獣医師による手作り食・自然療法ガイド

生肉中心の食事は犬の腸内環境を改善

手作り食にしたらウンチがキレイになった!という声を飼い主の方々からよく聞きます。腸内環境が整うためと考えられていますが、実際に犬や猫の腸にどのような変化が起きるのか科学的に証明した研究はほとんどありません。これは、手作り食を推奨している獣医師のほとんどが大学や大手ペットフード会社などの研究設備が整ったところではなく、民間の動物病院で働いているためです。腸内環境に影響を与える因子は食事以外にもたくさん存在するため、できるだけ統一された飼育条件で研究を行う必要があるのです。

今回は、その数少ない研究の一つとして、犬に生肉中心の食事と市販のドライフードを交互に与えて腸内細菌叢の変化を検討したイタリアの大学の研究を紹介します。

論文情報

Sandri M, Dal Monego S, Conte G, Sgorlon S, Stefanon B. Raw meat based diet influences faecal microbiome and end products of fermentation in healthy dogs. BMC Vet Res. 2017 Feb 28;13(1):65.

試験方法

対象動物

健康なボクサー犬8頭(雄3頭・雌5頭)。平均年齢 4.2 ± 2.8 歳。同一のブリーダーの元で育てられているため異父母兄弟姉妹を含み遺伝的にも近い。

試験群

  • A群(4頭):市販ドッグフード2週間給与 → 生肉食2週間給与
  • B群(4頭):生肉食2週間給与 → 市販ドッグフード2週間給与

 

生肉食の内容

人用の牛肉 62% + サプリメントミックス(米粉・ひよこ豆粉・オーツ麦・人参・オメガ3脂肪酸・ミネラル・ビタミン)。NRC基準を満たすよう設計。冷凍保存後、1 食分ずつ解凍して給与。

評価方法

  • 試験開始時、2週間目の切り替え前、試験終了時に糞便を採取。
  • 糞便検査
  • 便の性状(硬さ):1 = 硬い 2・3 = 適度 4・5 = 軟便〜下痢
    • DNA検査:どの細菌が含まれいるかを確認
    • 短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸)の定量
    • 乳酸の定量
粗蛋白質 粗脂肪 粗繊維 炭水化物 カルシウム リン
ドッグフード 26.7% 10.6% 2.8% 52.7% 0.9% 0.7%
生肉食 26.2% 18.2% 0.7% 51.3% 0.7% 0.4%

結果と考察

  • 食事の切り替えにより糞便中に排泄される細菌が大きく変化。
  • 生肉食では、さまざまな種類の細菌が確認され、多様性が増していた。細菌の均等度(各細菌種の個体数の等しさ)も改善。多様性や均等度の低下は炎症性腸炎の犬で報告されており、また、多様性の低下は肥満につながることからも良い傾向と考えられる。
  • 特に連鎖球菌科、クロストリジウム(XI)科、エンテロバクテリア科(大腸菌・赤痢菌など)、フソバクテリウム属、メガモナス属などが相対的に増えており、乳酸菌については、乳酸桿菌科の相対量は低下していたが、乳酸菌の 1 種である連鎖球菌科ラクトコッカス属は増加。
  • 生肉食により糞便性状スコアが有意に低下した(便が硬くなった)。これは、消化率が向上したためではないかと推察される。
  • 糞便中の脂肪酸の総量には食事による影響は認められなかったが、乳酸濃度は生肉食で有意に高かった。酪酸濃度も若干上昇。酢酸は低下。これらの脂肪酸は、腸内細菌が食物繊維を発酵する際に生じる物質で、腸細胞のエネルギー源となり、免疫細胞の制御にも関わっている。酢酸から乳酸へのシフトは、メガモナス菌の増加と関与している可能性があり、別の研究でもイヌリンやFOS(プレバイオティクス繊維)を給与した犬でやはりメガモナス菌が増えていることから、メガモナス菌は犬の消化管の健康になんらかの役割を果たしていると考えられる。

獣医師の解説

今回の研究は腸が弱いことで知られているボクサー犬で行われていますが、食事の切り替えに時間をかけず、いきなり行なっています。それでも、生肉食を食べていた間の方が便が良好な状態でした。

その理由として、いわゆる悪玉菌になりやすい細菌群(クロストリジウム、大腸菌など)も善玉菌として働く細菌群(乳酸菌も含めて腸内細菌の多様性が高くなっており、どれか数種類の菌だけが極端に多いまたは少ないということがなくなったためと今回の研究結果から考えられます。善玉菌を増やすことだけではなく、全体のバランスが大切ということなんですね。ここでも陰と陽のバランスがしっかりと生きています。

ドッグフードの方が食物繊維の量が多かったのに菌が増えないのも面白い結果です。ドッグフードを食べている間の方が便が柔らかかったため、腸内菌が利用できずに水分を多く含んだまま排泄される繊維ばかりだったのではないかと考えられますが、食物繊維の種類の記載がなかったので理由は不明です。他の炭水化物原料や食物の腸内通過時間なども合わせて検討する必要があります。

今回の研究では、わずか2週間で腸内細菌バランスが大きく変わり、便の状態がよくなることが明らかになりました。腸内細菌叢がその後も変化を続けていくのか、それともこのまま安定するのかは、わかっていません。手作り食では、便の状態のようにすぐに変化が現れるものと、数ヶ月〜数年経って実感できるようになる違いもあるため、こういった長期的な変化にも腸が関わっているのかわかれば面白いですね。

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