まんまる体型の猫ちゃんやワンちゃんがソーシャルメディアで人気を集め、話題になることがあります。でも私たちはその度にドキドキハラハラ。こちらの寿命の方が縮まりそうです。
それは太り気味の犬や猫の体の中でどんなことが起こっているかが手に取るようにわかるから。放っておくとほぼ確実に病院行きです。いえ、すでに病気が進行して苦しんでいるかもしれません。
何が起こっているの?
犬と猫のメタボの多くは炭水化物の与えすぎから始まります。ペットフードでも手作り食でも気をつける必要があります。これは、もともと肉食動物だった犬と猫は食事中の糖分を処理する能力が遺伝的に人よりも低いため。
ペットフードのように精製加工して消化されやすくなっている食事やデンプン質の多い穀類・芋類は、摂取後、すみやかに吸収されて血糖値を急上昇させます。すると膵臓からインスリンというホルモンが分泌され、血液中を流れている糖分を細胞の中に取り込むことで血糖値を下げ、正常な状態に戻します。
時々起こる程度なら問題はありませんが、これらの食事を毎日与え、血糖値とインスリンが上昇した状態が続くと、体がインスリンに反応しなくなり、インスリンをいくら出しても血糖値が下がらなくなります。これをインスリン抵抗性と呼びます。
猫ちゃんは体内で糖センサーとして働くグルコキナーゼを持っていないため、犬よりもインスリン抵抗性を起こしやすくなっています。
炭水化物を食べない肉食動物では血糖値を下げる仕組みが元から必要ありませんでした。
インスリンの作用によって細胞の中に取り込まれた糖分は、エネルギーとして使われますが、過剰な分はごく一部を除いて脂肪に変えられます。
脂肪組織は、脂肪を蓄えるだけでなく、炎症やエネルギー代謝、食欲、血管機能に関わる100種類以上ものホルモンや生理活性物質を分泌している活発な内分泌器官です。マクロファージをはじめとする免疫細胞もたくさん存在しています。
脂肪組織が小さいうちは、主に抗炎症・抗肥満作用を発揮しますが、脂肪が多くなるにつれて炎症・肥満を促進する方向に傾いていきます。例えば、犬と猫の脂肪細胞はアディポネクチンという蛋白質を分泌し、普段は炎症とインスリン抵抗性を抑えて血糖値や脂質濃度を下げるように働いています。でも肥満状態になるとアディポネクチンの分泌が減り、インスリン抵抗性と高血糖、高脂血症が進行しやすくなります。同じく脂肪から分泌されるレプチンというホルモンは脳に作用します。太っていない犬や猫では食欲を抑えるよう働いていますが、脂肪量が多くなるにつれて脳がレプチンに反応しなくなると分泌量が増え、インスリン抵抗性と炎症を促進してアディポネクチンの合成を抑制するようになります。さらに、マクロファージたちがたくさんの起炎性サイトカインを放出し、局所から全身へと炎症を広げていきます。
インスリン抵抗性が先か肥満が先かは「卵とニワトリ」の関係。猫では体重が1 kg増えるとインスリン抵抗性が30%増加するというデータもあります。
インスリン濃度の上昇や高血糖、肥満による高脂血症は血管を裏打ちしている内皮細胞の機能を徐々に障害していきます。
内皮細胞は、体内環境に応じて血管を収縮させたり、拡張させたりして血流を調節する物質を産生しています。
高血糖や高脂血症が続くと、内皮細胞の正常な機能が障害され、血管を拡張させる一酸化窒素やプロスタサイクリンが減少、血管を収縮させるエンドセリン1やトロンボキサンの産生が優先され、血管が収縮します。
血管が収縮すると血流が滞り、十分な酸素と栄養が臓器に行き渡らなくなります。
血液は凝固しやすくなり、白血球を血中から組織へと浸潤させる接着分子が誘導され、集まってきた白血球がさらに炎症性サイトカインを産生するようになります。
このインスリン抵抗性から血管内皮障害までの過程を私たちは 前炎症状態 と呼んでいます。細胞や遺伝子のレベルでは大きな変化が起こっていますが、血液検査など普通の動物病院の検査で変化が現れにくい段階だからです。見た目にもまだ肥満というほどではなく、はっきりした炎症の症状も見られないこともあります。
漢方医学では 内湿・水滞 と呼ばれる状態で、舌や脈にはっきりとした変化が現れます。敏感な飼い主さんの場合は、愛犬や愛猫の行動の微妙な変化に気づくかもしれません。
このように、目に見えないところで進行していくインスリン抵抗性や脂肪の蓄積は、直接的に、または内皮障害や血行阻害を介してすべてが炎症へと結びついていき、やがて炎症が勝手に進行していく負のスパイラルに陥ります。
こうなると体は爆弾を抱えた状態です。どのような臓器でどのような障害がいつどの順番で起こっても不思議はありません。
漢方医学では、湿熱と呼ばれる段階です、この段階になると血液検査にも変化が現れ、さまざまな症状が目に見えて現れるようになります。急に進行した場合は、炎症マーカーのCRPが上昇することもよくあります。
メタボの犬猫ではまれですが、炎症よりも血液凝固や虚血(瘀血・血虚)が強く現れた場合は、機能低下や腫瘤、局所痛が現れることがあります。
どんな病気になるの?
