自分のウンチや他の動物のウンチを食べる食糞行動は、猫よりも犬で多く見られ、直すのが非常に難しい問題です。自分のものしか食べない、他の犬や猫のものしか食べない、うさぎなど動物種にかまわず見つけたらなんでも食べてしまうなどさまざまなパターンがあります。
野生時代の名残りやしつけの問題と考えることもできますが、実はこの行動の裏には重大な医学的問題が隠れている場合があります。継続的に見られるようなら、動物病院に訪れた際に必ず相談するようにしましょう。
どんな問題が隠れているの?
糞を食べる、嘔吐物を食べる、腐った生ゴミをあさる・・・これらの行動はすべて「あらかじめ消化されたもの」を求めているサイン。胃腸機能に障害がある犬猫に共通して見られる症状です。胃腸の機能が弱ると食物を分解したり、栄養素を十分に吸収したりすることができなくなるため、栄養不良の状態に陥り、足りなくなった栄養素を補おうと、無意識に半ば消化された状態のものを探すようになります。
吐くことがある、お腹がゆるくなりやすい、食い意地が張っている、食べても食べても満足せず痩せていく、といった症状が一緒に見られることがあります。どちらかというと痩せている子に見られがちですが、太っていて一見して胃腸機能に問題がなさそうな子でも起こることがよくあります。カロリーは足りていても、ビタミンやミネラルなどの特定の栄養素が不足していたり吸収できない場合ですね。
発症する時期は原因や体質、飼育環境などによってさまざまです。飼い始めた子犬や子猫の時期にすでに見られる場合もありますし、成長してから始まる場合もあります。
隠れている可能性のある病気
消化吸収障害
- 消化酵素の不足:膵炎、膵外分泌不全、胃酸過多、消化酵素の分泌を促す内分泌系・神経系の異常など
- 胃酸分泌の低下
- 脂肪が消化できない:肝臓・胆嚢・胆管の疾患、小腸障害による胆汁の喪失、腸肝循環障害、細菌異常増殖症(SIBO)など
- 腸管からの栄養吸収の低下:炎症性腸疾患、細菌異常増殖症(SIBO)、コバラミン欠乏症、感染症、慢性ストレス、虚血性疾患、寄生虫症など
漏出性疾患
- 腸リンパ管拡張症
- 蛋白喪失性腸症など
食物アレルギー・過敏症・不耐症
腸管の炎症により吸収阻害が起こります。食糞以外に皮膚症状や消化器症状が現れない場合に見逃されがち。グルテン・レクチン不耐症でも食糞がみられることがあります。
その他
- 腫瘍性疾患による栄養障害、閉塞
- 甲状腺機能亢進症、糖尿病、クッシングなど食欲が異常に増える疾患
- 脂肪肝、右心不全など
病院で検査してもらうこと
健康診断の際には、一般的な血液検査や尿検査、糞便検査を行い、特に下に示した項目に注意します。これらの一般検査の結果や臨床症状、病歴、品種などの情報をもとに、獣医師が次にどの特殊検査を行うか判断します。ただし、疾患の初期や軽度の場合は、食糞などの異常行動や消化器症状、舌の色や脈の変化の方が先に現れ、検査では異常がまったく見つからない場合があります。1回の検査で判断せずに、定期的な確認を行うことが大切です。
- 総蛋白
- コレステロール
- アルブミン
- グロブリン
- 電解質
- 貧血の有無
- 肝機能
- リパーゼ/アミラーゼ
- CRP
- 尿糖
- 尿蛋白
食糞が引き起こす問題
飼い主の心理的な嫌悪感が一番大きな問題です。犬猫自身とっては、上記のような疾患が潜んでいない限りは、食糞自体が医学的な問題を起こすことはあまりありませんが、時に次のような問題を生じることがあります。
- 口臭
- 細菌、原虫、寄生虫などの感染症
- 腸内の善玉菌/悪玉菌のバランスが崩れる(よい方に傾く場合あり)
食糞 豆知識
ボーダーコリー
ダックス
シェルティ
0〜2%!
