がん、認知障害、心血管系疾患、白内障・・・活性酸素やフリーラジカルよる酸化的ストレスは遺伝子を傷つけたり、炎症を起こすことでさまざまな病気を引き起こしています。現在、たくさんの抗酸化サプリメントが市場に出回っているのはこれが理由。酸化的ストレスの緩和は病気の予防に重要な役割を果たしていますが、でも不必要にサプリメントを与えるとかえって逆効果になることをご存知ですか?
例えば、野菜や果物の摂取によって複数の病気にかかりにくくなることが人や動物で証明されていますが、これは抗酸化作用のためではないかと考えられてきました。しかし、食品ではなく抗酸化サプリメントを摂取した場合については、病気の予防に効果があるという研究結果と、逆に有病率や死亡率が上昇するといった研究結果の両方が報告されています。
この抗酸化サプリメントの負の作用は、2000年にトルコの獣医大学の研究者によって「抗酸化ストレス」と名付けられ(Dündar 2000)、現在でも抗酸化サプリメントを摂取すべきかすべきでないか、摂取するとしたらどのくらいの量が適切なのかといった議論が続いています。
バランスが鍵
酸化物質と抗酸化物質の量はバランスが重要です。どちらが多すぎても害になります。
活性酸素やフリーラジカルには、酸素と食事からエネルギーを生み出す過程、通常の細胞活動、運動、炎症、虚血などによって体の中で生じるものと、大気汚染、紫外線、オゾン、不健康な食事、治療薬、化学物質、受動喫煙など、環境的な要因よって生じるものがあります。
これらの反応性酸化物質は必ずしも“悪もの”ではなく、細胞や組織の成長および分化、ストレス応答、平滑筋の収縮に必要なシグナル分子として働き、免疫細胞が作る活性酸素は病原菌を退治するのに必要なものです。つまり生きていく上では、ある程度の活性酸素が必要なんですね。抗酸化サプリメントはこの必要な酸化物質を見分けることができず、出会ったものはとりあえず中和してしまいます。これが健康に悪影響を及ぼす理由の1つではないかと考えられています。
活性酸素やフリーラジカルが必要な量を上回ると、細胞のタンパク質や脂質、DNAと反応して、細胞の正常な機能を障害し、がん化などの突然変異を起こしたり、細胞寿命が短くなったりします。
そのため、体の中には余分な酸化物質を中和して細胞を守る内因性の抗酸化システムが備わっています。ビタミンEやビタミンC、グルタチオンがその代表です。活性酸素・フリーラジカルが持っている有害な電子を受け取ることで、細胞の酸化を防いでいるのです。
サプリメントとして与えた抗酸化成分も同じように有害な電子を受け取ることができます。しかし、有害な電子を受け取った抗酸化物質は、今度は自分自身がフリーラジカルになってしまいます。これが2つ目の問題点。
さて、この有害な電子をどう処分したらいいのか・・・このまま体外に排出されるまで持ち続けるしかないのでしょうか?
残念ながら、この有害な電子は反応性が非常に高いため、それは不可能。とりあえず別の抗酸化成分に有害電子を渡すことで、その場をしのぎます。こうして抗酸化成分同士でキャッチボールが続いたあと、最後に登場するのがスーパーオキサイドディスムターゼ(SOD)、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)、グルタチオン還元酵素(GRx)といった抗酸化酵素群。これらの生理活性物質の助けを借りてようやく有害電子を手放し、中和することができます。
つまり、酵素系の処理能力を超える量の抗酸化サプリメントを与えても結局は無駄になってしまうということなんですね。
抗酸化成分の種類
動物の体には、生まれつき備わっている抗酸化システムがあります。これらの要素が一つでも欠けると、生きていくことができません。そのため「内因性抗酸化成分」「生理学的抗酸化システム」などと呼ばれることがあります。これらの成分には、食事で摂る必要があるものと、犬猫が自分で合成できるものがあります。
ビタミンEはそのまま抗酸化システムの一員として働き、セレンはGPxの合成に使われます。
ポリフェノール(フラボノイド、ケルセチン、アントシアニン、カテキン、レスベラトロール、クルクミン等)、カロテノイド(ルテイン、アスタキサンチン、カロテン、リコペン等)など、野菜や果物、ハーブに含まれる抗酸化成分は生存に必ずしも必要なものではありませんが、体に元から備わっている抗酸化システムをサポートすることで病気や高齢期の機能低下の予防や治療に役立つと考えられています。食事で摂取しなければならないビタミンEは、外因性の抗酸化物質として分類されることもあります。