インスリン抵抗性というと糖尿病やクッシング症候群を考えがちですが、実際には非常に多くの病気の発症に関与しています。
- 糖尿病・クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症)
- 膵炎・・・膵臓実質の虚血は膵臓で作られる消化酵素を活性化し、膵臓自身が消化されるようになります。これがゆっくりと進行すると慢性膵炎に、酸化劣敗した脂肪や内毒素の摂取が引き金になり、酸化的損傷を起こして急激に発症すると急性膵炎になります。
- 関節炎(変形性関節症)・・・関節に体重がかかることで物理的に関節を痛めます。肥満動物では関節のレプチン濃度が高くなり、IL-6やTNF-αなどの炎症性サイトカインや蛋白質分解酵素が誘導されます。また、穀物に多く含まれるレクチンは関節組織に結合し、免疫反応を惹起。これらの複数機序によって関節組織が徐々に破壊されていきます。
- 腎臓病・・・脂肪組織はレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系を活性化。血管内皮障害も合わさって、虚血・高血圧・炎症により腎組織が非常にダメージを受けやすい状態になります。
- 心臓病・・・幸い、人とは違って高脂血症自体が動脈硬化を起こしやすくすることはありませんが、血管収縮やレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系の活性化によって血管抵抗が上昇したり、肥満によって体が大きくなると、心臓はその分余計に働いて血液を送り出さなければならず、負荷が大きくなります。
- がん・・・慢性炎症によるDNAの損傷、免疫系の疲弊、脂肪細胞から分泌される成長因子などさまざまな機序で腫瘍が発生しやすい状態に。レプチンは血管新生や細胞分裂を促進する作用もあり、正常細胞の腫瘍化を促すと考えられています。
- 肝臓病・・・内臓脂肪から放出されるIL-6などの炎症性サイトカインは、肝門脈から肝臓に入り、肝臓に炎症を起こすと同時に、肝臓のインスリン感受性を抑制、さらに高脂血症を促進します。
- そのほか、膀胱炎、下部尿路疾患、甲状腺機能低下/亢進症などさまざまな病気が現れます。
悪循環を断ち切る
思いあたるところがあったらまずは健康診断がおすすめです。身体検査や血液検査、尿検査で、腎臓や肝臓、膵臓、心臓などの重要な臓器や副腎、甲状腺などの内分泌系に異常がないかフルスクリーニングを行いましょう。もちろん血糖値も忘れずに。
朝食抜きで朝一番に検査をしてもらうと一番正確な判定ができます。お水は抜かないで。
何か異常がみつかったら精密検査を受けましょう。
健康診断の際には脂肪や筋肉のつき具合もチェックしてもらいましょう。特別な機械がなくても体重や見た目、手で触った感触で判断することができます。品種に合わせた理想的な体重と体型を教えてもらい、それを目標にします。
判定方法を教えてもらえば自宅でも簡単にチェックできるようになり、肥満の防止に役立てることができます。
標準よりちょっとやせ気味かな?くらいが長生きの秘訣です。
健康診断で特に異常がなければ、炭水化物食品をバッサリカットしましょう。カットするのは穀類と芋類、糖分の多い果物。猫ではゼロに、犬は食事全体の0〜10%程度まで減らします。その分、お肉や魚、卵、色の濃い緑黄色野菜、根菜を増やしてあげます。内臓肉を与えたことがなければ、この機会に加えるのもおすすめ。
多くの犬猫は炭水化物食品をタンパク質食品や野菜で置き換えるだけで、カロリーやビタミン、ミネラルの量を変えなくても減量することができます。
安全な減量率は週に体重の0.5〜2%です。
健康診断で何か異常が見つかった場合は、体が急な食事の変化に対応できないことがあるため、体にショックを与えないよう炭水化物を少しずつ減らしていきましょう。
運動量が少なく、筋肉がつきにくい小型犬では炭水化物を急にゼロにすると筋肉の消耗が起こることがあります。筋肉量(MCS)を確認しながら、量を加減すると安心ですね。
ペットフードを与えている場合は穀物や芋類、デンプンを使っていない製品を選ぶか、この機会に手作り食に挑戦してみましょう。
手作り食への切り替え方運動量を少しずつ増やしてあげましょう。ただし、体重が重い子は、急に運動を始めると関節に負担をかけるため気をつける必要があります。
筋肉がきちんとつけば、関節にも負担がかかりにくくなりますし、筋肉の運動によって糖分が消費されやすくなるため脂肪がつきにくくなります。運動は体を温めて代謝を活性化すると同時に、全身循環も促進するため、血液や水分が淀むこともなくなり、老廃物や炎症物質をすみやかにクリアできます。
