毛色の薄い犬猫で目立ちやすい涙やけとよだれやけ。これは、犬猫の涙や唾液中に存在するポルフィリンという鉄を含んだ色素が主な原因です [1]。ポルフィリンは赤血球の構成成分で、赤血球が合成されるときや古くなった赤血球が壊されるときに生じ、その一部が涙や唾液に分泌されます。これが毛の上に長くとどまることによって毛が赤茶色に染まってしまうんですね。日光や空気にさらされることで時間とともに少しずつ濃くなっていきます。
こまめに拭き取ってあげること、過剰な流涙や目ヤニ、流涎を抑えることが対策の基本になりますが、涙液量と唾液量は、品種、疾患の有無、全身の健康状態、環境、食事などに影響されるため、まずは特定できる原因があるかどうかを確認しましょう。
茶色っぽいときは感染の可能性あり
涙やけは、ウイルスや細菌、真菌の感染が原因になっていることがあります。色に赤味がなく茶色〜黒っぽい、ジュクジュクした目ヤニが出る、臭いがする、結膜(まぶたのフチや裏側)が充血したり腫れているといった場合は、感染の可能性が高いので、まずは病院で検査して適切な治療を行うことが先決。
唾液や涙で毛が濡れたままにしておいた場合も感染が起こりやすくなります。耳の感染がある場合にも注意しましょう。
涙やけ・流涙の理由
環境要因、品種、体質、医学的な問題が原因になっています。
環境要因
ミネラル含量の高い水
涙やけだけではなく、よだれやけも気になる場合は、まずは飲用水をチェック。蒸留水や濾過水に変えるだけで、改善することがあります。
環境アレルギー
特定の季節に涙量が増える場合は、環境中のアレルゲンが原因かもしれません。カビ、花粉、ダスト(ダニ)などに対するアレルギーは、目に現れる場合があります。環境アレルギーの対策を行うか、抗炎症・鎮静効果のあるアイマスクやアイウォッシュなどを試してみましょう。
食事
ペットフードに含まれる防腐剤などの添加物や副産物、劣化した脂質が炎症を起こしている場合があります。耳炎、肥満、膀胱炎、関節炎などの不調も併発しているかもしれません。新鮮でバランスのとれた手作り食や質のよいペットフードに変えてみましょう。炭水化物の摂りすぎも目ヤニの原因になることがあるので穀物フリー食もおすすめです。手作り食の場合は、赤血球(ポルフィリン)が多い赤肉ばかりではなく、白味魚や鶏肉など、さまざまな種類の食材をバランスよく取り入れるようにしましょう。タンパク質の量を制限する必要はまったくありません。
喫煙
タバコの煙も目を刺激し、流涙の理由になります。
品種や体質、医学的な問題
短頭種・一部の小型犬(プードルなど)
鼻ペチャのワンちゃん猫ちゃんでは、涙点や涙管の位置が変位したり、涙が鼻に流れる鼻涙管が曲がっているため、涙をうまく排出できずにあふれ出てしまうことがあります。顔のひだが目にかぶさり、毛が目を直接刺激していることもあります。さらにシーズーなど眼球が突出している場合には、目が乾燥しやすく涙の産生量が増える原因になります。
眼瞼の内反・外反、睫毛の生え方の異常
睫毛が目を刺激したり、粘膜が刺激をうけることによって涙が増加します。やはり短頭種に多いのですが、短頭種以外でもみられる形態学的な異常です。
瞬膜の突出
一部の犬種や疾患にともなってみられることがあります。瞬膜(目の鼻側にある膜)がいつも露出した状態になると炎症や感染を起こし、涙や目ヤニが多くなります。
涙管の閉塞
一時的に涙管が閉塞しているだけかもしれません。このような場合は、病院でフラッシュしてもらえば解決できます。
ドライアイ
ドライアイになるのは人間だけではありません。特にマイボーム腺からの脂質の分泌が低下して起こるドライアイでは、涙を目の表面にとどめておくことができないため、涙が皮膚へと流れて毛を染めてしまいます。放っておくと角膜が乾燥して傷つく場合があるので、1度検査しておくと安心です。脂質分泌量が正常でマイボーム腺が詰まりやすいだけの場合は、1日数回まぶたを温めると脂質が柔らかくなり分泌されやすくなります。脂質分泌が足りていない場合は、油性点眼剤をまぶたの縁に薄く塗ります。ココナッツオイルなど、刺激性の少ない硬めのオイルも使うこともできます。水を弾く油を塗ることで、涙の流出を防ぐ効果があります。
虹彩萎縮
目の瞳孔が開きっぱなしになってしまう状態で、目の中に入ってくる光を遮ることができないため、光が刺激となって流涙や目ヤニが増えることがありますます。品種(プードル、ダックスなど)、年齢、長期の抗生物質点眼などが理由と考えられていますが、緑内障や水晶体脱臼などの深刻な病気が隠れている場合もあります。明るいところを嫌う、日中に目を細めているなどの症状がある場合は検査してもらいましょう。
血虚(血液中の養分が足りない)や陰虚(体液が足りない)でドライアイや虹彩萎縮が起こりやすくなります。血虚には「明目地黄丸」とレバー(体重の0.1%の量)、陰虚には「杞菊地黄丸」と腎臓肉(体重の0.1%の量)などを組み合わせます。どちらかわからない場合も多いので、ご自宅で試してみたい場合は、どちらか一方を使ってみて症状が改善するかどうかで決めることができます。(漢方薬の用量はこちら・使用上の注意はこちら)
よだれやけ・流涎の理由
歯石・歯肉炎
