今回の自然派わんにゃんカルテでは、今年21歳で亡くなるまで定期健康診断で常に最優秀の成績を維持していたルナちゃん(日本猫・避妊雌・FeLV陰性・21歳)をご紹介します。
ルナちゃんは、10年ほど前に「リンパ腫」というがんになり、その時に抗がん剤治療を担当していたのが当サイトの獣医師でした。治療の開始と同時に手作り食に切り替え、さまざまな漢方薬を併用しながら無事に治療を乗り切ったルナちゃん。その後は再発もなく、現代医学的にも漢方医学的にも「今までに出会った猫の中でもっとも健康」と獣医師に太鼓判を押されつづけた奇跡の猫ちゃんです。私たちが推奨する猫ごはんにはルナちゃんの食事の内容が反映されています。
食事のこと、がんの治療のこと、そして健康維持の秘訣について、飼い主さんと獣医師に詳しい話をお聞きしました。
ルナちゃんはどんなこ?
- 若い頃はおてんばで、嬉しかったり、怒ったりする表情や仕草がはっきりしていて活発な子でした。飼い主の私はひっかき傷だらけ。避妊手術をしたあと、7〜8歳くらいから落ち着いてきて、甘えっ子に。私が帰宅すると大歓迎でザラザラの舌で顔中なめられました(これをきっかけに私は無添加の安心コスメを使うように)。
- 完全な室内猫で、昔は当時流行っていたニュートロのドライフードを与えていました。一年に一回ワクチンと健康診断を受け、ガンと診断されるまで特に健康問題はありませんでしたが、やや太り気味だったかなと思います。
- 胸の白い部分がシルクのように滑らかで、触るだけでいつもとても幸せな気持ちになりました。抗がん剤治療中は貧弱になってしまったのですが、治療後またふさふさに。
- 今年の春に21歳で亡くなりました。かかりつけの先生曰く、老衰とのこと。本当に本当にたくさんの愛情と思い出をもらいました。大きすぎる喪失感は言葉で言い表すことが到底できませんが、一緒に寝ていた私が気づかないくらい静かに亡くなったのが慰めです。
手作り食に切り替えたきっかけは?
リンパ腫と診断を受けた時に切り替えました。
それまでずっと嘔吐や下痢、食欲不振が続いていて、普通の検査ではなかなか原因がわからず、大学の精密検査でようやくがんだと判明。随分と痩せてしまっていたので、元気を取り戻せるならともう何でもします!と。
今でもよく覚えているのですが、その時に、先生とお約束した大事なことが2つあります。
- 猫の体の負担にならない自然な食生活をできるだけ長く維持すること
- 食道カテーテルを設置してでも胃から食事を摂取すること
一つ目は、自然治癒力を回復させるためだそうです。ペットフードには本来なら猫がうまく処理できない材料(糖分、穀類、芋類、豆類、合成ビタミンなど)が使われており、それが積もって体の負担になっているので、まずはこれを取り除いてあげるだけで体が楽になります。
あと、がんの治療中は、がん自体の影響と抗がん剤の副作用の両方で食欲がなくなってしまうのですが、その対策に缶詰やパウダーの高カロリー栄養食が販売されています。そういう人工合成食は便利かもしれませんが、食物がもつ生命力は入っていません。「生きた」食事を与えることが本人の「生きる」力につながると信じて、できるだけ新鮮な食材を与えることを目標にしました。
二つ目は、食事量を維持することが抗がん剤治療を成功させる秘訣だそうです。猫は食事を取らなくなるとすぐに電解質や酸性アルカリ性のバランスが崩れてしまいます。いざというときは点滴でもサポートすることはできるそうですが、腸を動かすことで機能や血流を維持することも、その後の回復のために重要なのだそうです。
先生は治療、私は食事と役割を分担してがんばりましょうといわれたのも印象的でした。おかげで私は食事の準備だけに専念することができ、薬を飲んでくれないときや調子が悪そうなときは、悩まずにすぐに病院に連れて行って先生や看護師さんに注射や点滴、浣腸をしてもらうことができました。
ちょっとしたことでもこまめに相談し、不安や疑問はため込まないようにしました。不安感は猫に伝わってしまうので。
担当ではない先生もとても親身にお世話をしてくださり、私の母も合わせて五人六脚くらいの看護体制で幸せな子だったと思います。