運動したあとは、ぐっすり眠ってリセットできる環境を作ってあげてください。
インスリン抵抗性・血管内皮障害を緩和するハーブ
- 胃苓湯(いれいとう)・・・太りやすくメタボを起こしやすい犬猫に。体を温める効果があるため、寒がりで冷えの症状が気になる子に向いています。メタボの予防やメタボ初期の水滞・内湿の段階、肥満が関与していると思われる慢性疾患、炭水化物の摂りすぎによる胃腸の弱りに力を発揮。
- 三仁湯(さんにんとう)・・・慢性〜亜急性の疾患に。寒がりでも暑がりでも使えます。炭水化物(ペットフード)をやめられない猫ちゃんの糖尿病や膵炎、膀胱炎、関節炎、肝炎などの炎症性疾患に最適。
- 四妙散(しみょうさん)・・・メタボがかなり進行して舌が赤く、暑がりの症状を示している犬猫の炎症性疾患に。
- 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)・・・特に高脂血症を伴う虚血性疾患、炎症性疾患に。シュナウザーの高脂血症にも。
- ビターメロン(ニガウリ)、シナモン、フェヌグリーク、薏苡仁、オタネニンジン、当帰、地骨皮(クコの根)、クロレラなど
よい炭水化物・悪い炭水化物
健康診断で異常が見つかった場合は、炭水化物の摂取が必要になることもあります。病気や体質にあった炭水化物を選びましょう。
炭水化物ガイドよくある質問
血糖値は下がりますが、正常範囲内で低めか正常範囲より少し低めで落ち着きます。これは、動物にはタンパク質や脂質から糖分を作る「糖新生」という仕組みが備わっているため。犬や猫は人よりもこの能力が高くなっています。
ただし、すでに糖尿病や肝臓病になっている場合は、この能力が落ちていることがあります。そのために、まずは健康診断で異常がないか確認することが大切なんですね。
手作り食が血液検査値に及ぼす影響
まず、扱いやすくペットが好む形のドライフードを作るには炭水化物をバインダー(結合剤)として使う必要があります。いろいろな材料を一つにまとめる接着ボンドのような役割を果たしています。缶詰やパウチでは、とろみを出すのに使われていることがあります。
次に、穀類や豆類、芋類に比べると肉や魚は高価な材料です。消費者にとってはお買い得で、メーカーにとっては高い利益を生むためには原材料の価格をなるべく抑える必要があります。そのため、肉や魚をギリギリまで少なくし、炭水化物や脂質でカロリーを補い、その分足りなくなったタンパク質やアミノ酸を豆類や合成アミノ酸などで補って、栄養基準を満たすよう工夫されているのです。犬猫の健康を第一に考えているわけではないので、肥満対策や糖尿病対策用のフードでも、そもそもの原因の炭水化物を減らすのではなく、食物繊維を加えてカサ増ししたり、カルニチンなどのサプリメントを足してごまかしています。
他にも「すぐに使えるエネルギーを供給することで筋肉や臓器の消耗を防ぐ」「嗜好性をよくする」といったさまざまな理由をつけて穀物や芋類を主原料として使うことが正当化されています。
でも必ずしもペットフードが悪というわけではありません。最近では犬猫本来の食性に合わせたフードも開発されていますし、今ほど豊かではなく食糧難だった数十年前までは、ペットフードを安価に提供することで確かにたくさんの犬猫の命を救ったでしょう。発展途上国やシェルターでは今も低価格のペットフードが必要です。
また、ペットフード会社はペットフードから得る大きな利益を使って、犬猫の栄養を研究する施設を作り、大学よりも進んだ研究を行ったり、大学に研究資金を提供したりして、日々さまざまなデータを私たちに提供してくれています。
一つの面だけをみて善悪を判断することはできないことも知っておいてくださいね。
まずはかかりつけの獣医師に相談して、なぜ太れないのか原因を探るのが先決です。単に運動量に対してカロリーが足りていないだけかもしれませんし、品種によっては太れないのが当たり前のこともあります。場合によっては消化器系や内臓、代謝系の病気が隠れていることもあるかもしれません。
太れない場合でも炭水化物量は猫で10%未満、犬で30%未満のバランスを維持しながら食事全体の量を増やしていくのが理想的です。肉食動物にとっては本来の食物ではない炭水化物や食物繊維の与えすぎは消化の負担になり、逆に胃腸機能を弱めて太れない原因になることがあります。
どんなに食事を与えてもどんどん痩せていく場合は、感染症や病気が潜んでいます。必ず病院に相談してください。
これが基本!健康を守るための猫ちゃんの食事バランスこれが基本!健康を守るためのワンちゃんの食事バランス