獣医師による手作り食・自然療法ガイド

クイズ!たんぱく質の必要量は加齢とともに減る?増える?

解説

みなさんは正しく答えられましたか?

「年をとったらタンパク質を制限する」というのは犬猫の栄養に関する大きな誤解のひとつです。実際には、高齢期のタンパク質必要量は若い頃よりもやや増えます

タンパク質は、筋肉や皮膚、被毛、内臓などの体の構造を作っているだけでなく、血液の血管外漏出を防いだり、赤血球や白血球、その他の免疫細胞、抗体、ホルモン、サイトカイン、消化酵素などの原料として体のありとあらゆる生命活動を支えています。細胞の分裂や遺伝子の発現にも欠かすことができません。エネルギーや酸素と同じくらい体にとって重要な役割を果たしており、炭水化物や脂質で代用することができない物質です。

体内のタンパク質は絶えず分解と合成を繰り返していますが、年をとると合成能が落ちてきます。何も対策を取らなければ、赤血球数が低下して少しずつ貧血が進行し、酸素や栄養を十分に受け取ることができなくなった筋肉や臓器の細胞から徐々に活動が停止していきます。白血球など免疫に必要な細胞や物質が減れば、免疫力が低下し、感染症、がん、骨関節症などさまざまな病気にかかりやすくなります。

これに加えて消化力も弱ってくるため、与えられたすべてのタンパク質を消化吸収することもできなくなります。

このような状態でタンパク質の給与量を減らすとどのようなことが起こるでしょうか。生体は、食べ物として体内に入ってくるタンパク質(アミノ酸)が不足すると、体組織のタンパク質を分解して必要な物質を作ろうとします。その結果、同化(合成)ではなく異化(分解)が亢進した状態になり、筋肉量や体の抵抗力がますます落ちていきます。

つまり、年とともに低下しやすくなる合成能や消化力を補いながら筋肉や赤血球、ホルモン、免疫細胞などをきちんと作り続けるには、若い頃よりもやや多めにタンパク質を与える必要があるのです。

タンパク質をなるべく少なくしたいという方の多くは、高齢の犬猫に多い慢性腎不全を恐れているようです。でもタンパク質を制限すれば腎臓病を予防できるというのも実は大きな誤解です。これは今ほど知識がなかった時代に人やラットなどの雑食動物の研究結果をそのまま肉食動物の犬や猫に当てはめてしまったことと、腎臓病の末期におこる尿毒症の症状を緩和するためにタンパク質制限が必要になることを「タンパク質を制限すれば腎臓病にならない(または悪化させない)」と間違えて解釈している獣医師やペットフード会社が非常に多いためでしょう。

現在ではタンパク質が腎臓病の原因ではないことも、病気を進行させることがないこともわかっています。それどころか、あまりに早いうちにタンパク質制限を行うと、上で説明したように体組織の分解が進行し、悪液質に陥りやすくなることがわかっています。

高齢だからといってたんぱく質を制限するのはもう古い!

タンパク質の制限が必要になるのは尿毒症の症状が出ている進行した腎臓病や肝障害などの一部の疾患に限られます。単に「高齢だから」という理由だけでタンパク質量を減らすことは、犬猫の生命の維持に必要な物質の枯渇を招き、筋肉萎縮を起こして、かえって寿命を早めることになるので気をつけましょう。