慢性腎臓病(腎不全)は高齢の犬猫に多い病気です。腎臓病の始まりは、SDMAやクレアチニンといった血液検査値の異常や尿量の変化が現れた時ではありません。実際にはその何年も前から始まっています。シニア期に入ったら腎臓を保護するハーブや漢方薬を取り入れて積極的に予防を行いましょう。
加齢に伴う腎臓の機能の低下には、腎臓の血流量の低下や慢性炎症、腎組織の線維化が大きく関わっています [1]。年をとり、腎臓への血液の流れが滞るようになると、腎臓の維持や機能に必要な栄養素や酸素、水分を届けることができなくなり、腎臓の細胞の寿命を早めてしまうことは容易に想像できますね。若いうちは細胞を再生することも可能ですが、年齢が進むにつれ再生能が低下し、死んでしまった細胞の隙間を埋めるために結合組織が蓄積して正常な細胞を徐々に置換していきます。これを「線維化」と呼びます。慢性炎症も細胞を障害すると同時に線維化を促進。線維化の進行により血流がますます阻害されて負のスパイラルに陥ると、外的な因子が加わることなくひとりでに腎臓の機能低下が進み、やがて腎臓病と診断されるにいたります。
ハーブは、このように目に見えないところで進行している腎臓のダメージにさまざまな段階で働きかけることにより、発症や進行を遅らせるのに役立ちます。
- 体を温めて全身の血行を改善する
- 腎臓への血流を促進
- 血液の産生を助けて血液量を維持
- 体液量を維持して腎臓の水和状態を保つ
- 炎症や酸化ダメージから腎臓を保護する
- TGF-βやエンドセリン-1などの炎症・線維化促進因子を阻害
- ミトコンドリアの機能を高めて細胞寿命を維持
- ACE阻害作用により血管収縮を防ぐ
漢方薬
八味地黄丸(はちみじおうがん)
名前の通り8種類の生薬を含む漢方薬で、冷えの傾向がみられる犬猫におすすめです。特に寒がりでも暑がりでもなく、どの漢方薬を選んでいいのかわからない場合には、まずはこちらを使ってみましょう。使用してみて暑がるなど”熱”の症状が出てきたら、六味地黄丸に切り替えます。BUNやクレアチニンがすでに上昇している場合にも使うことができます。
作用
- 腎臓を温めると同時に潤す
- 腎臓の機能を助け、全身循環を整える
- 高齢期に多い乾いた咳を鎮める
- 抗炎症・抗酸化
- 腎血流量(糸球体濾過量)を改善
- 腎高血圧を予防
- 低酸素状態から腎組織を保護
- 蛋白尿・尿毒症を軽減
寒がり/暖かい場所を好む 下半身(足腰)が弱ってきた
多飲多尿 尿失禁や夜の排尿が増えた
六味地黄丸(ろくみじおうがん)
こちらは、どちらかというと暑がりの傾向がある犬猫におすすめです。八味地黄丸から温める作用のある2種類のハーブを除いたものです。
作用
- 潤いを補うことで熱を冷ます
- 腎臓の機能を高め、全身循環を整える
- 抗炎症・抗酸化
- 腎血流量を改善
- 腎臓組織の損傷を防ぐ
暑がり/涼しい場所を好む 水をよく飲む 食欲が増えた
夜落ち着きがない 皮膚や被毛が乾燥気味 下半身(足腰)が弱ってきた
知柏地黄丸(ちばくじおうがん)
非常に暑がりで、攻撃性や目の赤みといった”熱”症状が顕著な場合には、こちらを使用します。六味地黄丸に熱を冷まして潤いを守るハーブ2種類が加えられています。
作用
- 潤いを補う
- 腎臓の機能を高め、全身循環を整える
- 全身の熱を冷ます
暑がり/涼しいところを好む 水をよく飲む
イライラ・攻撃的・不安症などの行動問題がある
夜落ち着きがない、不眠症 目が血走っている 視力が落ちてきた
皮膚や被毛が乾燥してかゆがる 下半身(足腰)が弱ってきた
神経症状や記憶障害が気になる
暑がり/涼しい場所を好む 水をよく飲む 食欲が増えた
夜落ち着きがない 皮膚や被毛が乾燥気味 下半身(足腰)が弱ってきた
ハーブ(生薬)
単剤のハーブで腎臓を保護する効果が高いものはこちらです。地黄系漢方薬とも併用できますし、腎臓以外の病気で治療中だけど腎臓もケアしたいときにもおすすめです。漢方薬とは違い、体質や向き・不向きに関係なく使用することができます。特に効果が高い2種類を選びました。
冬虫夏草(とうちゅうかそう)
- 用量:体重 1 kg あたり菌糸体粉末として25〜75 mgを1日1〜2回。犬猫用の製品の場合は、使用説明書に従う。