未去勢オスで少なく、去勢オスと避妊メスに多い
ペットフードで起こりやすいが、手作り食でも起こる
他の動物のウンチを選んで食べる場合が多い
食い意地が張った犬に多い
犬猫がウンチを食べるその他の理由
医学的な問題がないとわかった時点で、行動問題か十分な栄養を与えていないことが原因と診断することができます。
栄養不足
消化機能は正常でも、十分な栄養を与えていなければ食糞を起こすことがあります。ウンチだけではなく、口に入るものならなんでも食べようとする傾向があります。特に価格を抑えるために穀類や豆類などの植物性食品を主原料にしたり、低品質のタンパク質原料を使用しているペットフードを与えている場合に起こりやすくなっています。
栄養素別に見ると、チアミン(ビタミンB1)、カルシウム、タンパク質、脂質の不足で食糞が起こりやすくなります。魚の内臓にはチアミンを分解するチアミナーゼという酵素が含まれており、チアミン欠乏症を起こしやすいので気をつけましょう。
また、減量中は、カロリーは減らしてもビタミンなどの栄養は減らさないようにしましょう。
母犬・母猫
母犬や母猫が生まれたばかりの自分の子のウンチを舐めとって綺麗にするのは正常な行動です。清潔な状態を保つための行動と考えられています。
子犬・子猫
母親が糞の始末をしなかったり、母親から早く引き離されたりした場合、食べてよいものとよくないものの区別がつかず、食糞をするようになることがあります。質の悪い大量生産型のペットショップやブリーダーから引き取った場合は、栄養不良や劣悪な衛生状態で育てられている可能性があります。また、成長期には興味本位で周囲のものをなんでも口にするのが普通です。このときに味をしめて、クセになってしまう場合もあります。ウンチをしたらなるべく早く片付けてあげましょう。
行動問題
- トイレのしつけが厳しすぎた場合。証拠隠滅のために自分の糞尿を食べてしまうことがあります。
- 多頭飼いで他の動物のウンチに接触する機会がある場合やクレートに入れられている時間が長い場合。清潔を保つ、退屈しのぎ、ストレス解消などが理由で食糞がくせになる場合があります。多頭飼いの場合は、食糞をしている子ではなく、糞を食べられている子の方が消化器障害を起こしていたこともありました。つまり、食べ物が消化されずに糞と一緒に排泄され、他の子がそれを見つけて味をしめていたというわけです。
- 飼い主の気を引こうとしている場合。自分がウンチを食べるたびに飼い主が大声を出すのを注目してもらっているのと勘違いし、この行為を繰り返すようになる場合があります。
食事を改善すること、飼育環境の清潔を保つこと(糞はすぐ片付ける)、しっかり運動させること、しつけのやり直しなどの方法で治すことができます。食糞を叱ると、隠れてやるようになり、ますます治すのが難しくなるため気をつける必要があります。しつけの専門家に相談するのもよい方法かもしれません。
在宅治療プラン
食糞以外に特に問題がない場合は、病院で検査を行う前に次のような方法を自宅で試してみることができます。飼育環境の改善やしつけのやり直しと合わせて行うとよいでしょう。
原因を突き止めるために1つずつ試していくこともできますが、反応がみられるようになるまでに数週間以上かかる場合があります。また、食事や水に混ぜるタイプの食糞防止剤が売られていますが、効果が非常に低いことと、健康を害する成分が使用されていることが多いためおすすめできません
- 内臓肉を活用
レバー、ハツ(心臓肉)、マメ(腎臓肉)などの内臓肉は天然のビタミン・ミネラル剤です。体重 1 kgあたり1 gずつを目安にペットフードや手作り食に毎日加えてみましょう。比較的安く購入できるため、お財布にも優しい選択肢です。生か軽く加熱して与えます。生で与える場合は、必ず注意事項を確認してください。
内臓肉給与ガイド- 骨つき肉を与える
牛や羊、鶏の骨はカルシウム、亜鉛、銅、セレン、鉄などのミネラルを自然に一番近い形で補給することができます。さらに骨をかじることがストレス発散や暇つぶしになるため、ウンチに興味を示しにくくなります。生で与える必要があり、誤飲などの事故を起こす可能性があるため、必ず骨給与ガイドを読んでから与えるようにしてください。
骨給与ガイド- サプリメント
