犬と猫、両方と一緒に暮らしている方も多いのではないでしょうか。一見して仲良く暮らしているようにみえても実はストレスが溜まっていることが多く、ストレスによる「不定愁訴」で病院にやってくる犬や猫もよくいます。
今回、イギリスの動物行動学研究グループによりフェロモン製剤が犬と猫の関係改善に役立つという研究成果が発表されたので、概要をご紹介します。
論文情報
Prior MR, Mills DS. Cats vs. Dogs: The Efficacy of Feliway Friends and Adaptil Products in Multispecies Homes. Front Vet Sci. 2020;7:399. Published 2020 Jul 10. doi:10.3389/fvets.2020.00399
使用したフェロモン製剤
母犬のドッグ・アピージング・フェロモン(DAP)を配合。日本では正式販売されていませんが、動物病院やネットで正規品を購入することができます。
母猫のキャット・アピージング・フェロモン(CAP)類縁体を配合。海外でフェリウェイ・フレンズやフェリウェイ・マルチキャットの名前で販売されています。日本で正式販売されている猫フェイシャルフェロモンF3配合のフェリウェイとは異なるので注意。
試験方法
オンラインや院内掲示板で参加者を募集。犬と猫の関係に改善の余地があるなど、参加条件をすべて満たしており、行動に影響を与える薬物や他のフェロモン剤を使用していなかった家庭を対象とし、ディフューザータイプのフェリウェイ・フレンズまたはアダプティルのいずれかを4週間にわたり使用。飼い主も研究者も誰がどの製品を使っているかは不明のまま試験が行われました(二重盲検)。
犬と猫の好ましい行動と好ましくない行動について飼い主が毎日観察。ディフューザーの使用を開始する2週間前から使用開始後4週目まで頻度を記録し、スコア化しました。
- 犬猫間の好ましくない行動(10項目)
①猫が犬の通り道をふさぐ ②犬が猫を追いかける(または猫が犬から逃げようとする)③犬が猫に唸る ④猫が犬から隠れる ⑤にらむ ⑥猫パンチ ⑦犬が猫に吠える ⑧猫シャー ⑨犬が飼い主と猫の接触を邪魔する ⑩猫が飼い主と犬の接触を邪魔する
- 犬猫間の好ましい行動(7項目)
①一緒に楽しく遊んでいる ②近くで寝ている ③犬が猫の毛づくろいをしている ④友好的に迎える ⑤猫が犬の毛づくろいをしている ⑥同じベッドで寝ている ⑦同じ部屋でどちらもくつろいでいる
このほか、犬猫それぞれのリラックス効果についても評価が行われました。
参加した飼い主36名のうち、34名が試験を最後まで完了。この34名の観察データの解析が実施されました。
アダプティルを使用した家庭とフェリウェイを使用した家庭では、犬猫の飼育頭数、性別、避妊去勢の有無、年齢、同居期間に特に違いはありませんでした。
アダプティルとフェリウェイを使用した家庭のいずれでも「犬は猫に関心があるのに猫が嫌がる」という関係が多く、その逆は少数派でした。「互いに無関心」「互いに避ける」も少数ずつ含まれていました。
結果フェリウェイとアダプティルどちらも効果あり!でも・・・
4週間の使用後、アダプティルを使用した家庭の47%、フェリウェイを使用した家庭の29%で好ましくない行動の総スコアが50%以上減少。
個々の行動を見てみると、アダプティルとフェリウェイのいずれでも特に次の行動が減少していました。
- 犬が猫を追いかける(または猫が犬から逃げようとする)
- 猫が犬から隠れる
- 犬が猫に吠える
- にらむ
4週間の使用後、アダプティルを使用した家庭の35%、フェリウェイを使用した家庭の47%で好ましい行動の総スコアが50%以上増加。
行動別では、アダプティルにより次の行動の頻度が特に増加していましたが、フェリウェイでは特に増加した行動はありませんでした。
- 友好的な態度で迎える
- 同じ部屋でくつろいでいる
アダプティルを使用した家庭では、4週間の使用後、犬のリラックス・スコアが改善しましたが、猫のリラックス・スコアはとくに変化しませんでした。対照的に、フェリウェイを使用した家庭では、4週間後に猫のリラックス・スコアの改善が確認されましたが、犬ではリラックス効果は確認されませんでした。
- 犬猫間の関係改善にはアダプティルもフェリウェイも効果的。でもアダプティルは好ましい行動を助長する効果もある。
- リラックス効果は種特異的:アダプティルは犬に、フェリウェイは猫に。
アダプティルの方でより広い効果がみられたのは、今回の試験に参加した家庭で猫が犬を嫌がるケースが圧倒的に多かったためではないかと考えられています。アダプティルで犬がリラックスすることで、猫が嫌がる行動をとることが少なくなり、猫との衝突も減り、猫が犬に好意を持ちやすくなる・・・ということですね。
犬が猫を嫌がる家庭が多かった場合は、また違った効果がみられたかもしれません。
また、アダプティルの成分とフェリウェイ・フレンズの成分は構造に共通点があるため、種を超えた効果がある可能性もあります。次はアダプティルとフェリウェイ両方を同時に使ったらどんな結果になるのかも知りたいところですね。
犬と猫の相性は実際に飼ってからでないと分からないことがあります。犬や猫がひとりで落ち着ける安全な隠れ場を作ってあげたり、生活の動線がなるべく重ならないようにするといった工夫で関係が改善しない場合は、フェロモン製剤も試している価値がありそうです。
効果がでるまで数週間以上かかることを忘れずに。