急性感染がある場合には使用しないようにしましょう。野生の冬虫夏草は絶滅危惧種であるため、近縁種や人工培養物が使用されていることが多く、製品によって成分や品質が大きく異なることが報告されています。品質が信頼できる会社から購入するようにましょう。
また、熱産生を促す作用があるため、暑がりの症状が気になる場合は、冬虫夏草だでけなく、霊芝やマイタケなど、他のキノコを数種類合わせたサプリメントがおすすめです。
霊芝(れいし)
- 用量:乾燥粉末の場合は25〜120 mgを1日2回、乾燥濃縮粉末の場合は10〜25 mgを1日2回、チンキ剤の場合は2〜5滴を1日3回与える(いずれも体重1 kgあたりの量)。犬猫用の製品の場合は、使用説明書に従う。
このほか、オタネニンジン、アストラガルス、ミルクシスル(マリアアザミ)なども腎臓病に効果があることが報告されています。ご自分でお使いの場合は、ぜひ、ワンちゃん猫ちゃんにも分けてあげましょう。
漢方薬・ハーブ以外にもできること
オメガ3脂肪酸
魚に多く含まれるオメガ3脂肪酸は、腎臓病の犬や猫の生存期間を延長することが報告されており、全身の炎症を抑制し、血行を改善する作用があるためと考えられています。腎臓に限らず、関節炎や膀胱炎、皮膚病、がんといったさまざまな病気の予防にも役立つため、若いうちからの摂取がおすすめです。» 投与量を確認する
ビタミンE、セレン、ビタミンCといった基本的な抗酸化成分も忘れずに。
炎症の素を断つ
炎症の原因を取り除くことも大切です。犬と猫の場合、歯石や歯周病、カロリー密度が高く過度に精製された食事、受動喫煙、大気汚染、腎毒性のある食べ物や薬剤、農薬などが炎症の原因として挙げられます。
特に猫ちゃんでは、水分の少ないドライフードも腎臓病の原因になることがわかっています。本物の食べ物を使い、犬猫本来の食性にあった新鮮な食事は、炎症を起こしにくいだけでなく、水分も多く取ることができます(肉、魚、野菜などの半分以上は水分です)。
適度な運動とブラッシング(マッサージ)で血行を促進
高齢になるとどうしても不活発になりやすくなりますが、毎日の運動で筋肉量を保ち、全身の循環を促すことは非常に大切です。特に、体表の血管が収縮して血行が妨げられる冬に注意しましょう。ブラッシングやマッサージで血行を促すことも効果的です。
薬膳食材を取り入れる(腎臓には腎臓を!)
腎臓を温める
- 腎臓肉
- ラム肉、鹿肉、ヤギ肉
- タラ、カレイ、ロブスター、えび、ムール貝
- バジル、ローズマリー、フェネルシード、フェヌグリークなど
腎臓を潤す
- 腎臓肉
- 豚肉、鴨肉、卵
- 牡蠣、スズキ、カツオ
- アスパラガスなど
一番のおすすめは、エリスロポエチンなど腎臓に重要な生理活性物質を多く含んでいる腎臓肉(マメ)です。体重1 kgあたり1〜5 g 程度を毎日の食事に加えるとよいでしょう。ただし、腎臓は排泄器官でもあり、体外へ排泄されるべき物質も含んでいます。健康によいからといって与えすぎないよう注意しましょう。
血液検査や尿量に変化が現れる前にサインをキャッチ!
血液検査や尿検査で異常が現れたり尿量が変化する前に、次のようなサインが現れることがあります。
- 舌が腫れぼったい
- 運動後や午前中に元気がない
- 後ろ足が冷たい
- 後ろ足が震えたり、力が入らないことがある
- オリモノが増えた(雌)
- 尿失禁するようになった
- 上半身が下半身と比べて熱い
- 寒がりまたは暑がりになった
- 夜落ち着きがない、眠らなくなった
- 目が赤く血走っている
- 攻撃的で短気になった
- 食事を変えていないのに、ウンチが乾燥して硬くなったり逆に緩くなることが多くなった
- 乾いた咳をするようになった
- 毛が薄くなってきた
- Lawson J, Elliott J, Wheeler-Jones C, Syme H, Jepson R. Renal fibrosis in feline chronic kidney disease: known mediators and mechanisms of injury. Vet J. 2015 Jan;203(1):18-26.