オリーブオイル、あまに油、ココナッツオイル。私たちの身近にはたくさんの種類の植物油があります。
肉食動物として進化してきた犬と猫にとっては必ずしも必要な食材ではありませんが、手作り食で不足しやすい栄養素を補ってくれたり、薬浴剤やマッサージオイルになったりと何かにつけ使える存在。皮膚バリアの改善に役立ち、ほんの数滴を食事に加えるだけで毛艶が見違えるようにツヤツヤになることがあります。
植物油から摂取できる重要な栄養素
細胞や遺伝子を傷つけるフリーラジカルと闘うための重要な栄養素。体を酸化から守ることで免疫系や内臓の機能を維持し、さまざまな病気を予防しています。犬猫の栄養基準で決められている必要量はごくわずかなので、卵や魚、肉だけでも補うことができますが、現代の犬猫は環境汚染、受動喫煙、重金属、農薬などさまざまなフリーラジカル源にさらされる機会が増えています。若いうちから積極的に補ってあげましょう。ストレスや病気の時、激しい運動や作業をする時、高齢期にも必要量が増えます。
γ-トコフェロールって?
ビタミンEの一種。以前は生理活性が優れているα型が重要だと考えられてきましたが、γ型は抗炎症作用や抗腫瘍作用など別の作用を持つことが明らかになってきました。γ型が多いのは、ヘンプオイル、あまに油、ごま油、えごま油です。
オメガ6脂肪酸の1つ。犬にとっても猫にとっても不可欠な栄養素です。皮膚のバリア機能の維持に必要なため、不足すると皮膚が乾燥し、被毛に艶がなくなります。リノール酸から作られる生理活性物質は、正常な細胞膜の構造を作り、免疫系や生殖器、血小板、血流の調節などさまざまな機能に関わっています。
リノール酸は、鶏肉や鴨肉などの家禽肉の脂肪に多く含まれています。鶏肉を主食にしている場合は不足することはほとんどありませんが、脂肪分の少ない鶏肉(ささみ・皮なし胸肉)、赤肉や魚を主食にしている場合は不足しやすくなるので植物油で補ってあげましょう。
必要量は犬で高く、猫で低くなっています。
オメガ3脂肪酸の仲間。肉や魚、野菜などさまざまな食材に含まれているため、犬でも猫でも不足することはほぼありません。犬はα-リノレン酸を抗炎症作用があるEPA(エイコサペンタエン酸)に変換することができます。でも変換される量はごくわずかなので、確実なEPA源としてカウントすることはできません。抗炎症効果が高いEPAとDHAは犬にも猫にも重要なオメガ3脂肪酸で、主に魚貝類や藻類から摂ることができます。シーフード全般にアレルギーがある犬では、α-リノレン酸や卵が唯一のEPA源になります。
生理活性物質として利用されなかった植物油はエネルギーとして使われるか体脂肪として蓄えられます。がん闘病中で糖質を制限しなくてはいけない場合や末期の腎臓病や肝臓病などでタンパク質の制限をしなくてはいけない場合には、代わりのカロリー源として植物油を使うことができます。
植物油には、他にもベータカロテン、フィトフェノール、フィトフラボン、フィトステロールなどさまざまな活性をもつ成分が含まれています。
おすすめの植物油
- どの栄養素を補いたいか
- 消化器障害(嘔吐・下痢・軟便)を起こさないこと
- できればオーガニック(有機栽培)で遺伝子組換え作物が使われていないものがよい
- 熱による変性や化学物質の残留の心配がないコールドプレス(低温圧搾)やエキストラバージン(一番搾り)のものがおすすめ
- 加熱によって劣化するものがあるので熱を通さずに与える
- 少量から始め、必ず食事と一緒に与える
消化器症状やアレルギーが起こりにくく、犬猫にも受け入れてもらいやすいため、初めて植物油を与える場合におすすめです。レクチンフリーなので、レクチン除去食を取り入れている場合にも使うことができます。
オリーブオイルは抗酸化成分のベータカロテンがやや多く、ビタミンEも若干ですが含まれています。
