獣医師による手作り食・自然療法ガイド

自然食の種類

毎日の積み重ねが数年後の大きな違いに

自然食にはいろいろな種類があります。

私たちが理想としているのは、犬や猫が野生で暮らしていた頃の自然な食生活を再現し、これに現代栄養学知識を活かして改善を加えていくことです。

猫は完全な肉食動物なので、肉や魚に豊富に含まれるタンパク質や脂質を効率良く消化できる消化管を持っています 。お米のような穀類は基本的に必要とせず、繊維の消化や血糖値の抑制に必要な遺伝子を十分に持っていないため、与えすぎると体にとってストレスになってしまいます。犬の場合は、猫と比べると雑食動物に近く、人間と同じように肉、魚、穀類、野菜、果物となんでも受け付けることができますが、主食はお米ではなくやはり肉や魚などのタンパク質食品になります。

この基本の食事スタイルに、ビタミンやミネラル、抗酸化物質、抗炎症物質など、科学的に健康効果や治療効果が実証されているものを足して、全体のバランスを整えます。自然医学の知恵を生かして体質にあった薬膳食材を取り入れれば、さらに効果的になるでしょう。

飼い主の方の中には、普通のペットフードに市販のサプリや新鮮なお肉・野菜を加えて、自分にできる範囲で自然に近い食事を実現している人もいれば、すべての食材にこだわりを持ち、サプリも自作する人もいます。

一番大切なことは毎日無理なく続けられること。これから手作り食をはじめる方は、それぞれの利点や欠点を知って犬猫の体質や自分の生活スタイルにあった方法を見つけましょう。

自然食の種類

一番自然に近いスタイルがローフード。肉や魚、卵などを生のまま与える方法です。日本では刺身やたまごご飯など、食材を生で食べる習慣が根付いていますから、生で与えられる食品の種類も多く、比較的取り入れやすいでしょう。

利点は、栄養素を壊さずにそのままの形で届けられること。また、ペットフードよりもゆっくりと消化されるため、食後の血糖値の上昇が緩やかで、気分のムラを抑え、糖尿病などの生活習慣病や内分泌系疾患を防ぐことができます。また、生のお肉やお魚の半分は水分です。水をなかなか飲んでくれない猫ちゃんにとっては生命線となるでしょう。

さらに、一頭一頭の体質に合わせて食事内容を変えれば、病気を未然に防いだり、治療に役立てることができるのも大きな利点です。

欠点は、食中毒の危険性があること。必ず1度冷凍保存をしたものを与えるなど、衛生管理に気をつける必要があります。また、生肉や魚の刺身を冷たいまま与えると、胃腸を冷やし、消化不良の原因になります。軽くお湯で温めたり、表面を焼くなどの工夫をすると良いでしょう。

利点
  • 犬猫本来の食性に一番近い
  • 栄養素が新鮮なまま壊れない
  • 吸収が穏やか
  • カスタマイズ可能
  • 水分が多く取れるため腎臓病や尿石症になりにくい
注意点
  • 食中毒に注意
  • 冷たいまま与えない
  • 準備・時間が必要
  • 栄養のバランスを考える必要がある

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人間の食事に近いスタイル。食材によっては、熱を通すことで消化性が良くなり、風味が増します。例えば、猫ちゃんに野菜をあげる場合、生よりも軽く加熱した方が吸収されやすくなります。

加熱することにより殺菌できるため、抗がん剤やステロイドによる治療中、高齢などにより免疫力が低下している子、重度の肝胆疾患の治療中にも安心して与えることができます。

また、ローフードと同じように食材を選ぶことで一頭一頭の体質を改善していくことができます。

ただし、加熱しすぎるとビタミンなどの栄養素が壊れてしまうので気をつけましょう。少量の水で軽くゆでるか蒸して、調理に使った水も一緒に与えるのがコツ。

利点
  • 食中毒の心配なし
  • 吸収が穏やかで血糖値を上げない
  • 消化力が弱い子にもOK
  • 免疫力が弱い子にもOK
  • カスタマイズ可能
注意点
  • 加熱しすぎないこと
  • 準備・時間が必要
  • 足りない栄養素や壊れてしまう栄養素をサプリメントで補う必要がある

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生にする?加熱調理する?

