犬と猫の関節炎を大きく分けると、湿気の多い梅雨から暑い夏にかけて痛みが激しくなるタイプと、秋から冬に悪化するタイプがあります。寒い季節に痛みが強くなるのは炎症ではなく、「冷え」が進むことによって新陳代謝が低下し、血行が阻害されたり、体液がたまりやすくなるために起こることがほとんどです。抗炎症鎮痛薬(リマダイルなどのNSAID)を再開したり増量する前に、体を温めるハーブや漢方薬を試してみましょう。
漢方薬
漢方医学では冬に痛みが悪化する病態を寒痺(かんぴ)と呼びます。冷えによりエネルギーや血液の流れが停滞して起こる症状です。決まった場所に痛みが現れ、温めたり動いたりすると軽快し、患部は熱をもっていないことが特徴です。
普段から寒がりな犬猫や水分循環が悪い”水太り”タイプの犬猫は、特に冷気の影響を受けやすく、寒痺になりやすい傾向があります。
高齢の犬と猫では、腎臓の弱り(腎虚)が原因となっていることもよくあります。この場合もやはり寒い季節に痛みが現れやすいのですが、運動の後に悪化し、休むと軽快するという寒痺とは逆の傾向を示します。患部も局所的ではなく、後ろ足や腰椎など、後躯全体に波及していることが多いでしょう。
いずれの場合も、毎日の食事やハーブ、漢方薬で冷えにくい体を作り、痛みを改善していくことが目標です。
独活寄生湯(丸)は、冷えによる血行不良を改善し、関節周囲に血液と血液に含まれる栄養分を十分に行き渡らせることで、関節の痛みを改善してくれるお薬です。16種類の生薬が「体の冷えを取り去る」「抹消の血液とエネルギーの流れをスムーズにする」「温める」「気血を補う」「腎臓を助けて冷えに強い体を作る」といったさまざまな角度から包括的に冬の痛みにアプローチ。寒痺と腎虚のいずれにも使用することができますが、特に寒痺に効果を発揮します。独活、当帰、桂皮(シナモン)、牛膝など、配合されている複数の生薬に天然の鎮痛効果があることが人や動物の研究で報告されています。
- 気血を補う
- 抹消への気血の流れを促進し、痛みの原因の滞りを解消
- 寒邪・湿邪・風邪を取り去る
- 腎臓や肝臓の弱りを補う
- 腱や骨を強化する
- 体を温める
- 冬や雨の日に悪化する関節炎や頚部痛
- 高齢の犬猫の変形性骨関節症
- 加齢に伴う下半身の痛みや弱り
- 変性性脊髄症による痛みなど
寒がり・暖かい場所を好む 冷えまたは湿気により痛みが悪化する
朝起き上がれない 四肢の先が冷たい 夢をよくみる
いつも同じところを痛がる 患部を触られるのを嫌がる
暑い季節に痛みが悪化する 患部が熱をもっている
薏苡仁湯は、関節に水がたまりやすく、胃腸の弱りが気になる犬猫におすすめです。体を温めるというよりは、体の中の冷えの原因となる水分の貯留を取り去ることで、冷えに強い体を作ってくれます。
薏苡仁(ハトムギ)には、冷気の侵入を防止すると同時に、配合成分の桂枝(シナモン)と芍薬がもつ血行促進+鎮痛作用を強める効果があります。効果が出るまでに数週間かかることがあるので(特に高齢の場合)、寒さが本格化する前から使用を開始するといいでしょう。
- 弱った胃腸を助けることで気血を補い、循環を促進
- 関節のむくみをとる(利尿)
- 水分の流れを促進し、痛みの原因の滞りを解消
- 寒邪・湿邪・風邪を取り去る
- 寒い日や雨の日に悪化する前肢または後肢の関節炎
- 慢性化した変形性骨関節症や腰痛
- 加齢に伴う関節のこわばり
寒い日や雨の日に悪化する 特に朝元気がない 食欲不振
運動後に改善することがあるが、泳ぐと悪化する
寒さで震えていることがある
関節は腫れていて、熱をもっている場合ともっていない場合がある
暑い季節に痛みが悪化する 脱水症状を起こしやすい
高齢期に多い腎臓の冷えからくる冬の関節痛には、「右帰丸」や「小活絡丹」などが効果的ですが、日本では入手しにくく、急性期にしか使用ができないため、日常的なケアには八味地黄丸がおすすめです。下半身を温めることで、全身の循環や寒熱のバランスを整え、関節炎、腰部痛、後肢の弱りや筋肉の衰え、腎機能の低下、夜尿症といった高齢期に多い下半身の症状に総合的に働きます。
- 腎臓を温めて機能を助ける
- 潤いと血液を補う
- 下半身を温めて潤すことで上半身の熱をとる
- 後躯の弱り(関節炎、後躯麻痺、筋肉のこわばりや萎縮、脊髄症、尿失禁など)
- 慢性腎臓病の諸症状(多飲多尿、尿毒症、嘔吐、食欲低下、体重減少)
- 上半身は熱く、下半身は冷えが気になる上熱下寒(夜落ち着きがない、尿量が増える、認知障害など)
寒がり/暖かい場所を好む 休むと症状がよくなる
高齢で腎臓の健康が気になる
暑がり/涼しい場所を好む
漢方薬やハーブを使用する前の注意事項用量・用法・上手な飲ませかた