あまに油はα-リノレン酸とγ型のビタミンEが豊富。熱にとても弱いので冷蔵庫で保存する必要があります。
レクチン除去食:あらゆる病気の治療になるか麻の種子を絞ってできるオイル。ナッツのような香ばしい風味が特徴的。抗酸化成分のベータカロテンが植物油の中ではダントツに多く、γ-トコフェロール、リノール酸などもしっかりと与えることができます。レクチンフリー。
毎日の栄養補助、毛づやの改善、関節炎の補助などに。
熱に弱いので、開封後は冷蔵保存し、調理には使わずにそのまま食事に混ぜて与えましょう。
ビタミンE(α型)が豊富な植物油です。
紅花油(サフラワーオイル)やひまわり油は入手しやすいのですが、大量生産用に化学溶媒抽出が行われていることが多いので、製法を確認してから購入するようにしましょう。
アーモンドオイルは熱にも強くレクチンフリー。食事に混ぜる場合は、食用のものを探しましょう。グレープシードオイルもレクチンフリーです。
犬猫に多い米・小麦アレルギーでは、米ぬか油、小麦胚芽油を避ける必要があります。
α-リノレン酸とリノール酸、γ型ビタミンEが豊富でレクチンフリー。どちらも独特の香りがあり、犬猫に好かれる点にも嫌われる点にもなります。
まれですが犬でも猫でもごまにアレルギーを起こすことがあります。
天然の抗菌成分であるラウリン酸の割合が50%と高く、人ではさまざまな利点が報告されているココナッツオイルですが、犬や猫では消化性が悪く、嘔吐や軟便、下痢を起こしやすいのが難点。これは飽和脂肪酸の割合が80〜90%と非常に高いためと考えられています。飽和脂肪酸量が多いといわれる動物性脂肪でも40〜60%程度ですから、どれだけ多いかがわかりますね。
口からは受け付けない場合でも、薬浴剤やスキンコンディショナー、耳掃除、肉球ケアに使うことができます。
かゆみと炎症を抑える薬浴と足浴 犬猫のノミを撃退するナチュラルアロマレシピ与える量の目安(1日分)
目的によって異なりますが、一般的には食事と合わせると次の量で十分な量のリノール酸が摂取でき、皮膚や被毛に違いを実感することができます。
- 猫:小さじ1/8〜1/2
- 小型犬:小さじ1/8〜1
- 中型犬:小さじ1/2〜3
- 大型犬:大さじ1〜
ペット用製品の場合は、使用説明書にしたがって与えましょう。
脂質に対する反応は一頭一頭異なります。安全なものであっても大量に与えると消化器症状を起こす可能性があるので、少量から始めて少しずつ増やしていくのがおすすめです。嘔吐や軟便がみられたら、量を減らして様子をみます。症状が続くようなら中止し、別のオイルを試してみましょう。
医療用オイル
食品中の脂質のほとんどは鎖が長い長鎖脂肪酸ですが、ココナッツオイルやバターは鎖が短めのMCTの割合が比較的多くなっています。抗菌作用があるラウリル酸もMCTの1つ。MCTは、消化吸収や代謝の経路が普通の脂質とは異なると考えられており、現在、犬のてんかん、がん、加齢性認識障害、脂質代謝障害などで100%MCTオイルの研究が行われています。
ピュアMCTオイルを与える際の注意点は他の脂質と同じです。大量に与えると嘔吐や下痢などの消化器障害を起こすため少量から始めましょう。
月見草オイルはγ-リノレン酸が豊富で、フィッシュオイルとの併用で猫のアレルギー性皮膚炎や犬のアトピー性皮膚炎に効果があることが報告されています。てんかんの持病を持つ犬で発作を起こしやすくなることが報告されているので気をつけましょう。
サプリメントとして数滴を食事に加えたり、皮膚ケアクリームやヘアコンディショナーに加えて使うのがおすすめです。
大麻と同じ植物(Cannabis sativa)由来のオイルですが、麻薬作用があるTHC(テトラヒドロカンナビノール)の濃度は低く、抗けいれん、抗不安、抗炎症などの作用があるCBD(カンナビジオール)を高濃度に含むものです。近年、犬や猫でも使用されるようになりました。