これらの外因性の抗酸化成分の多くは酸化物質から有害電子を受け取ることで抗酸化作用を発揮しますが、中にはグルタチオンの合成や抗酸化酵素群の遺伝子発現を促進することで抗酸化能を間接的に底上げする作用を持つものもあります。
アブラナ科の野菜に含まれるスルフォラファン、ターメリックに含まれるクルクミン、ベリー類に含まれるレスベラトロール、ローズマリーに含まれるカルノソールなどがその例です。
ただし、体内で抗酸化剤として働いた場合は、自らがフリーラジカルになり、そのフリーラジカルを中和するには内因性の抗酸化システムの存在が必要になります。
上手な与え方
バランスが重要とはいっても、抗酸化サプリメントの正確な給与量を決める必要はまったくありません。体がどれだけの酸化的ストレスにさらされているのか、どれだけの抗酸化能を持っているのかは、一頭一頭、その日その日で異なります。目安として、次の順番で抗酸化成分を取り入れていくと、どの子でも安全かつ効果的に抗酸化成分を利用することができます。
ブルーベリーやクランベリーを食べ過ぎたせいでガンになった・・・という人の話は聞いたことありませんよね。サプリメントとは異なり、食物中に含まれる抗酸化成分で有害な作用が起こったという報告は人でも動物でもありません。
食物中には抗酸化成分以外にも病気予防に役立つ栄養素がたくさん含まれており、すべてが均一に吸収されるわけではなく、体はちゃんとバランスを取ることを知っています。例えば、ビタミンA・D・Eは共通の経路で吸収されるため、どれか一つだけが過剰に吸収されないようになっています。一種類の食物に頼るのではなく、旬に合わせてさまざまなものを取り入れていけば、さらに安全で幅広い効果が期待できるでしょう。
特別な食材を探す必要もありません。どこにでも売っている食品で抗酸化成分を補うことができます。
野菜・果物の量は、犬で食事全体の5割未満、猫で1割未満を目安に。犬と猫はビタミンCを体内で作ることができるので、若く健康なうちは気にする必要はありません。
スピルリナ、クロレラなどの健康食品もおすすめです。一つの成分だけを抽出したものではなく、抗酸化以外にもさまざまな作用を持つ物質を含むため、食品と同じように考えることができます。
手作り食でよくある間違いは、アスタキサンチンやリコピン、レスベラトロールなどの抗酸化サプリメントはせっせと与えているのに、ビタミンEやセレンなどの必須栄養素が足りていないこと。外因性の抗酸化成分が受け取った有害な電子を処理するには内因性の抗酸化システムの存在が必ず必要になります。
食物アレルギー、脂質代謝障害等の疾患のため、食材で必須の抗酸化栄養素を補えない場合はサプリメントを活用しましょう。
例えば、脂質代謝障害や膵炎などで脂質の摂取を控えている場合は、植物油や卵ではなくサプリメントでビタミンEを補う必要があります。ビタミンEサプリには脂質も含まれていますが、小型犬や猫では数滴、大型犬でも1カプセルあれば十分なので、脂質量には大きく影響することはありません。
肥満、がん、関節炎など、炎症性疾患にかかりやすいことがわかっている品種も若いうちから必要量をしっかりと補ってあげるのがおすすめです。
犬と猫の栄養自動計算機高齢期や疾患時、ストレス時には、体の抗酸化能が低下したり、抗酸化成分の必要量が増えます。
まずは、ビタミンE、セレンなどの基本の抗酸化成分がきちんと摂取できているか確認。特にビタミンEは治療用量で与えると病気の治療に役立つことが多く、病気によってはビタミンCが効果を示すことも報告されています。
ビタミンEこれらの基本的な栄養素を押さえたら、状態に合わせてサプリメントやハーブ、漢方薬を足していきましょう。ハーブや漢方薬には抗酸化作用があるものが多く、他の活性物質の作用と合わせて総合的に悩みに働きかけます。
いくつか例をあげると・・・
- 高齢期:加齢に伴って低下しやすいさまざまな臓器の機能を幅広くサポートするアダプトジェンやミトコンドリア因子(CoQ10など)がおすすめです。これらのハーブやサプリメントには抗酸化作用もあわせ持つものが多くあります。適度な運動も抗酸化酵素群を誘導することで抗酸化能を高めてくれます。
- 陽タイプ:陰陽のうち陽に傾いている犬猫は代謝が亢進しやすく、酸化的ストレスが過剰な状態か、抗酸化能が追いつかない状態になっていることがよくあります。生活習慣、食事バランスの改善に加えて、潤して冷ます補陰系のハーブや漢方薬がおすすめです。補陰剤は抗酸化作用が高い傾向にあります。