唾液量が多くなる一番の原因は歯石や歯肉炎です。口内に溜まった細菌や異物を取り除こうとする自然な反応です。鼻水も出ている場合は要注意。すぐに病院でみてもらいましょう。
(仮性)唾液過多症
唾液の過剰産生、口腔の形状、嚥下障害などにより流涎が起こることがあります。急に唾液の量が増えた場合は、毒物や異物の摂取、外傷、胃捻転、食道拡張、感染症などが考えられますが、よだれやけが気になるのは、生まれつきの場合、少しずつ流涎が増えていく場合、繰り返しよだれがでる場合です。神経麻痺、胃潰瘍、口腔潰瘍、上部気道の感染症、肝障害、口腔腫瘍などが考えられますから、他の症状もある場合は必ず病院でチェックしてもらいましょう。神経麻痺による流涎には、鍼治療が効く場合があります。頻繁に起こる興奮状態や車酔いが原因になっている場合もあります。
ミネラル含量の高い水
飲用水中のミネラルが口周りの毛に沈着することがあります。蒸留水や濾過水に変えてみましょう。
食器
細菌が繁殖しやすいプラスチック製のものは避け、ガラスやステンレス製、陶器製のものを使用しましょう。
食事
体に不要物がたまる「内湿/水毒」の状態でも唾液量が増えることがあります。泡状の唾液がみられたり、舌が厚ぼったく歯型がついている場合はこのタイプの可能性あり。犬猫の場合は、体質に合わない食事が原因になっていることが非常に多いため、炭水化物を控え、新鮮でバランスのとれた手作り食や質のよいペットフードに変えてみましょう。胃苓湯などの胃腸機能を助けて水毒を解消する漢方薬を併用すると効果が高くなります。手作り食の場合は、赤血球(ポルフィリン)が多い赤肉ばかりではなく、白味魚や鶏肉など、さまざまな種類の食材をバランスよく取り入れるようにしましょう。タンパク質の量を制限する必要はまったくありません。
陰陽のどちらかに傾いていると目ヤニや唾液が多くなることがあります。自分の愛犬や愛猫がどちらに傾きやすいかを知って、日常の生活でバランスを取るようにしましょう。
涙やけやよだれやけを取り除く方法
- 目周り・口周りの毛は短くカットして清潔に。濡らしたタオルで1日数回拭く。仕上げに殺菌・抗炎症効果のあるウィッチヘーゼル(ハマメリス)水などで拭いてもよい。
- オキシドールを精製水で5〜10倍に薄め、コットンなどに浸して毛に揉み込む。目に入ると痛いので注意。数分おいたら、濡れたタオルで拭き取る。何度か繰り返すうちに少しずつ薄くなってくる。オキシドールは、病院でも採血時に毛が血液で染まってしまった時に使用。新鮮な血液だとすぐに脱色されるが、時間が経つと効果が薄くなる。消毒薬なので感染を防ぐ効果もある。
- オキシドールが目に入ったり、なめてしまう場合は2%ホウ酸水がおすすめ。人の目の洗浄用に売っているホウ酸2 gを精製水100 mLに溶かし、コットンなどに浸して毛に揉み込む。酢、ビタミンC(アスコルビン酸)少々を加えても。何度か繰り返すうちに少しずつ薄くなってくる。
- 炎症を抑制し、代謝や循環を促すには質のよい食事が必須。
- 解毒と毛の生え変わりを促すため、肝臓や腸をサポートするサプリメントを与える(ミルクシスル、ダンデライオン、グルタチオン、クロレラ、ターメリック、乳酸菌など)。赤血球は主に肝臓で破壊され、ポルフィリンの多くは腸に運ばれてウンチと一緒に排泄されるため、この流れを滞らせない。
- 目に親和性がある抗酸化サプリメントで目の炎症を抑える。ビルベリー、アイブライト、ルテインなど。
- 歯周病を予防するためには、ハミガキも定期的に。
- 陰陽のバランスを常にチェック。“陽”に傾きやすい(体内で熱産生や酸化が進んでいる)場合は、抗酸化食材やサプリを取り入れたり、飲み水や食べ物に少量のお酢を混ぜてもよい。”陰”に傾いている(代謝が落ちている)場合は、温かい食事や適度な運動で全身の循環を促す。
人や牛の涙膜中にはラクトフェリンという蛋白質が存在し、鉄と結合することで細菌やウイルスの増殖を防いでいると考えられています。一部の獣医眼科の教科書で、犬猫の涙やけの原因としてこのようなラクトフェリン”様”の色素の関与の可能性が言及されていますが、犬や猫ではまだ涙液中にラクトフェリンやラクトフェリン様の物質の存在は確認されていません [2,3]。同じように鉄と結合するポルフィリンのことを指している可能性があります(注:ポルフィリンは蛋白質ではありません)。
ただし、お酢を与えすぎると尿がアルカリ性に傾くことがあるため、細菌性の膀胱炎や尿路感染症、尿石症がある場合には注意しましょう。基本的には、肉食動物には”アルカリ化”は必要ありません。
参考文献
- Gelatt (ed). Veterinary Ophthalmology. 5th ed. Wiley-Blackwell, Ames, Iowa.
- Winiarczyk et al. Dog tear film proteome in-depth analysis. PLoS ONE. 2015, 10: e0144242. doi:10.1371/journal. pone.0144242
- Hemsley et al. Protein microanalysis of animal tears. Res Vet Sci. 2000, 68: 207-209.