ヘンプオイルは繊維型の麻の種子から、CBDオイルは繊維型の麻の葉、茎、花から取れるオイルです。大麻(マリファナ)は薬用型の麻から作られます。
米国ホリスティック獣医師協会が2016年に飼い主を対象に行った意識調査 [1] によると、CBDオイルを与えていた犬のおよそ30〜60%で疼痛、神経疾患、不眠症、不安症、発作などに中程度〜高い緩和効果が認められ、猫ではおよそ25〜65%で疼痛、消化器症状、不眠症、不安症、炎症などに中程度〜高い緩和効果が認められています。副作用は、食欲増進、元気消失、口渇、鎮静などが6〜30%の割合で報告されています。2018年に報告された骨関節炎の犬を対象とした臨床試験 [2] では、2 mg/kg・1日2回の投与により血清ALPに若干の上昇が認められたものの、疼痛スコアと活動スコアに有意な改善が認められています。
CBDオイルを選ぶときも品質が重要です。THCの濃度が0.3%以下で、重金属汚染がなく、有機溶媒で抽出されていないオーガニックのものがおすすめです。添加物や他の成分が入っていないかもチェックしましょう。投与量は使用説明書にしたがってください。
おすすめしない植物油
次の植物油は、アレルギーを起こしやすい、農薬で汚染されている可能性が高い、トランス脂肪酸を含む、遺伝子組換え作物が使われていることが多い、レクチン含量が高い、環境保全問題が解決されていないなど、さまざまな理由によりおすすめしていません。
- 大豆油
- とうもろこし油(コーンオイル)
- 菜種油(キャノーラオイル)
- パーム油・パーム核油
- 落花生油(ピーナッツオイル)
- 綿実油(コットンシードオイル)
- マーガリン
- アボカドオイル(催吐作用があるペルシンを含んでいることがある)
オメガ3とオメガ6のバランスは?
話を非常に単純化すると、オメガ3脂肪酸は炎症を抑制する方向に、オメガ6脂肪酸は炎症を促進する方向に働きます。オメガ3脂肪酸はオメガ6脂肪酸と競合することでオメガ6脂肪酸の炎症促進作用を抑えることができます。
犬猫の研究ではオメガ3脂肪酸(DHA、EPA、α-リノレン酸など)がオメガ6脂肪酸(リノール酸、アラキドン酸、γ-リノレン酸など)の約5〜10倍になる食事でさまざまな臨床効果が確認されています。そのため必要な脂肪酸を与えるだけでなく、そのバランスが重要といわれることがあります。
でもこれはペットフードの話。毎日食材を変えたり、季節や産地によって食材に含まれる栄養素の量が変化する手作り食では、この比率を完全にコントロールすることはできません。目安として、リノール酸は過剰になりすぎないよう必要量のみを補い、オメガ3脂肪酸は必要量より多めの推奨量を与えると健康効果を実感することができます。
うちのコに合うオイルはどれ?(動物性油脂編)栄養情報
よくある質問
ぶどうは大量に与えると腎臓を障害することが報告されていますが、グレープシードオイルでは中毒は報告されていません。ただし、油脂はどのようなものでも大量に与えると消化器症状や膵炎を起こす可能性があるので注意しましょう。
- Kogan LR et al. Consumer’s perceptions of hemp products for animals (2016). AHMVA Journal (42) 40-48.
- Gamble L-J et al. Pharmacokinetics, safety, and clinical efficacy of cannabidiol treatment in osteoarthritic dogs (2018). Frontiers in Veterinary Science. (5) Article 165.