健康優良猫の食事とは
(飼い主さんのお話を元にスタッフが再現したものです。)
私が手作り食を始めた頃は今のようにネットの情報も本もありませんでしたから、先生にいただいた栄養計算表をベースに、理想体重の 6 kgに合わせて10年以上ずっとそれを維持していました。
当時もらった資料。まだ大切に保管しています。
朝、1日分の材料をすべて混ぜておき、1日数回に小分けして与えます。与えるときに熱い鶏ガラスープを少しずつかけて、全体を温めます。
肉と魚を毎日1種類ずつ混ぜました。リノール酸源になる鶏肉、ビタミンD源になる青魚(鰯など)、鉄源になる赤肉を週1〜2回ずつ必ず使うようすれば、あとは食べてくれるものならなんでもOK、ということだったので、牛肉、ラム肉、鴨肉、ウズラ肉、刺身(鮭、秋刀魚、アジ、白身魚、マグロ、ハマチ、カツオ、帆立、甘海老、イカ、タコなど)と手に入る限りの食材を揃えてローテーション。この数年は鹿肉なども利用していました。すべて人の食用で、脂身や皮もついたままです。
カロリーが低いものも高いものもありますが、与える量はすべて 1 日 110 g(肉55 g + 魚 55 g)ずつ。1日1日のカロリーを計算しなくても、1〜2 週間単位で体重が変わらなければ大丈夫なのだそうです。治療中は体重の増減が激しかったので、体重が減ったら5 g 増やし、増えたら5 g 減らす、というのを繰り返していました。治療後は55 gで体重がずっと安定していました。
これに生のウズラの卵を1日1個。たまに鶏やアヒルの卵も。
闘病中はカルシウムサプリメントを与えていました。
回復してからは鶏の手羽中やネックを1日1本。じゃらしながら与えていました。手羽先や手羽元、ウズラだとなぜか上手に食べることができず、いつも格闘(笑)歯みがきにも、おやつにも、おもちゃにも大活躍でした。
最後の1〜2年は噛む力が弱くなったのか残すことが多くなり、ネックをミンチにしたり、カルシウムサプリメントを使ったりしていました。
いつも購入できるのは鶏のレバーとハツ、砂肝でした。商店街のお肉屋さんを定期的にのぞいて、あればマメやホルモンを買い占めて冷凍保存。数年前からはフィーラインナチュラルのグリーントライプもプラス。
私が食べるものをお裾分け。ブロッコリー、ほうれん草、キャベツ、スプラウト、にんじん、レタスが多かったです。パセリ、コリアンダーなどのハーブも。大根やカブは嫌いでした。1日小さじ1〜2杯ほど。
- タウリン(200 mg)
- オメガ3脂肪酸(DHAとEPAを合わせた量で100 mg・魚油)
- ビタミンE(25 IU = 100 IUのカプセルをあけて1〜2滴)
- 卵殻パウダー(カルシウム)+ ケルプパウダー(ヨウ素) + 酵母フレーク(ビタミンB群)+ スピルリナを混ぜたもの:先生のわんちゃんを真似て自己流にアレンジ。ケルプパウダーは1日の量がとても少ないので、他の粉物と一緒に2〜3ヶ月分を混ぜると、ちょうど小さじ1/4杯1日2回の量になり、与えやすくなりました。
- 抗がん剤を始めると腫瘍が小さくなって食欲も自然に回復すると言われましたが、本当にその通りで、手作り食への切り替えも問題なく行うことができました。
- 治療中も生食を与えていました。抗がん剤の投与前には必ず血液検査を行うので、その時に白血球が下がっていたり、肝臓の数値が上がっているときは加熱食に切り替えるように先生から指示が入りました。
- チューブフィーディングはトータルで3回ほど必要でした。最初は鼻から胃へ細いチューブを入れてもらったのですが、すぐに詰まってしまうし、本人も嫌がったので、簡単な麻酔をかけて食道にチューブを入れてもらいました。自力で食事を食べてくれない日にはこのチューブから流動食を少しずつ流し込みます。一番の心配は麻酔でしたが、本人も私もストレスがずっと少なくなり、やってよかったと思いました。ハゲはしばらく残ってしまいましたが…
- 気持ち悪そうにしているときは無理して与えず、病院で点滴栄養をしてもらいました。
