胆嚢の中で胆汁が濃縮してドロドロになったものを胆泥(たんでい)といいます。病名ではなく症状の一つで、血液検査やレントゲンではわかりませんが、超音波検査を行うと健康な犬猫でも高い確率で見つかります。検査前の絶食と絶水、脱水による濃縮、加齢などによる胆汁の排出の滞りが主な原因です。
病気とは限らない
素人でもすぐに見つけられるので過剰診断されがちですが、必ずしも病気とは限りません。注意すべきなのは、胆泥と似ている粘液嚢腫や胆嚢壁・胆管の肥厚(炎症像)が見つかった場合。こちらはある程度の経験のある獣医師でないと見分けがつかないことがあります。「胆泥がある」と言われても慌てずに、これらの異常がないかきちんと確認してもらいましょう。1回の検査でははっきりせず、再検査が必要になる場合もあります。
一過性の場合や肝臓・胆嚢の病気が見つからない場合は、特に治療は必要としません。
漢方医学的にみると、胆嚢や肝臓の局所的な問題というよりは、体のバランスと巡りが全体的に低下している犬や全身の慢性炎症が進んでいる猫でよく見つかります。そのため、無理に胆汁の排泄を促すのではなく、脱水を防ぎ、全身のバランスを整えていく対策を中心に行なっていきます。
犬の場合
気・血・水のどれが不足しても胆泥として現れることがあります。「気」は体を動かし、臓器や細胞が行っているあらゆる生理学的機能に必要なエネルギー(ATP)、「血」は血球や栄養素などの血液中を流れる成分、「水」は胆液や胃液、涙などの水分だけでなく、ホルモンやサイトカイン、免疫細胞、抗炎症成分が豊富な血漿やリンパ液などの体液成分も表します。例えば、エネルギーが不足すると、血・水をきちんと循環させて必要なものを必要な場所に届けることができなくなります。胆汁は濃縮し、胆嚢に分布する神経の反応も鈍るでしょう。ないものを回すことはできませんから、巡らせるだけではなく気血水の量をきちんと確保することも重要です。
気血水のもとは食物と呼吸で得る酸素です。気血水の量は、食事の質と生活習慣に大きく左右され、加齢によっても低下しやすくなります。
近年の現代医学的な研究でも(Secchi P, 2012)、犬の胆泥は健康な高齢犬に多く、併発症として心臓病と心臓病による肝臓の腫大が認められやすいことが報告されており、加齢や循環障害が背景にあることを裏付けています。
新鮮でバランスの取れた食事と全身を活性化する生活習慣で気血水のバランスを維持しましょう。
- 温かい食事は胃腸を温め、栄養素の消化吸収率を高めます。
- 本物の肉や魚の60〜80%は組織液。手作り食を与えていれば自然に脱水を防ぐことができます。
- 胆嚢は食事中の脂肪に反応して収縮し、胆汁を排泄します。適度な脂質を含む食事を与えましょう。食物繊維は胆汁の新陳代謝を促してくれます。
- 内臓肉は動物にとって最高の薬膳。レバー・腎臓肉・心臓肉などをバランスよく取り入れると、気血水を上手に補うことができます。
- 適度な運動で心肺機能を強化し、新鮮な空気を身体中に行き渡らせましょう。
- 運動は体を温めて巡りを改善し、水分やリンパ液の淀みを防いでくれる筋肉の維持にも役立ちます。
- ブラッシングやマッサージも全身の巡りに大きな改善効果があります。
- 炎症は気血水を枯渇させ、心臓や肝臓、腎臓などの大事な臓器の老化を加速させます。肥満、酸化脂質(ペットフード)、糖質や穀類の与えすぎ、歯周病、重金属、受動喫煙などの体の酸化や炎症のもとにも気をつけてあげましょう。
高齢期には
高齢期には気血水が徐々に低下し、胃腸や心臓、腎臓、肝臓など、全身の臓器が少しずつ弱ってきます。自然の理ではありますが、なるべく遅くしたいものですよね。上記の対策を継続すると同時にビタミンEなどの抗酸化栄養素を増量し、病院で定期的な検査を受け、早めに異常を見つけて早めに対策をとりましょう。近くに漢方専門病院があれば一度全身バランスをチェックしてもらうのもおすすめです。肝臓と腎臓のケアは全身のアンチエイジングにも大きく役立ちます。
肝臓の不調を早めにキャッチして薬膳で改善 高齢期の腎臓ケア破裂する危険性があるので、手術が必要になることがあります。かかりつけの獣医師とよく相談し、症状などを合わせて総合的な検討を行なった上で治療方針を決めてもらいましょう。内科治療で大丈夫と判断されたら、胆道の詰まりを解消する漢方薬を使うこともできます。
