獣医師による手作り食・自然療法ガイド

手足を舐める犬

犬や猫の不調はちょっとした行動の変化として現れることがよくあります。リッキングもその一つ。一時的なものだろうと放って置くと、悪化したり習慣化することがあり、夜中に愛犬が手を舐める音で目が覚めることもしばしば。

1日数回、特に食後や散歩後、眠る前、リラックスしている時に軽く舐める程度なら正常な行動の範囲です。でも1日中手を気にしていたり、飼い主がいくら止めてもしつこく舐め続けているなら注意が必要です。

まずは病変がないかチェック

爪をチェック

爪が伸びていたり、割れたりしてしませんか?爪は短すぎても長すぎても不快感に。爪の切り方をチェックしましょう。

肉球や指の間をチェック

植物の棘などが刺さっていないか、できものがないか、指の間まで入念にチェックしましょう。この時、手を引っ込めたり、鳴いたりした場合は、痛みが隠れている可能性があります。

足浴のすすめ

特に外見上の問題がない場合、手足を舐める行動の多くは足浴で改善します。

外出中に手足についた花粉、汚れ、ホコリ、農薬、アレルギー物質、カーペットや床に使う化学洗浄剤・・・私たちが思っているよりも犬と猫の肉球はたくさんの刺激性物質にさらされています。

1日1〜2回、手足を洗ってあげるだけで随分と楽になります。ぬるま湯でも十分ですが、私たちはカモミールやカレンデュラなどのハーブティーがお気に入り。炎症やかゆみ、乾燥を抑える手軽な方法で、舐めても安全です。

散歩の前に作っておけば、帰ってくる頃には冷めてちょうどよい温度に。手足を1本ずつ浸して、指の間もよく洗ってあげましょう。あとは乾いたタオルで拭いてあげるだけです。

それでも改善しない場合は

足浴を続けても改善しない場合は、他の理由が隠れています。他の症状と合わせて判断しましょう。いずれの場合も経過が長くなるほど、回復にかかる時間も長くなるので早めの対策がおすすめです。

痛い・不快感がある

一ヶ所だけしつこく舐めている場合は、痛みがあるのかもしれません。特に関節に注意して検査してもらいましょう。関節炎と診断されたら、薬を使わなくてもオメガ3脂肪酸、ボスウェリアなど、自然な方法で対策を行うことができます。

首輪の使用をやめましょう。

不快感は舐めているところから発しているとは限りません。例えば前足の神経は頚部〜前胸部の脊髄から始まっています。特に首輪をつけていて、散歩のときにリードを引っ張りがちな子は要注意。頚部の神経を圧迫しないようハーネスに変えてあげてください。

神経の損傷が原因で手足を舐める子には、理学療法や鍼灸が役に立ちます。

かゆい

細菌や真菌による感染症の初期には目に見える異常がないことがあります。初期のうちなら、足浴で改善します。

吐き気がする

リッキングは食物アレルギーでよく見られる症状の一つです。よく観察すると、うんちが柔らかめ、湿疹やできものがないのに体を痒がる、ときどき吐く、といったはっきりと病気というほどではなけれども微妙な症状があるのにも気づくでしょう。軽度のアレルギーを起こしている証拠です。

食物アレルギーがなくても、別の理由で胃腸の不快感を感じていることもあります。手足だけではなく、床や家具などを舐める、イライラとものに八つ当たりする、掘るといった行動がみられることがあります。

原因はハミガキペーストの後味がまずかったという単純なものから、環境アレルギー、炎症性腸炎、慢性膵炎、腸管寄生虫症、肝臓や腎臓などの内臓の問題までさまざまです。まずは健康診断を受けましょう。

MEMO
手足ではなく、床や家具などの表面を舐めるというとてもよく似た行動問題がありますが(ELS)、この症状を示す犬の6割は消化器系疾患を持っていることが報告されています。

ペットフード

ペットフードをやめるだけでリッキングがなくなることもよくあります。ダニが混入していたり、体に合わない低品質の食材、酸化変性物質、化学合成物質、防腐剤など、さまざまな原因が考えられています。

異物

食道、胃、腸管に何かが詰まっている時にもリッキングが激しくなることがあります。固いものが詰まっている場合は、食欲・元気廃絶、嘔吐、吐気など明らかな異常が現れますが、ロープや草、毛玉などの柔らかいものが詰まっている場合はリッキングや流涎(よだれ)だけが症状の場合があります。

手足だけではなく、空中や家具、床など、ところかまわずに舐める動作を1日中繰り返したり、よだれ、オエっと吐くような仕草が見られることがあるかもしれません。

ヒマを持て余している・ストレス・不安障害

留守番が長い、十分な運動をしていない、精神的に満たされていないといった場合や何らかのストレスや不安を感じている場合にもリッキング行動が激しくなることがあります。同じところを繰り返し舐める傾向があるため、毛が抜けて皮膚炎を起こし、腫瘍のように真っ赤に腫れあがることがあります。これが細菌による二次感染を起こしてさらにリッキングに拍車がかかることも。

まずは患部の検査を行い、感染症、腫瘍、関節炎、内分泌系、神経系の異常、アレルギー、胃腸炎などがないか確認し、異常が見つかれば適切な治療を行います。首輪もハーネスに変えましょう。不安障害や恐怖症には行動療法を行います。

一昔前に抗うつ薬で治療する方法が流行りましたが、多くの場合は、適度な運動、遊び道具(長時間かじれる生骨)、バランスの取れた手作り食、アレルゲン除去食で改善します。

精神的なストレスに起因する舐性皮膚炎には補肝湯という漢方薬を使うことがあります。物音に敏感で、不安症、縄張り争い、恐怖症、不眠症、落ち着かないなどの行動問題以外には特に医学的問題がなく、よく夢を見る血虚タイプの子に合っています。

ハーブの与えすぎ

ハーブの飲み合わせが悪かったり、不必要にたくさんの種類を与えている場合にもリッキング行動がみられることがあります。よくあるのが、胆泥や消化障害があると言われて、胆汁排泄作用のあるハーブや健胃作用のあるハーブを何種類も与えてしまうパターン。胃腸を刺激しすぎて気持ち悪くなるのも当然です。また、暑がりの子に体を温めるハーブばかりを与えると、イライラや落ち着きのなさがリッキングとして現れることがあります。

専門医に相談して、必要なものを必要なだけ処方してもらいましょう。漢方薬に切り替えるのも一手です。漢方薬は複数の種類のハーブがバランスよく配合されているため、一種類の効能だけに偏ることがありません。

「ナチュラル=無害」ではありません。