内臓肉や骨つき肉の使用に抵抗がある場合は、サプリメントを利用しましょう。特に次のもので効果が出やすくなっています。
特に効果が出やすいのがビタミンB群です。水溶性なので多めに与えても大丈夫です。ただし、吸収障害がある場合にはサプリメントでは改善しません。基礎疾患を治療するか、注射剤で与える必要があります。
これらに加えて、腸の状態を整え、炎症を抑えるために次のサプリメントも一緒に与えるとよいでしょう。用量などの詳細についてはそれぞれのリンクをクリックしてください。
- タンパク質量をアップ
ペットフードの場合は、動物性のタンパク質原料(肉・魚)が豊富で炭水化物原料(小麦、米など)ができるだけ少ないものを選びましょう。犬猫は人間よりも炭水化物の処理能力が低いため、胃腸に負担をかけて消化吸収障害を起こすことが非常に多くなっています。手作り食の場合も、肉や魚、卵の量を増やして、炭水化物食品を少なめにしてみましょう。
- グルテンとレクチンをカット
腸の炎症や食物アレルギーを起こしやすくするグルテンやレクチンを食事から除きましょう。
- 内服薬をチェック
抗生物質、ステロイド、非ステロイド系鎮痛薬(NSAID)、胃酸抑制剤などの医薬品も消化吸収障害を起こしたり、腸内細菌叢のバランスを崩す原因になります。かかりつけの病院で、本当に必要かどうか、他の方法はないか見直してもらいましょう。
漢方薬
医学的な問題が原因で起こる食糞には漢方薬も効果があります。漢方医学では、食糞は脾気虚(消化吸収障害)の症状と考えられています。犬猫の脾気虚は、炎症性腸炎、膵外分泌不全などの消化吸収障害や食物アレルギー、リンパ管拡張症、脂肪肝、小肝症、炭水化物の多い食事などに伴ってみられることが多く、食糞のほか、食欲がない、疲れやすい、肥満または体重低下、慢性的な嘔吐や下痢、軟便、草を食べる、嘔吐物や便に未消化の食べ物が混ざるなどの症状を特徴とします。食糞以外の症状はなく、血液検査でアルブミン、グロブリンまたはコレステロールの若干の低下がみられる場合もあります。
食糞には次のような漢方薬を使用します。
- 胃苓湯(いれいとう):上記の症状が1〜2個以上認められ、寒がりの場合。
- 逍遥散(しょうようさん):上記の症状が1〜2個以上認められ、暑がりの場合。
- 三仁湯(さんにんとう):上記の症状が1〜2個以上認められ、どちらかというと暑がりな場合。特に炭水化物原料の多いペットフードを食べている猫で効果がある。明らかに寒がりな場合は胃苓湯、暑がりな場合は逍遥散を選ぶ。
- 補中益気湯(ほちゅうえっきとう):軟便・下痢ではなく、便秘がちな場合に使用。暑がりと寒がりの両方に使える。
- 六君子湯(りっくんしとう):この中では胃腸機能を高める効果が一番高く、食欲不振や貧血、全身性の衰弱が顕著な場合や消耗性の慢性疾患がある場合に使用。
まとめ
- 食糞は主に胃腸機能障害、栄養不足、行動(しつけ)問題の3つが原因
- 栄養の改善やしつけのやり直しで治らない場合は医学的問題を考慮
- 食糞以外の症状や行動にも着目すると診断に役立つ
- 漢方薬は胃腸機能を補うことで食糞に効果を発揮する
- Hand MS, Thatcher CD, Remillard RL, Roudebush P, Novotny BJ: Small Animal Clinical Nutrition, 5th edn. Topeka, Kan, Mark Morris Institute (2010).
- National Research Council (.S.). Ad Hoc Committee on Dog and Cat Nutrition: Nutrient Requirements of Dogs and Cats, Rev edn. Washington, D.C., National Academies Press (2006).
- Hart BL, Tran AA, Bain MJ. Canine Conspecific Coprophagia: When, Who and Why Dogs Eat Stools. ACVB/AVSAB Veterinary Behavior Symposium 2012, San Diego, CA.