漢方薬を数週間使ってみて効果が感じられたら、消炎鎮痛剤(NSAID)の量を減らしていくことも可能です。歩き方や毎日の活動量、運動の時間、痛みのサイン、食欲などを記録し、なるべく客観的な判断を行うようにしましょう。かかりつけの動物病院で痛みの軽減効果を判定してもらい、NSAIDの処方を調節してもらうのもよい方法です。
ハーブ・ホメオパシー
ラス・トックスとも呼ばれるホメオパシーレメディ。寒く湿度の高い日に症状が悪化し、軽い運動を続けていると軽快する場合に向いています。30Cを1日2〜3回から開始し、効果が現れたら回数を減らして維持。投与が長期化し、効果が感じられなくなってきたらライコポディウムに切り替えることができます(最小量で維持すること)。
季節や体質に関係なく、関節炎の疼痛と炎症の抑制に使用されているハーブです。
効果が感じられるまで2〜3週間かかることがあります。胃酸分泌を促進するため、胃潰瘍の既往がある場合は使用を避けましょう。体重 1 kg あたり乾燥末20〜40 mgを1日2回。
こちらも季節性や体質に関係なく使用することができます。関節の炎症と痛みを抑えると同時に、リンパや血液、水分の流れを促して関節から炎症物質や老廃物を運び去るのを助けます。アーユルヴェーダでは、クルクミン(ターメリック)と一緒に使用。
リマダイルなどのCOX系を阻害するNSAIDは、炎症を解消する物質(レゾルビンなど)の生成も抑制してしまうため、いつまでも炎症がおさまらない悪循環を引き起こしますが、ボスウェリアとターメリックはLOX系を介して鎮痛作用を発揮するため、炎症を遷延化させることがありません。
乾燥末の場合は、体重 1 kgあたり50〜150 mgを1日3回。乾燥濃縮エキスの場合は体重 1 kg あたり20 mg 1日3回を目安に。
このほか、体を温めたり、血行を促進するハーブとして、プリックリー・アッシュ・バーク、ジュニパーベリーなどがあります。
ホワイトウィローバーク(白柳の樹皮)はアスピリン様の効果があり、人で鎮痛薬の代わりに使用される人気のハーブです。犬や猫にも使えるか聞かれることが多いハーブのひとつですが、犬猫はアスピリンやアスピリン類似物質への耐性が低く(特に猫)、副作用を起こしやすいことが知られています。専門医に処方されたのではない限り、使用は避けた方がよいでしょう。
漢方薬・ハーブ以外にもできること
鍼治療やお灸は、血行を改善して痛みの元の「詰まり」をとるのに非常に効果的です。施術部位によっては、神経回路を介して直接の鎮痛効果が得られることがあります。近くに専門病院があったら相談してみましょう。複数回または定期的な施術が必要ですが、漢方薬や食事による体質の改善を合わせて行っていくことで、徐々に頻度を減らしていくことができます。トリガーポイントを教えてもらうと自宅でのマッサージにも役立ちます。
運動後に痛みが軽くなる場合は、適度な運動や散歩が効果的ですが、運動によって痛みが増す場合は、ブラッシングやマッサージがおすすめです。全身の血液やリンパ液の循環を促すことが目的なので、触ると痛がる患部は無理にマッサージをする必要はありません。患部が冷たい場合は、手のひらなどで優しく温めてあげましょう。大好きな家族に触ってもらうことは、鎮痛効果のあるエンドルフィンの分泌を促すだけでなく、冷気によってこわばった筋肉をリラックスさせ、血行を回復する効果があります。
寝る場所や長い時間を過ごす場所が冷気に晒されていないか確認しましょう。冷たい床に寝かせるのはNGです。暑くなりすぎたらすぐに移動できるよう毛布や潜れるベッドがおすすめ。嫌がらなければ腹巻きも腎臓を温めるのに効果的です。散歩に行くときはセーターやサポーターを活用するといいでしょう。
魚に多く含まれるオメガ3脂肪酸は、血行を改善する作用があるほか、全身の炎症を抑制して、疼痛の経路にも働くことがわかっています。さらに関節内では、関節の構成成分を分解する酵素を抑制し、関節の変性を遅らせます。
オメガ3脂肪酸の中でも特に効果を発揮するのは「DHA」と「EPA」です。» 投与量を確認する
オメガ3脂肪酸 (n-3)そのほか、関節の保護効果や消炎鎮痛作用がある機能性成分として、グルコサミノグリカン、グルコサミン、コンドロイチン、MSM、SAMe、ブロメライン、dl-フェニルアラニンなどがあります。オメガ3脂肪酸とともに犬猫の関節炎の標準治療として取り入れている病院が多いので、まだ使用していない場合はかかりつけの病院に相談してみましょう。
体を温めて血行を促し、抗炎症効果や軟骨を破壊する酵素の産生を抑制する作用が報告されています。
- 腎臓肉
- ラム肉、鹿肉、ヤギ肉
- タラ、カレイ、ロブスター、えび、ムール貝
- バジル、ローズマリー、フェネルシード、フェヌグリークなど