従来のペットフードは高価な肉の量をなるべく少なくし、安価な豆類や穀物で必要なタンパク質量を埋め合わせたものが主流でしたが、最近では犬猫の食性にあった肉や魚を中心とし、自然の素材をそのまま生かしたペットフードも増えてきています。

手作り食と比べて新鮮さや嗜好性は落ちますが、上手に選べば、時間がない時や旅行、ペットホテル宿泊時にも活用することができます。

最大の欠点は、カロリー密度が高く、消化が早いため、食後に血糖値が急激に上昇し、肥満や糖尿病などの代謝性疾患になりやすいことです。

選ぶ際のポイントは、主成分がお肉やお魚などのタンパク質食品であること、防腐剤などの化学物質を使用していないこと、グルテンなど炎症を起こしやすい物質を含んでいないことなどです。

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「ナチュラル」「自然派」「獣医師推奨」などの宣伝文句はまったくあてになりません。自分の目で成分を確認しましょう。

ペットフード成分ガイド

ドライフードや缶詰を作るときの加熱成形によって栄養素が壊れたり、有毒な副産物が生成するため、最近ではフリーズドライやエアドライ、低温加工した製品もあります。

猫ちゃんの場合、ドライフードによって腎不全や糖尿病になりやすくなることがわかっているため、できれば缶詰などのウェットタイプを選んだ方がよいでしょう。

利点
  • 食中毒の心配なし(???)
  • バランスを考えなくてよい
  • 時間がかからない
  • ペットホテルに預ける時や入院時にも使える
注意点

いつも使っているドッグフードやキャットフードに新鮮なお肉やお刺身、野菜、サプリメントを加えるだけでも効果が感じられることがあります。

完全に手作り食に切り替えるのは無理だけど、手作り食の効果をちょっと試してみたい方も気軽に取り入れることができます。

ペットフードには嗜好性を高め、やみつきになる成分が使用されていることが多いため、なかなかペットフードをやめられないコにもおすすめです。

健康効果を感じやすいのは、内臓肉、生骨、卵などビタミンやミネラルがぎゅーっと濃縮した食材や抗酸化・抗炎症効果の高い野菜やサプリメントです。

ペットフードのトッピングにおすすめ
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利点
  • 気軽に始められる
  • バランスを考えなくてよい
  • 時間がかからない
  • 新しいものを食べたがらない犬や猫に
欠点
  • 使っているペットフードによってはあまり効果が感じられないことがある
  • 生ものを使う際には、ローフードと同じ衛生管理が必要

いろいろなスタイル

バーフ(BARF)は、手作り食が進んでいる欧米でもっとも広く使われている生の手作り食のスタイルです。犬と猫にとって生物学的に適正な食事を与えることで、犬猫がもつ遺伝的潜在能力をフルに引き出すことを目的にしています。

犬猫の祖先が食べていたと思われる食事を再現し、生肉、生骨、生の内臓肉、生卵に少量の野菜や果物を加えたメニューが主流。完全肉食の猫には野菜や果物を与えないことが多くなっています。

肉・魚・生卵
70%


10%

レバー
5%

他の内臓肉
5%

野菜・果物
10%

獣医師の印象

食中毒対策などの衛生管理をきちんと行い、正肉・骨・内臓肉・卵をバランスよく与えていれば、非常に優れた健康効果が得られます。BARFを食べている犬猫の共通点は、表情や動作がイキイキとしていて、毛づやがとてもよいこと。ペットフードを食べている同じ年齢のコよりも若く見え、体型もずっとスリムで引き締まっています。BARFの一番の問題点は、冷たいまま与えてしまう飼い主さんが多く、これがさまざまな不調や病気につながっていることでしょう。

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PMR食では、野生の犬猫や犬猫の祖先が狩りをして得ていた獲物(prey)を丸ごと食事として再現します。BARFとは違い、野菜や果物は与えません。

精肉(カット肉やミンチ)は使わず、さまざまな部位の骨つき肉に鶏の脚や生の内臓肉、殻つき生卵を組み合わせたり(フランケン式)、鶏、鴨、うさぎなどを皮付きのまま丸ごと与えるスタイル(ホール式)などのバリエーションがあります。

