獣医師による手作り食・自然療法ガイド

さまざまな病気を引き起こすグルテン

グルテンという言葉を聞いたことはあるでしょうか。

主に小麦に含まれる蛋白質成分で、ペットフードにも蛋白質量を底上げするためのコストのかからない材料としてよく使用されています。

獣医師による自然食・自然療法ガイド

あるドッグフードの原材料

近年、このグルテンが炎症性腸疾患、自己免疫性疾患、がん、糖尿病、アレルギーなど、さまざまな疾患と関係していることが人および動物の研究から明らかになっています [1-5]。

グルテンの作用

私たち動物は、食べ物だけではなく、細菌や毒素、環境アレルゲンなど有害な物質も含めてさまざまなものを口から取り入れています。唾液、胃酸などの殺菌・変性作用に加えて、腸管壁もこれらの有害物質が体の内部に入り込まないように守るバリアの役割を果たしています。

このバリアを壊してしまうのがグルテンです。食物中のグルテンは胃酸や胆汁酸、消化酵素の作用を受けず、そのまま腸管に入り、腸細胞を刺激してゾヌリンという分子を放出させます。

腸内に放出されたゾヌリンは腸バリアに作用し、腸細胞同士の結合をゆるめて隙間を作ります。腸バリアに隙間ができると、腸を通過中の有害物質が腸から漏れ、体の中に入り込むようになります。

これがいわゆる リーキーガット症候群(腸漏れ症候群)と呼ばれる状態です。生理学的には「腸透過性が上昇」した状態です。このような状態になると、本来ならば体外に排泄されるはずの有害物質や細菌が体内に入り込むようになります。

腸管には本来、これらの侵入物から体を守る腸管関連リンパ組織と呼ばれる免疫系組織が備わっていますが、このように常に侵入物にさらされた状態になると、そのバランスが崩れ、免疫機能が異常に亢進したり、逆に働かなくなったりします。

免疫機能が異常に働くようになると自己免疫性疾患を起こしやすくなり、また、腸管の免疫系をすり抜けた有害物質や細菌は全身の組織に炎症や損傷を引き起していきます。

漏れ出てしまうのは有害物質だけではありません。未消化の食物も腸バリアを越えるようになり、これが食物アレルギーを引き起こします。

さらに、腸管免疫系は全身の免疫系とも連絡を取り合っているため、腸管免疫系の異常は、全身の免疫系の異常も引き起こし、がんなどの異常な細胞を排除することができなくなります。

グルテンの感受性には個体差がある

このような理由から、私たちは、グルテンや小麦を含むペットフードの使用や、手作り食への小麦の使用は推奨していません。

ただし、すべての犬や猫でグルテンによって重度の疾患が引き起こされるわけではありません。

全粒小麦で作られたパスタを主食にして20歳まで病気せずに生きた犬もいますし、グルテンをほんの少し食べただけで下痢や嘔吐を起こす子もいます。

ゾヌリンの遺伝子型や発現量、免疫応答系には遺伝的な個体差があることが人で知られており、おそらく犬や猫でも同じなのではないかと想像できます。

しかし、おそらく最も恐ろしいことは、グルテンを摂取していても明らかな病気としては現れず、軽度の炎症が密かに進行していくことで、一見したところ関係のない問題を抱えている犬猫が非常に多いのではないかということです。

例えば、私たちが経験しただけでも次のように多くの問題がグルテンをやめただけで解消しています。

  • 外耳炎(難治性・再発性を含む)
  • きちんと食べているのに太れない
  • 減量用フードをあげているのに体重が増える
  • 炎症性腸疾患
  • 自己免疫性の皮膚疾患
  • (グルテン以外の物質に対する)食物・環境アレルギー
  • 原因不明の下痢や嘔吐
  • 関節炎
  • 縄張り行動・攻撃性
  • 排尿・排便問題

こういった例は気づかれていないだけで潜在的に非常に多いのではないかと私たちは考えています。もし愛犬や愛猫がこういった問題を抱えていて、何をやっても治らない場合は、諦める前にぜひ食事の内容を見直してみてください。

グルテンと食品

グルテンは、穀物に含まれています。

グルテンを含む穀類

  • 小麦
  • 大麦
  • ライ麦
  • オーツ麦(オート麦)

このうち、特に小麦が健康の害になることがわかっています。

グルテンを含まない穀類

  • キノア(キヌア)
  • きび・あわ・ひえ(ミレット)
  • アマランサス
  • とうもろこし
  • そば
MEMO
ペットフードによく使用されているコーングルテンは、とうもろこしに含まれる蛋白質成分の総称で、実際にはグルテンは含まれていません。

グルテンの関与が疑われる場合は、数週間~数ヶ月の間、グルテンを含む食品すべての摂取をやめて様子を見ます。症状の改善は、数日という短期で現れることもありますし、数週間かかることもあります。

症状が改善したら、大麦やライ麦、オーツなど、グルテンによる障害を起こしにくい穀物を少しずつ取り入れていきます。最終的には小麦を与えて、症状が再発するか確認し、再発すればグルテン不耐性と確定診断されます。しかし実際には、せっかく治った症状を再発させたくないため、グルテンフリーの食事を生涯にわたって続ける飼い主の方が多くなっています。

グルテンをやめただけで症状が改善しない場合は、他の原因(下を参照)を疑いましょう。

腸にスキマを作るグルテン以外の因子

グルテン以外にも、リーキーガットの原因になることが知られている要因として次のものが報告されています。

  • 細菌などの感染症
  • 毒素
  • 放射線・化学療法などの治療
  • ワクチン
  • 抗生物質など腸内細菌叢のバランスを崩す薬物
  • レクチン
  • 環境および食物中のアレルゲン(牛乳、牛肉、ノミ、ハウスダストなど)
  • ストレスなど

リーキーガットが疑われた場合、グルテンに加えてこれらの要素をできるだけ少なくすることで腸の回復を促すことができます。

  1. Drago S et al. Gliadin, zonulin and gut permeability: Effects on celiac and non-celiac intestinal mucosa and intestinal cell lines. Scand J Gastroenterol. 2006 Apr;41(4):408-19.
  2. Fasano A. Zonulin and Its Regulation of Intestinal Barrier Function: The Biological Door to Inflammation, Autoimmunity, and Cancer. Physiol Rev. 2011 Jan;91(1):151-75.
  3. Garden OA, Pidduck H, Lakhani KH, Walker D, Wood JL, Batt RM. Inheritance of gluten-sensitive enteropathy in Irish Setters. Am J Vet Res. 2000 Apr;61(4):462-8.
  4. Lowrie M, Garden OA, Hadjivassiliou M, Harvey RJ, Sanders DS, Powell R, Garosi L. The Clinical and Serological Effect of a Gluten-Free Diet in Border Terriers with Epileptoid Cramping Syndrome. J Vet Intern Med. 2015 Nov-Dec;29(6):1564-8.
  5. Vaden SL, Sellon RK, Melgarejo LT, Williams DA, Trogdon MM, VanCamp SD, Argenzio RA. Evaluation of intestinal permeability and gluten sensitivity in Soft-Coated Wheaten Terriers with familial protein-losing enteropathy, protein-losing nephropathy, or both. Am J Vet Res. 2000 May;61(5):518-24.
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