- 1日分の材料に水少々を加えてミキサーで混ぜます。すぐに使わない分は冷蔵庫へ。冷えると脂肪分が固まってプルプルになりますが、お湯を混ぜると元に戻ります。
- 与える前に温めたスープでのばします。薬やサプリメントを混ぜてから病院でもらったシリンジに詰めます。
- 吐かないよう注意しながら少しずつチューブから注入。気持ち悪そうにしたらすぐに中止。時間を置いて再チャレンジします。
- 流動食を流し終わったら、チューブが詰まらないようぬるま湯を注入して洗い流します。飲水量も維持できて一石二鳥。
- 様子をみながら1〜2時間おきに与えます。
- 食欲が出てきたら口から流動食、そして固形食へと少しずつ切り替えていきます。
漢方薬によるサポート
ルナちゃんは、がんの治療中も治療後も、その時々の状態「証」に合わせてさまざまな種類の漢方薬を飲んでいました。その数は10年間で計11種類。その中でも特に大切なものを選んで獣医師に解説してもらいました。
六君子湯は長引く病気または治療で体力も気力も弱ってしまい、貧血、食欲不振、胃腸の弱りによる消化不良や嘔吐、軟便、下痢が続く犬や猫に使われます。
ルナちゃんに六君子湯を処方したのは2回。最初は、がんが診断されたとき。がんのためにすっかり弱ってしまった体をサポートし、消化器系の症状を緩和することが目的でした。2回目は抗がん剤治療の終盤から治療が終わって体力が回復するまで。抗がん剤で疲弊した体をサポートし、悪液質を防ぐことが目的でした。
がんや腎臓病などの悪性疾患が進行すると栄養代謝障害から筋肉や臓器のタンパク質の分解という食べさせても食べさせても痩せていく悪液質という状態に陥りやすくなります。当時はまだ詳しい機序はわかっていませんでしたが、現在では、六君子湯がグレリン受容体に作用することでこの悪液質を緩和することがわかっています。六君子湯は全体的に痩せて弱々しく、舌や歯茎の色が薄く、脈が弱い子に向いています。
猫ちゃんの食欲不振によく効く漢方薬で、肝リピドーシス、早期腎臓病、早期肝臓病、糖尿病などさまざまな病気の背景にある胃腸の冷えと栄養代謝障害を緩和してくれます。ルナちゃんには抗がん剤の副作用で食欲が落ちた時に処方。胃苓湯は、寒がりで、草を食べる、未消化物を吐くといった胃腸の弱りの症状があり、分泌物が多く、軟便気味、舌が水分で腫れぼったくなるなど”湿っぽい”症状がある子に向いています。
がんを克服した後のルナちゃんは食事療法だけでずっと健康な状態を維持していました。年に3回受けていた血液検査と尿検査もすべて正常値。漢方医学的にも、陰陽・虚実・気血水のバランスが常によく、脈診、舌診、経穴診でも長いこと異常が見つかりませんでした。飼い主さんが毎日の主食によりとりどりの新鮮で「生きた」食材を取り入れていたからでしょう。できるだけたくさんの種類をとはいいましたが、ここまでできる方はなかなかいません。
最後の数年は直接お会いすることができませんでしたが、17歳を過ぎた頃から足腰の弱り、乾燥肌、朝起きなくなったなどの腎陽虚(老化)のサインがみられるようになったため、アンチエイジングを目的に八味地黄丸とメディカルマッシュルーム(霊芝、冬虫夏草等)を開始。亡くなる数週間前の血液検査や尿検査でも異常はなく、高齢の猫ちゃんにありがちな腎臓や内分泌系の異常も見つからなかったそうです。ルナちゃんも本当によくがんばりました。
抗がん剤の治療中と治療後は、肝臓や腎臓を保護する目的で、ミルクシスルと地黄(レーマニア)を継続的に処方。リンパ腫という免疫細胞のがんだったので、免疫系を刺激するハーブ(エキナセア、アストラガルスなど)を単独で与えることは避けました。
ルナの食事を取り上げていただいてありがとうございました。海外に出られてしまった先生をしつこく追っかけた甲斐があったというものです(笑)
ルナの食事を作ることは、私自身の食生活も見直すきっかけになり、生まれつきと諦めていたアトピーや胃弱が随分と改善しました。食べるものを変えるだけで体が変わるということを身をもって体験できたことは、ルナに教わった一番大切なことかもしれません。
このサイトをご覧になっている皆さんにも同じ経験が訪れることを願っています。