今月の「自然派わんにゃんカルテ」ではインドアオンリーで猫を飼育されている飼い主さんにご協力いただき、米国猫獣医学会(AAFP)が提案する「猫給餌プログラム」を試していただきました。
猫の幸せを考えた給餌方法とは
アメリカには猫専門の獣医師によって結成された American Association of Feline Practitioners(AAFP)という学会があり、犬とはまったく異なる猫ちゃん特有の健康管理と福祉についてさまざまなガイドラインの作成や情報発信を行なっています。
2018年、AAFPは捕食動物である猫の行動的な欲求を満たす食事給与ガイドを発表。完全室内飼育、多頭飼いなど現代的な飼育環境で生じやすいストレスやストレスが原因で起こる病気と問題行動を予防または緩和していくことが目的です(Sadek 2018)。
「何を」与えるかだけではなく「どうやって」与えるかも健康の秘訣
満足度が高く、健康的な食生活を送ってもらうには、まずは猫独特の採餌習性を知っておく必要があります。
- 猫ちゃんは狩猟本能がとても強い完全な肉食動物。昔は1日の半分以上を「獲物を探す」「狩る」ために費やしていました。
- 単独で狩りをし、ネズミなどの小さな獲物を捕らえるのがもともとの習性。
- 食べる時も独りの方が落ち着きます。
- 捕らえた獲物のカロリー密度は低く、1日数回狩りをすることで栄養を満たしていました。現代の猫ちゃんは少量のキャットフードで一度に大量のカロリーを消費するため、それが肥満やメタボリックシンドロームを引き起こしていると考えられています。
- 現代に多い完全な室内飼育では「獲物を探す」「狩る」という欲求を満たすことができず、ストレスや運動不足の原因に。多頭飼育になると、独りで落ち着いて食べたい!という欲求が満たされず、早食いと吐き戻し、食いっぱぐれなどによる栄養障害、ストレス、不適切な排尿、膀胱炎などの問題を生み出していきます。
- 1日3回以上に分けて、または、時間をかけて少しずつ食事を摂取するのが理想的。
- パズル式の給餌器を使い、頭を使いながら時間をかけて食事ができるようにする。ペットボトルや空き箱などを利用すれば自作も可能。
- 食事をどこかに隠したり、置く場所を毎回変えて、自分で探させるようにする。五感のすべてを刺激し、運動不足解消にもなる。筋力や関節に問題がなければ高いところに置くのもOK。
- 最初は猫がすぐに理解できる単純な方法がおすすめ。徐々に難度を上げていく。猫によって狩りや獲物探しの方法が異なるので、切り替えには時間がかかり、複数の方法を試す必要があるかも。
猫ちゃんは社会性もあり、食物が豊富な場合は群れを形成して暮らすこともありますが、それでも集団内での関係や居場所は一頭一頭異なります。猫はストレスを隠すのが上手なため、普段一緒に食事をしているからといってストレスを感じていないとは限りません。
- お互いに距離感を持って付き合っている猫ちゃんたちを特定し、食事をする場所、水を飲む場所、トイレを分けてあげるのが理想的。
- 普段から居場所が決まっていれば、そこを食事場所にするのがおすすめ。1階と2階で分けたり、部屋や廊下をペット用のゲート(柵)で仕切れば、他の猫に邪魔されずゆっくりと食べることができる。
- トイレと食事場所は離すこと。
- 一頭一頭がきちんと食事をしているか観察するのは大変。マイクロチップで個体を特定して適量の食事を出してくれる給餌器もおすすめ(編集部注:手作り食では難しいかも)。
- 早食い・がっつく
- 食べている間、常に周囲に気を配っている
- 食べている間、誰かが近づくと唸る、威嚇する
- 食事になかなか近寄ろうとしない、他の猫が怖くて近づけない
- 耳を横または後ろに伏せている
- 背中を丸めて食べている
実際に体験していただきました
手軽なペットボトルを使ってフィーダーを作ってもらいました。転がしたり、手をいれたりしないと食べ物を取ることができません。最初は取り出しやすい口が広いボトルがおすすめです。
- 最初はボトルに慣れてもらうため、好きなおやつ(ヤギのチーズ・Ziwiピークのエアドライ)でお試し。ボトルから食べ物が出るよ、と振って教えてあげました。
- 割とすぐに学んでくれました。おやつを取ろうと何時間もかけて必死になっている姿が可愛かったです。動くおもちゃや猫じゃらしよりも夢中でした。
- ボトルにあけた穴から簡単にでるサイズとなかなか出ないサイズにカットするのがポイント。長時間遊んでくれます。
- 完全に慣れてから食事に切り替えました。角切りにして温めたお肉やお刺身を数本に分けて、リビングのあちこちに配置。朝〜昼ご飯です。
- サプリメントは確実に摂って欲しいので、ヨーグルトや内臓肉、イワシ水煮などのペーストに混ぜて、別にお皿で与えました。
- 夜ご飯(鶏手羽)はキャットタワーの中に隠してみました。でもこれは残骸がこびりついて掃除が大変だったので中止。鶏ネックに切り替えて、前足が入るくらいの大きさの水筒に入れ、転がしておくことにしました。床はフローリングなので、いくらでも汚してください!