骨付き肉・魚・生卵
90%

レバー
5%

他の内臓肉
5%

獣医師の印象

BARFと同じく食中毒対策などの衛生管理をきちんと行い、正肉・骨・内臓肉・卵をバランスよく与えていれば、非常に優れた健康効果が得られます。問題点はやはり冷たいまま与えてしまう飼い主さんが多いこと。また、「自然」であることにこだわりすぎて、サプリメントの使用を拒否する人が多いのも特徴です。犬や猫の体質に合わせて自然素材のサプリやハーブを柔軟に取り入れるようにするともっと高い健康効果が期待できます。

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主にナチュラル系ペットフードでよく見かけられるようになりました。肥満やアレルギーを起こしやすく、犬猫が消化しにくい穀物(小麦、米、トウモロコシなど)を除いた食事です。

ただし、グレインフリーだからといって健康によいとは限りません。代わりにじゃがいも、さつまいもなどのでんぷん質の多い食材が大量に使用されていたり、低品質の肉や魚、豆由来のタンパク質が使われていることがあります。また、高熱で加工することによって、有害な副産物が生じることがあります。

獣医師の印象

ずっと “ナチュラル” で “グレインフリー” のペットフードをあげていたのに病気になってしまい、ショックを受ける飼い主さんが多くいらっしゃいます。確かに、犬や猫のことを考えて普通のペットフードより高価なものを与えていたのに、結局同じような病気になるのなら意味がありませんよね。宣伝文句には騙されずに、原材料や製法をきちんと確認した上で購入しましょう。また、新鮮なお肉やお魚、野菜、サプリメントなどを加えるだけでも健康効果が得られることがあります。

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犬猫でさまざまな病気の原因になっていることが明らかになりつつあるグルテンやレクチンを除去した食事です。

グルテンは、小麦、大麦などの穀類に含まれているタンパク質で、低品質のペットフードによく使用されています。レクチンも植物性食品に含まれている成分で、穀類、豆類、ナス科野菜(トマト、ピーマン、ジャガイモなど)、瓜類などに多く含まれています。グルテンはレクチンの一種です。

獣医師の印象

グルテンやレクチンをやめるだけで、一見何の関係もないような行動問題やアレルギー、肥満などの病気が解消することがあります。愛犬や愛猫の不調が続いていて、病院で検査してもわからない場合は、諦める前にぜひ試してみてください。

さまざまな病気を引き起こすグルテンさまざまな病気を引き起こすグルテンレクチン除去食:あらゆる病気の治療になるか

一般のペットフードは、非常に高い温度で加熱成形が行われているため、熱に弱い栄養素が壊れやすく、メイラード反応によって5-HMFなどの有害物質が生成することが問題とされていました。

これを解決したのがフリーズドライ(真空凍結乾燥)やエアドライ(自然乾燥)、低温調理などの製法です。いずれも食品成分の化学的変化が起こりにくく、栄養価も加工前とそれほど変わらないとされています。

犬猫本来の食性に近く、肉や魚を中心に添加物を一切使用していない製品が多いため、健康にできるだけよいものを与えたいけれども、手作り食を作る時間がない方に向いています。水分摂取量を維持したい場合は、水で戻すタイプや缶詰、レトルトがおすすめです。

獣医師の印象

長期保存ができるので非常用やペットホテル宿泊時などにとても便利。ただ、いつも手作り食を与えていた犬猫では、切り替え後に耳の汚れや肛門嚢の詰まりが気になるようになることがあります。私たちは酸化脂質が原因ではないかと考えていますが、まだ新しい分野のフードなので今後も引き続き見守っていく必要があります。

食物を精製せず、丸ごと使うスタイルです。例えば、白米ではなく玄米を使用したり、野菜は皮を向かずに丸ごと使用します。

食物繊維を豊富に含むため、余分な脂肪を吸着する、糖分の消化吸収を緩やかにして炎症を起こしにくする、腸を掃除して便秘を防ぐなどの効果があります。ただし、近年になり全粒穀物や野菜の皮には有害なレクチンが豊富に含まれていることが明らかになったため、与えすぎには注意しましょう。

犬猫にとってのホールフードとして、動物を丸ごと与えるPMR食(上を参照)などがあります。