獣医師による手作り食・自然療法ガイド

論文紹介 | 犬膿皮症におけるマヌカ精油・必須脂肪酸・N-アセチルシステインスプレーの効果

欧州皮膚科学会・米国皮膚科学会の学会誌「Veterinary Dermatology」に掲載された最新論文です。PYOCleanというラベンダー精油・マヌカ精油・必須脂肪酸・N-アセチルシステインなどの天然成分を配合したスプレー製剤を抗生物質と併用することで犬の表在性膿皮症の治癒が促進されることが報告されました。

試験方法

無作為化比較対照盲検臨床試験

対象動物

体表に左右対称性に病変が認められた表在性細菌性膿皮症の犬12頭(雌雄6頭ずつ・2~12歳)。ダニ・マラセチア感染や深在性膿皮症が認められた症例、外用薬(過去7日以内)、抗生物質(過去3週間以内)、免疫抑制剤(過去1カ月以内)の投与が行われた症例は除外。

治療

全頭セファレキシン(15 mg/kg・1日2回)を経口投与し、体の半分(A面)に PYOClean スプレーを、残りの半分(B面)にプラセボスプレーを1日2回適用(約0.03 mL/cm2)、4週間継続。飼い主・獣医師ともに体のどちら側にどのスプレーを用いたかは知らされておらず、ノミ・マダニ駆除薬(スピノサドまたはフルララネル)以外の他の治療薬の併用は禁止。

評価方法(0・1・2・3・4・5週目に実施)

臨床スコア:

  • 「丘疹・膿疱」「表皮小環」「痂皮・鱗屑・落屑」の3種類の病変の重症度を5段階評価(0:なし 1:軽度 2:中等度 3:重度 4:非常に重度)
  • 病変範囲を5段階評価(0:なし 1:1~2ヶ所 2:体表の5%未満 3:体表の5~50% 4:体表の50%超)
  • 被毛の状態・艶の5段階評価(0:非常に良い 1:良好 2:正常 3:悪い 4:非常に悪い)
  • 総スコア=上記5種類のスコアの合計(0~20点)

 

細胞診スコア:

  • 炎症細胞数と細菌数を5段階評価(0:なし 1:散見 2:少量だがすぐに検出可能 3:多数で即検出される 4:非常に多数)

 

統計解析

  • ウィルコクソンの符号順位検定:各時点でのA面とB面のスコア比較、0週と1~5週のスコアの比較

結 果

完全治癒率の推移の比較


  • 全頭が治験を完了。有害事象なし。
  • 開始時(0週)の各平均スコアに左右の体側で有意差なし
  • 総スコアと細胞診スコアで分けて解析を行ったところ同じ結果が得られたため、これらのスコアを足した全スコア(最低0点から最高で24点まで)で治療効果の評価を実施。
  • PyoCleanをスプレーした側のスコアの方が早く低下したが、4~5週目には有意差なし。

結 論

PyoCleanスプレーは、抗生物質と併用することで通常は3~4週間かかる表在性膿皮症の治療を早めることができた。

獣医師の解説

従来、犬の表在性膿皮症の治療は抗生物質の全身投与(経口または注射)が中心でしたが、耐性菌の出現により、抗生物質の投与だけでは治療が困難な症例が出てきたこと、それと同時に耐性菌の出現を防ぐ必要性が高まったことから、消毒剤や殺菌剤を含む外用薬の治療も併用されるようになりました。

特に殺菌消毒剤クロルヘキシジンを有効成分としたシャンプー剤が耐性菌にも効果があることから多用されていますが、週2~3回の薬浴を行わなければならないため、飼い主にとっては非常な負担となり、また、正常な皮膚バリアの構造や細菌叢のバランスも損なわれることになります。

そのため、今回の論文で使用されたPyoCleanのような天然成分を生かした製剤の効果が実証されれば、臨床効果、環境影響、家庭における日常管理のあらゆる面で非常に役立つことになります。

マヌカという植物の蜜を集めた「マヌカハニー」の殺菌効果は有名で、ご利用になっている飼い主の方も多いでしょう。マヌカ精油(マヌカオイル)は同じ植物から抽出した精油で、やはり高い抗菌効果で知られています。

どちらも多剤耐性菌を含む広範な種類の細菌に対する効果がさまざまな実験で証明されており、犬や猫においてもマヌカハニーはそのまま内服や外用に、マヌカ精油は薄めて外用に使用されています。

アセチルシステインは、外用した場合、皮膚表面における細菌膜(バイオフィルム)の形成を抑制することで細菌の増殖を抑えます。

PyoCleanスプレーには、これらに加えて皮膚バリアを保護する必須脂肪酸が配合されています。

注意
マヌカハニーなどのはちみつ製品は免疫力が非常に低い幼犬・幼猫への使用には注意が必要です。また、アレルギーを起こすことがあります。