や獣医師処方の手づくり食の多くが米国学術研究会議(NRC)や米国飼料検査官協会(AAFCO)が定める栄養基準を満たしていなかったという結果が得られています。ただし、私たちの調査ではカルシウムを除けば、栄養素に過不足があった犬猫は全体の1割程度にとどまりました。これは、手作り食をはじめとする自然療法を希望して紹介されてくる飼い主さんが多く、予備知識があったことが理由でしょう。
さまざまな種類の食材をまんべんなく使用して栄養の偏りを防ぐ、ビタミンやミネラルが豊富な内臓肉や生骨を与える、マルチビタミン・ミネラルサプリメントを使用するなど、生活スタイルにあった方法で対策を取りましょう。
番外編:本当に食べ残ししか与えていない
信じられないかもしれませんが本当にこういう飼い主さんがときどきいるのです。「人間の食べ残しを与えていたら元気になった」という自然食派の人たちのちょっと大げさな言葉をそのまま信じてしまったのが原因。犬猫たちは、栄養不足で痩せてしまうか、太りすぎのどちらかです。
人間が動物と「食物を共有する」することは、家族としての絆を深める上でとても重要な役割を果たしていますが、本当に食べ残しだけでは栄養が偏るだけではなく、塩分の高い調味料を口にすることにもなるので気をつけましょう。
最後に
こういった手作り食にまつわる問題は、いずれも少し気をつけるか、前もって知識があれば簡単に解決できることばかりです。わからないことがあれば誰が書いたのかわからないネットの情報ではなく、専門家に相談するのも一つの方法でしょう。
手作りごはんがどんな病気にも効果があるかのように大げさに書いてある情報にも要注意です。病気には食事だけではなく、遺伝、加齢、環境、体質とさまざまな要因が関わっています。食事にできることは、これらの要因の悪影響をなるべく減らして、病気の予防や症状の軽減に貢献したり、病気からの回復を助けることです。このことを理解していれば、手作り食や栄養に関する情報の本質を的確に読み取り、柔軟に取り入れていくのに役に立つでしょう。
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