ブロッコリー、ケール、芽キャベツなどのアブラナ科の野菜にはグルコラファニンという成分が含まれています。
軽く調理したり、動物が消化したりして野菜の細胞が壊れるとミロシナーゼという酵素が放出され、グルコラファニンがスルフォラファンという物質に変換されます。スルフォラファンは人や動物モデルにおいて肥満、糖尿病、がん、神経疾患などさまざまな病気に対する効果が報告されている物質です。
今回紹介する論文では、ブロッコリーシードのサプリメントを健康な犬に給与し、犬でもきちんと体内に吸収されるのか、そして人間で報告されているような細胞レベルでの変化が認められるのかが検討されています。
論文情報
Curran KM, Bracha S, Wong CP, Beaver LM, Stevens JF, Ho E. Sulforaphane absorption and histone deacetylase activity following single dosing of broccoli sprout supplement in normal dogs. Vet Med Sci. 2018 Nov;4(4):357-363.
試験方法
対象動物
一般家庭で飼育されている健康な犬10頭(体重20〜35 kg・平均年齢6.6歳)。ブロッコリーなどの食材を与えておらず、自然療法を受けていない犬に限定。試験期間中は通常どおりのドライフードを与え、おやつは禁止。
給与方法
- ミロシナーゼを添加したブロッコリーシードのサプリメントを使用【注:論文表題では「ブロッコリースプラウトサプリメント」となっていますが、実際に使用されているのはブロッコリーシードサプリメントです。発芽種子かどうかは不明】。
- 1頭あたりグルコラファニン90 mg分(すべて変換されればスルフォラファン24 mgに相当)を朝食の直前に1回給与。
検査
投与前と投与後1・2・4・8・24・48時間目に採血または採尿を実施。
- 血液検査:スルフォラファン・スルフォラファン代謝物濃度、ヒストン脱アセチル化酵素活性の測定
- 尿検査:スルフォラファン・スルフォラファン代謝物濃度の測定
結果
犬でもスルフォラファンを吸収することができる
- サプリメントの投与後、10頭中9頭で血中からスルフォラファンが検出された。4時間目に最高濃度に達し、24時間後には血中から消失。
- 尿中への排泄は4時間目にピークに達し、48時間目でも検出された。
抗腫瘍作用への期待
- ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)は、DNAを折りたたんでコンパクト化しているヒストンを修飾することで遺伝子の発現を調節している酵素。この酵素の阻害は、スルフォラファンが抗腫瘍作用を発揮するメカニズムの1つと考えられている。
- サプリメントの投与後1時間目から末梢血単核細胞のHDAC活性が低下しはじめ、24時間で24.4%減少した。
獣医師の解説
今回の研究は少数の犬へのたった1回の投与の結果を報告したものですが、犬の体内でもグルコラファニンがスルフォラファンにきちんと変換され、体内に吸収されることが初めて証明されました。スルフォラファンは、解毒、抗酸化、抗腫瘍、抗菌、神経保護など、非常に幅広い効果が報告されており、獣医療でも高く期待されている成分です。単回投与後の吸収と尿中排泄のタイミングは人間と似ており、今後は人間で行われた研究データをある程度の範囲で活用することもできそうです。
この研究ではHDACの活性の低下も示されました。しかし今回使われたサプリメントはブロッコリーシードのエキスをサプリメント化したもので、ブロッコリーシードにはグルコラファニン以外の成分も含まれています。つまり、今回の研究で検出された細胞レベルでの変化が本当にスルフォラファンによるものなのかは不明のままです。さらに、サプリメントを投与せずにHDAC活性の測定を行なった対照群がないため、採血や採尿によるストレスの影響も除外できません。試験設定が非常に稚拙であったことがとても残念です。今後の研究に期待しましょう。
スルフォラファン濃度が高い野菜
スルフォラファン(グルコラファニン)はアブラナ科の植物に含まれています。
ブロッコリースプラウト・からし菜(辛みあり)・キャベツ
かぶ菜・芽キャベツ・ブロッコリー・ケール・カリフラワーなど
特にブロッコリースプラウトが有名ですね。大量に与えることが難しいので、ブロッコリーやキャベツ、ケールなどの旬の野菜と合わせて取り入れましょう。
- Briones-Herrera A, Eugenio-Pérez D, Reyes-Ocampo JG, Rivera-Mancía S, Pedraza-Chaverri J. New highlights on the health-improving effects of sulforaphane. Food Funct. 2018 May 23;9(5):2589-2606.