漢方医学の考え方を毎日の健康管理に生かす
陰陽は漢方医学のもっとも基本的な考え方の一つです。陰と陽、正反対のものが互いに作用しあいながら、流動的に自然や生命のバランスをとっていると考えます。私たちを取り囲む空間も私たち自身も陰陽で成り立っています。
陰と陽は相反する性質を持っていますが、別々に二分されたものではなく、表裏一体くっついた状態でお互いを必要としながら存在しています。常に押し合いへし合いしながら、陰が陽になり、陽が陰になり、陰の中に陽が生まれ、陽の中に陰が生まれを繰り返し、この繰り返しによって動きや成長といった生命活動が生まれます。陰と陽が完全に離れた状態になると、それは生命の終わりを意味します。
健康を維持し長生きする秘訣は陰と陽のバランスを良好に保つこと。どちらかが強すぎても、弱すぎても不調が生じやすくなります。
陰陽を見分ける
陰が陽よりも強い犬猫は、動きがゆっくりとしていて内向的な子が多く、暖かい場所や食べ物を好む、手足や耳の先が冷たいといった寒の症状を示します。冬よりも夏の方が元気なタイプ。皮膚や被毛はしっとりとやわらかい反面、唾液が豊富で、目やになどの分泌物が出やすいといった悩みがあることも。全体的に疲れやすく、消化器が弱い傾向にあります。ウンチはやわらかめで、尿は色が薄くて量が多いかもしれません。また、年をとるにつれて陽が減っていくため、高齢動物では陰の症状が目立つようになるのが普通です。
陽が陰よりも強い犬猫は、活発でキビキビとしているのが特徴です。でも度を過ぎると無駄吠えや攻撃性、落ち着きのなさとなって現れることがあります。暑がりで水をよく飲み、舌が赤く、脈も早いことが多いです。夏が苦手で、冬になると活発になるかもしれません。乾燥症状が目立ち、皮膚や被毛の乾燥、量が少なくて濃いおしっこ、硬くて水分のないウンチや便秘などがみられます。若い犬猫は陽が強い傾向にあります。
みなさんの愛犬や愛猫に当てはまるものはありましたか?
どれも特に当てはまらない、つまり陰と陽の中間にあるのが理想的な状態です。つまり、適度に元気で、きれいなピンク色の舌をしており、寒がりでも暑がりでもなく居場所や姿勢を変えるだけで気温の変化に対応でき、おしっこもウンチも健康的な状態。このバランスのとれた状態を「中庸」と呼びます。
陰と陽、どちらかの特徴が特に多くみられるようなら、普段の生活でバランスをとるようにしましょう。陰と陽は常に周囲の環境の影響を受けて変化をしていますから、食事などの生活習慣で変えていくことができます。陰と陽のバランスをとることが、病気を未病の状態で抑え、老化を遅らせることにつながります。
陰タイプと陽タイプの日常管理
陰は陽で打ち消し、陽は陰で打ち消すというのが基本の考え方です。
陰タイプの犬猫は、寒がりで水分が多いことが特徴です。乾燥した暖かい寝床を用意してあげましょう。毎日適度な運動を行うことで熱を作り出すと、自分で体を温めることができるようになります。食事は温めてあげるのが基本。陽タイプの食材を旬に合わせて取り入れ、生よりも軽く加熱調理してあげたほうがいいでしょう。ペットフードの場合は、エアドライやフリーズドライのものがおすすめ。
陽タイプの犬猫は、暑がりで乾燥し、活動が亢進していることが特徴です。涼しい時間に運動させ、静かで落ち着いた環境で心身ともに十分にクールダウンさせる必要があります。常に新鮮な水を用意し、いつでも飲めるようにしておきましょう。犬猫用の電解質溶液やカリウムの豊富なココナッツウォーター(無添加)を薄めて水に混ぜると、体内に水分が行き渡りやすくなります。このタイプの子にはローフード(ナマ食)がとてもよくあっています。陰タイプの食材を旬に合わせて取り入れるとさらに効果が感じられます。一般のペットフードやペット用療法食は過度な加熱や加工が行われているため、余計に体を熱くします。素材を損なわない製法の缶詰やレトルトを選ぶようにしましょう。
陰陽の科学
陰陽について実際に臨床現場で説明するときには、理解しやすいよう西洋医学の用語に置き換えることがあります
例えば、陰はホルモンやサイトカインなどの生理活性物質を含む組織液として、陽は代謝熱や代謝過程、各種臓器の機能、遺伝子の発現として説明できます。実際に何に例えるかは病気の種類によって異なりますが、要するに陰は陽が正常に機能しつづけるための物質を提供し、陽はこれらを受け取って熱やエネルギーを作ったり、器官を動かして機能させるというのが基本的な考え方。陽が働かなくなると陰の素となる物質が作り出されなくなり、陰がなくなると陽が機能しなくなります。
陰と陽が相互作用と相互依存の関係にあり、どちらかが欠けたり過剰に働いたりしても病気の原因になるということがわかるでしょうか。
陰タイプの動物は代謝が低下気味、陽タイプの動物は代謝と酸化が亢進しやすい
また、陽をATPや熱を生み出す酸化過程、陰はその結果の酸化状態を打ち消す抗酸化作用と考えるのもわかりやすいかもしれません。実際に、陰を補う漢方生薬の多くが陽作用のある生薬よりも高い抗酸化作用を示すことが報告されています。
陰と陽のバランスの崩れが目立たないうちに日常の生活の中で補正をしていくのが理想的です。毎日の小さな積み重ねが数年後に大きな違いとなります。食事や生活習慣を変えても陰陽のどちらかにどんどん傾いてしまう場合や、すでに病気として現れている場合は漢方薬や鍼灸が役に立ちます。
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