油脂は犬猫の健康に欠かせない大切な栄養素です。エネルギー源として使われたり、生体の機能に欠かせない必須脂肪酸や脂溶性ビタミンのほか、複数のホルモンや胆汁酸の原料になるコレステロールを含んでいます。
オリーブオイル、亜麻仁油などの植物性のものと魚油などの動物性のものがあります。肉食動物である犬と猫は動物性油脂と相性がよく、特に動物由来のオメガ3脂肪酸であるDHAとEPA は、健康の維持だけでなく、疾患の治療にも大活躍の重要な栄養素です。ただし、動物性油脂は環境汚染や酸化などの影響を受けやすいのが問題点。選び方や使い方を知って上手に味方につけましょう。
1. 肉の脂身
お肉の脂身には脂溶性ビタミン(A・D・E)、コレステロール、コリンなどが含まれています。人では、肥満や心疾患の予防のため脂身の摂取を減らすよう勧められることが多いようですが、これは肉食動物にはあてはまりません。野生時代の犬猫にとっては貴重な栄養源でした。現在でも、がんなど糖質の摂取を控えたい病気など、さまざまな食事療法にカロリー源として使われています。
与える際には生で与えましょう。加熱すると酸化により脂肪が変性し、炎症の原因になります。特に犬では調理した脂肪で膵炎を起こすことがよくあるので注意が必要です。急に大量に与えると消化器症状を起こすので少しずつ増やすようにしましょう。
ただ残念なことに、現代の食物生産事情を考えると与えすぎないのが賢明です。家畜や家畜飼料の生産過程で使用される化学物質や薬剤は脂肪に蓄積する傾向があるためです。家畜本来の食性に合わない飼料で育てられている場合(例えば、霜降り肉を作るために牛に草以外にも穀物を与えて太らせているような場合)は、炎症性物質も蓄積します。
そのため、私たちは炎症性疾患がある犬猫には肉の脂身の給与を控えるようおすすめしています。犬猫の炎症は、膀胱炎や関節炎などの○○炎とつく病気以外にも、ジュクジュクした分泌物、臭いがきつい分泌物、嘔吐物や便中の粘液状物として現れることが多くなっています。こういった症状がある場合には、給与を控えてみましょう。肥満、免疫系疾患、アレルギーなど、炎症が関わっていると考えられる疾患でも控えることがおすすめです。代わりに、抗炎症効果の高いオメガ3脂肪酸を含む動物性オイルを与えるようにします。
- 通常は肉や鶏皮、骨髄に含まれる量の脂肪でOK。癌や肝性脳症、末期腎臓病などの食事療法で脂肪の量を多くする場合には、生の脂身を追加する。
- オーガニックでない場合は与えすぎない。
- 炎症性疾患がある場合には控えめに。低脂肪肉を主食にし、オメガ3脂肪酸で置き換える。
牛、羊、ヤギ、水牛などのバターを加熱精製したオイルのこと。澄ましバターと特徴が似ていて、精製の過程で乳糖やカゼインなどのタンパク質成分が極限まで取り除かれて乳脂肪だけが残ります。脂溶性ビタミンや共役リノール酸(CLA)、腸環境を改善する短鎖脂肪酸などがバターよりも多く、人の健康食品として大ブレーク中です。
飽和脂肪酸の割合がやや高め(>60%)で、お肉の脂身と同様に犬や猫では大量に与えると消化不良や膵炎を起こすことがあります。特に犬で注意が必要です。与える際は、オーガニックでグラスフェッド(牧草で育てられた動物由来)のものを選び、少量から試してみましょう。
重度の乳アレルギーや乳糖不耐症がある場合は要注意。純度の高いものを選ぶようにしましょう。
2. オメガ3脂肪酸
オメガ3脂肪酸は、抗炎症作用がある必須脂肪酸です。そのうち、特にDHA(ドコサヘキサエン酸)とEPA(イコサペンタエン酸)が重要な役割を果たしていますが、犬も猫も自分で十分な量を合成することができないため、食事またはサプリメントで与える必要があります。DHAもEPAも動物性油脂に多く含まれており、植物油からは摂取することができません。
健康を維持するのに最低限必要な量と治療効果を示す量には大きな差があるので注意が必要です。
体重 | 5 kg | 10 kg | 20 kg | 30 kg |
---|---|---|---|---|
必要量 | 40 mg | 70 mg | 120 mg | 160 mg |
治療に使われる量 | 100〜150 mg | 200〜300 mg | 400〜600 mg | 600〜900 mg |
上限 | 1050 mg | 1760 mg | 3000 mg | 4020 mg |
体重 | 3 kg | 4 kg | 5 kg | 6 kg |