- 長時間放置で痛まないか心配でしたが、夕方仕事から帰ってくるとキレイに完食しています。お休みの日に観察しているとだいたい1〜2時間で平らげているようです。前は5分以内に完食していたので進歩ですね。
- ペットボトルを資源ゴミに出す前に徹底的に活用できるのもよかったです。でも洗うのはけっこう面倒。いろいろ試しているうちに、穴をあけやすいボトル、洗いやすいボトル、猫が好むボトルなどがわかってきました。
もともと病気がないため健康効果はまだわからないのですが、仕事から帰宅後の「ご飯クレクレ攻撃」「遊んでくれ攻撃」がなくなりました。あと、嫌いだった野菜も食べるように。
イギリス在住の猫ちゃんたちです。一緒に育ちましたが、仲はよくもなく悪くもなく微妙な関係とのこと。まずは、食事中にお互いがストレスを感じているかチェックしてもらいました。
- 今までお皿は別々ですが一緒にごはんを与えていました。
- あとから来たハーロウは特にストレスサインはありませんでしたが、先住猫のクリッシーは耳を思いっきり伏せて食べてました。
- 試しに別々の部屋で食事させてみました。変化に柔軟なハーロウの方を別部屋に。これがけっこう便利であることがわかりました。2頭とも食事が終わるまで見張っていなくていいですし、違う薬やサプリメントも与えることができます。
別部屋での食事に慣れたところで、牛乳パックや卵パックなどの紙系の食品容器でフィーダーを作って試していただきました。
- AAFPのガイドに掲載されていた卵パックに挑戦。フタを半分に切って、チラ見させるように食べ物を配置。フタをした部分は、手を使わないと取ることができません。
- 食べてはくれたのですが、洗えないので1回しか使えません。ドライフードやおやつ向きかと。
- しかもクリッシーは紙をバリバリにちぎってしまい、部屋中に紙が散乱。卵パックは意外と柔らかいです。掃除が大変だし、食べてしまうと困るので断念しました。
- 次に牛乳やココナッツウォーターなどの紙パックを使用。これは自分で考えたアイデアです。
- こちらは洗って何回か使えました。
- 底の方に食べ物を詰めておくと、手をうんと伸ばさないと届きません。
- 骨のおやつは、穴をあけてそこから出しておくと、穴から出そうと必死になっていました。内側から取るのもけっこう力がいります。
- でもやっぱりクリッシーは数回後に噛みちぎることを覚えてしまいました。
クリッシーのストレスに気づいてあげられたことが最大の収穫。紙パックは噛みちぎってしまうのでうちの子たちには合いませんでした。今はいただいたホジホジフィーダーを愛用しています。
当サイトの監修獣医師が一時保護していた猫ちゃんです。業者さんからサンプルとしていただいたホジホジフィーダーを試してみました。
- 市販のフードパズル・迷図式のフィーダーはドライフード用が多いのですが、ボトルタイプなら手作り食でもいけます。顔を入れることができないため、舌か手を使わないと食事ができない仕組みになっています。
- 一時的とはいえ慣れない人間や犬との同居はかわいそうなので、犬たちは出勤、またはデイケアへ。日中は猫が自由に歩き回れるようにしました。この時間に給餌。
標準的な猫(4 kg)の1日分の食事がちょうど入る大きさ。霊芝は猫と相性のいいアダプトジェンでストレスとストレスによる身体的・精神的影響を緩和し、免疫力をアップ。トライプは腸ケア、ブリス菌は口腔ケアに。
- 野菜ペースト以外は完食。カーペットが汚れていないので、割と上手に取れていたのではないかと想像。最初の数日は便の状態が安定していませんでしたが、時間とともに改善。キレイなウンチをするように。ボーンスープをどうやって飲み干していたのかはナゾのまま。
- カルシウム源として、鶏の手羽か、うずら丸ごとをお皿にのせ、犬たちが届かないテーブルやキッチン台、本棚の上に置いておきました。これも無事に見つけてくれたよう。
- ワクチンと去勢・歯石除去手術を受けて数週間の滞在後、フィーダーと一緒に無事に新しい里親さんに引き取られていきました。
警戒心の強い猫ちゃんだったので基本的にそっとしておきました。私たちの前では食事をしませんでしたが、独りになるとちゃんと食べていたようです。食事中だけでも慣れない環境にいることを忘れられたのならよかったかなと。
皆さんはどんな工夫をしていますか?よいアイデアがありましたら是非編集部までお寄せください。
- Sadek T (chair), Hamper B, Horwitz D, Rodan I, Rowe E, Sundahl E (2018) Feline Feeding Programs: Addressing behavioral needs to improve feline health and wellbeing.Sadek T (chair), Hamper B, Horwitz D, Rodan I, Rowe E, Sundahl E. J Feline Med Surg. Nov;20(11):1049-1055.