猫の場合
猫ちゃんでも脱水や絶食などの一時的な状態や加齢が原因の場合がありますが、これに加えて全身の炎症が進んでいる場合にも非常によく認められます。関節炎、繰り返す膀胱炎、肥満、膵炎などの病歴がある子に多く、全身の炎症が肝臓や胆道に波及して肝酵素の上昇、胆嚢炎、胆管炎を起こすことがあります(Marolf AJ, 2012)。
猫ちゃんが全身の炎症を起こす最大の原因は酸化脂質と糖質、穀物がたっぷり入ったペットフードです。
対策
完全肉食の猫ちゃんにあった肉・魚中心の食事に切り替えましょう。炎症の原因である酸化脂質(ペットフード・加熱調理した動物性脂肪)をできるだけカットし、穀物や芋類はまったく与えなくても構いません。
そのほかの対策はワンちゃんと同じです。
よくある質問
「酸化脂質を抑えると胆泥ができにくくなる」というのが正しい答えです。「低脂肪食にしたら胆泥がなくなった」という報告の多くはペットフードの話。ペットフードに含まれる脂質は、高熱での加工中や自宅での保存中に空気に触れることで酸化します。酸化脂質は低グレードながらも全身に炎症を起こし、炎症と戦うためにエネルギーや水分、抗炎症物質が消費されてしまいます。これがいわゆる「気血水」が不足した状態です。
ペットフードを与え続ける場合は、低脂肪食に変更するか、食物繊維が豊富な野菜を加えて劣化した脂質の吸収を抑える必要があるかもしれません。おやつのジャーキーなど、低温で自然乾燥したものでも空気に触れると酸化するので注意が必要です。ドライフードの場合は水分の補給も忘れずに。
手作り食を与えている場合は、膵炎や膵外分泌不全、高脂血症など脂質代謝異常の病歴や遺伝的素因がないかぎり、脂質を控える必要はありません。高熱で調理した脂肪を与えないように気をつけるだけでOKです。
何回検査を受けても胆泥が見つかる場合や胆泥がどんどん増えていく場合は、胆汁排泄を促すウルソという薬が処方されることがあります。医薬品というよりはサプリメントに近く、あまり害にはならない薬です。胆汁の排泄を刺激するだけではなく、肝臓の解毒機能や抗酸化に必要なグルタチオンの量を増やしたり、肝臓にダメージを与えやすい胆汁を置換したりと、肝臓にもよい作用があります。
薬に頼りたくない人は、グルタチオンを増やしてくれるアブラナ科の野菜や胆汁排泄を促すターメリック、ダンデライオン、古い胆汁の排泄を促す食物繊維を取り入れるなど、普段の食事でも対策をとることができます。
肝臓の不調を早めにキャッチして薬膳で改善 肝臓の健康を守るハーブとサプリメント
- Secchi P, Pöppl AG, Ilha A, Kunert Filho HC, Lima FE, García AB, González FH. Prevalence, risk factors, and biochemical markers in dogs with ultrasound-diagnosed biliary sludge. Res Vet Sci. 2012 Dec;93(3):1185-9.
- Marolf AJ, Leach L, Gibbons DS, Bachand A, Twedt D. Ultrasonographic findings of feline cholangitis. J Am Anim Hosp Assoc. 2012 Jan-Feb;48(1):36-42.
- Ettinger SJ, Feldeman, E, Côté, E. Textbook of Veterinary Internal Medicine: Diseases of the Dog and Cat. 8th Ed. (2017) Elsevier, St. Louis.
- Policelli Smith R, Gookin JL, Smolski W, Di Cicco MF, Correa M, Seiler GS. Association between Gallbladder Ultrasound Findings and Bacterial Culture of Bile in 70 Cats and 202 Dogs. J Vet Intern Med. 2017 Sep;31(5):1451-1458.