---|---|---|---|---|
必要量 | 4.8 mg | 5.9 mg | 6.3 mg | 8.0 mg |
治療に使われる量 | 50〜150 mg |
※ DHAとEPAを合わせた量。成犬・成猫の場合(他はこちらで確認できます)。猫には上限値が設定されていません。手術を受ける場合は、1週間前から給与を停止しましょう。関節炎では犬でEPA、猫でDHAの効果が高いことが報告されており、脳神経疾患にはDHAが大切であることがわかっています。
オメガ3脂肪酸源
魚油(フィッシュオイル)
価格が手頃で一番使いやすいのが魚油です。青魚や脂肪分が多い魚を主食として週に数回利用していればサプリメントで与える必要もありません(含有量はこちらでチェック)。DHAとEPAが同じ割合か、EPAがやや多めに含まれています。
ただし、水銀などによる汚染率が高いのも魚油です。食物連鎖の上の方に行くほど、汚染物質の濃度が高くなるため、イワシやニシンなどの小さめの魚を選ぶようにしましょう。養殖魚ではなく、天然魚由来のものがベター。サバ、サーモン、マグロなどの大型魚は常用せず、週1回を目安にします。サプリメントを選ぶときにも同じ条件があてはまります。製造会社によっては重金属の除去処理を行なっている場合があるので、こういった点も考えて選ぶようにしましょう。
小さめの魚でも地域によっては、ストロンチウムが高濃度に含まれている場合があります。ストロンチウムはカルシウムと拮抗し、カルシウムの吸収を妨げて代わりに骨に取り込まれます。放射性でない場合は、骨を丈夫にする作用がありますが(人では骨粗鬆症の治療に使われています)、放射性ストロンチウムについては注意が必要です。
タラやサメなどの肝油にもDHAやEPAが含まれていますが、ビタミンAやビタミンDの濃度が非常に高いため、給与量に気をつける必要があります。
クリルオイル
クリル(オキアミ)は小型のエビのような形をした甲殻類です。魚油よりもDHAやEPAの量が少なめですが、最近では、濃縮したものも販売されるようになりました。魚よりも食物連鎖の下に位置するため、汚染の危険性が少なくなっています。
DHAの倍の量のEPAが含まれています。クリルオイルの赤い色は抗酸化効果のあるアスタキサンチンによるもの。コリンも含まれているため、トリプル効果が期待できます。
私たちも、この10年ほどクリルオイルを中心に処方してきました。犬猫のいずれでもとても良好な結果が得られていますが、近年ではサプリメントの製造を目的としたクリルの乱獲が非常に大きな問題になっています。小魚やペンギンなど、クリルを食べて生きている生物はたくさんいます。生態系に配慮した製造が行われているかも考えて製品を選びましょう。
イカオイル
生態系に配慮したクリルオイルが見つからない場合は、イカオイルもおすすめです。イカの数は増える傾向にあり、乱獲されることも少なく有毒物による汚染も少ない生物です。
ただし、EPAよりもDHAが圧倒的に多いため、卵などのEPAを多く含む食材と組み合わせて使いましょう。
貝オイル
緑イ貝などの貝類もオメガ3脂肪酸が豊富です。質の高いニュージーランド産のものが特に人気で、ペットフードにもよく使用されていますね。食物連鎖の下の方にいるので、重金属汚染は少なくなっていますが、養殖物も多いので気をつけましょう。
オイルではなく粉末やエキスとして販売されていることも多く、DHAとEPAの量が明確に記載されていないことがほとんどです。特に関節炎に効果があり、これはDHAやEPAだけではなく、グリコサミノグリカン、エイコサテトラエン酸などの他成分との相乗効果によるものと考えられています。
動物病院で処方されることが多いアンチノール(PCSO-524)は、1カプセルあたりDHA およそ5.5 mgとEPA およそ7 mgを含有。この他にオリーブオイルとビタミンEも含まれています。
藻オイル
厳密にいうと海藻は植物なので動物性オイルではありませんが、新たなDHA・EPA源としてベジタリアンの飼い主の方に人気があり、お問い合わせをいただくことが多いためこちらに加えました。
DHAの量がEPAの約2倍のものが多くなっています。重金属などの汚染も少なく、魚介類の乱獲が問題になる中、環境にも優しい選択肢といえます。ただし、遺伝子組み換えされた海藻が使われていることが多く、実際には環境によいとは言いきれません。藻オイルを購入する際は、こういった点を考えて選ぶとよいでしょう。