- 肥満:α-リポ酸やカルニチンは脂肪の燃焼をサポートすることが示されているミトコンドリア因子で抗酸化成分としても働きます。肥満の原因(甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症、運動不足など)を特定して、原因にあった対策を行うことも大切です。
- 網膜変性、視力低下など目の健康が気になる場合:アイブライト、ビルベリーなどの目に親和性があるハーブがおすすめです。目の健康に大切な抗酸化成分アントシアニンが豊富ということもありますが、もっと重要なのは血流を促す作用。栄養素が目に届きやすくなります。栄養素の分配を司る肝臓をサポートするハーブや漢方薬が効果を示すこともあります。
- 関節炎:炎症と血行障害のどちらが強いかを見極めて、鎮痛、抗炎症、抗酸化、血行促進、冷やす(または温める)など多角的にアプローチできるハーブや漢方薬、サプリメントを組み合わせます。例えば、炎症が目立つ関節炎では、炎症を抑えて熱をとるサプリメントやハーブ(DHA・EPA・ボスウェリア、デビルズクローなど)と炎症性物質の速やかな排泄を促す解毒ハーブ(ダンデライオン、ネトル、バードック、薏苡仁など)を組み合わせます。または、これらの効能をすべてカバーする漢方薬を1種類選びます。
- 肝臓、腎臓、心臓、膵臓、甲状腺、副腎などの臓器疾患:急性期には酸化的損傷と炎症を抑制し、慢性期にはそれぞれの臓器の回復をサポートするハーブや漢方薬を選びます。例えば、腎臓病では霊芝、冬虫夏草といったミトコンドリアに働くハーブ(腎臓にはミトコンドリアがいっぱい!)や地黄を中心とする補腎系の漢方薬、膵臓や甲状腺、副腎の病気ではインスリン抵抗性を緩和するハーブや漢方薬を選びます。
- キャットフードを食べている猫ちゃん:ビタミンEやカルニチンが欠乏すると脂肪肝(肝リピドーシス)になりやすいことがわかっています。手作り食への切り替え後にもこれらのサプリメントが役立つことがよくあります。肝リピドーシスによく使われるコーンシルクには抗酸化成分も含まれています。
すべて書ききれませんが、お近くに自然療法や統合医療の専門医がいたら、悩みや体質、全身のバランスに合わせてぴったりのハーブや漢方薬を選んでもらいましょう。鍼灸も内因性抗酸化システムのサポートに役立ちます。
特に悩みや病気はないけれど、”保険”のために抗酸化サプリメントを取り入れたい場合は、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、リコピン、ルテインのように一つの成分を合成・抽出したものではなく、由来の食物やハーブ全体を摂取できるものを選ぶのがポイント。例えば、オメガ3脂肪酸のついでにアスタキサンチンも摂取できるクリルオイルやサーモンオイル、幅広い作用のあるクロレラやスピルリナなどがあります。ローズマリー、パセリ、ターメリックといった食用ハーブやスパイス、ノンカフェインの緑茶、カレンデュラ、カモミールなどのハーブティーも手軽に取り入れることができます。
酸化的ストレスを減らす
抗酸化成分を与えるだけでなく、毎日の生活の中に潜んでいる余分な酸化的ストレス源を減らすことも重要です。
- 加工過程で酸化した脂質、体の中でフリーラジカルになる防腐剤などが入ったペットフード。手作り食は酸化的ストレスを大きく減らすことができます。
- 洗剤やクリーナーなどの化学物質。マイクロファイバー布やノンケミカル製品を利用すれば、環境保護にも役立ちますね。
- 食事やおやつを与えすぎない。食事の量が増えると、その分、酸化的ストレスも増えます。カロリー量を控えめにし、若干やせ気味の犬の方が長生きするのは、肥満予防だけでなく、余分なフリーラジカルを作らないことも理由であると考えられています。
- 受動喫煙・排気ガス
- 毛の薄いわんちゃん・猫ちゃんは紫外線にも気をつけて。
- 運動量は徐々に増やしていく。いきなり激しい運動を行うと活性酸素が過剰に産生される状態になりますが、適度な運動は生理学的な抗酸化システムを強化し、抗酸化能を底上げしてくれるため、激しい運動による酸化的ストレスに対して体を備えることができます。
- Dündar Y & Aslan R (2000) Antioxidative Stress. Eastern Journal of Medicine 5 (2): 45-47.