栄養素の分解・作り変え・貯蔵・分配、使い終わったホルモンや老廃物の処理、有毒物や薬物の解毒、そして血液凝固因子、胆汁、アルブミンなどの重要な生体物質の合成。肝臓は常に何百もの機能を行なっている活発な臓器です。
余力が大きいため、ついつい酷使しても不調が表に現れることがなく「沈黙の臓器」と呼ばれています。調子がかなり悪くならないと表面化しないため、普段から肝臓をいたわる食材や生活習慣を取り入れるのがおすすめ。麻酔を必要とする処置や手術の前後にはハーブでしっかりと肝臓を保護してあげましょう。
基本のサプリメント
活発に活動している肝臓は、盛んな酸素呼吸により活性酸素が常に発生しています。これに加えて、食物と一緒に入ってきた毒素や細菌、重金属、酸化脂質、環境中の化学物質や汚染物質、全身で生じた老廃物が集まってきます。生体の抗酸化機能が弱まると、これらのさまざまな物質による酸化ストレスをクリアできなくなり、炎症が起こります。これが肝機能の低下や多くの肝臓病の始まりです。
まずは毎日の食事で抗酸化・抗炎症効果の高い栄養素をきちんと補給できているか確認しましょう。
ビタミンE
ビタミンEは生体にとって一番大切な抗酸化システム。細胞膜に取り込まれ、膜脂質の酸化を防ぐことで細胞を酸化ダメージから守っています。動物は体内でビタミンEを合成することができないので、食事できちんと与える必要があります。
肝臓の健康が気になるようになったら必要量ではなく、治療用量をサプリメントで与えるようにしましょう。
犬
体重 | 5 kg | 10 kg | 15 kg | 20 kg | 25 kg 以上 |
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必要量 | 3 mg | 5 mg | 6.5 mg | 8 mg | 9.5 mg〜 |
治療量 | 25 IU | 50 IU | 50 IU | 75 IU | 100 IU〜 |
上限 | 100 mg | 180 mg | 240 mg | 300 mg | 350 mg〜 |
猫
体重 | 3 kg | 4 kg | 5 kg | 6 kg | 7 kg |
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必要量 | 2 mg | 2.5 mg | 3 mg | 3.2 mg | 3.5 mg |
治療量 |
25 IU |
※ α-トコフェロールの量。※猫の上限値は設定されていません。1 mg は 約1 IU。詳細はこちらから。
ビタミンEオメガ3脂肪酸(DHA・EPA)
酸化ダメージの結果生じる炎症を抑えるのがオメガ3脂肪酸。肝臓だけでなく、腎臓病や心臓病、関節炎、膀胱炎などのさまざまな炎症性疾患に対して予防や治療効果を発揮します。必要量ではなく、治療用量をしっかりと与えましょう。
食物繊維
腸と肝臓は門脈という血管でつながっています。食物から得た養分はこの門脈を通って肝臓に運ばれ、さまざまな物質に作り変えられますが、本来なら便と一緒に排泄されなければならない腸管内の有毒物も門脈を通って肝臓に入り込むことがあります。
これを阻止してくれるのが食物繊維。有毒物を吸着して排泄を促し、便秘を防ぐことで腸管内に毒素を溜め込まないようにする役割があります。腸内を酸性化することで、アンモニアなどの有毒な窒素化合物を生成する細菌の増殖を抑制したり、窒素を吸収してくれる腸内細菌を増やすこともできます。
また、消化に使われなかった胆汁酸も門脈を経て肝臓に再び取り込まれ、胆汁として再利用されます。食物繊維は胆汁の排泄も促すことで、胆汁の再利用率を低下させ、より毒性が低く肝臓を傷つけにくい胆汁酸の合成を促します。
特に不溶性繊維とプレバイオティック繊維が豊富なアスパラガス、アーティチョーク、ごぼうなどの野菜がおすすめ。犬は食事全体の30〜50%、猫は食事全体の10%まで野菜を足すことができます。腸内細菌が利用しやすいペクチンを含むりんごもおすすめです。
野菜をきちんと与えていても便秘がちな子には、サイリウムがおすすめ。体重 5 kgあたり小さじ1/2〜1杯を食事に混ぜ、便の様子をみながら量を加減しましょう。プロバイオティクスも役に立ちます。
ハーブ
肝臓の健康に対するハーブの効果については、非常にたくさんの研究が行われています。そのうち、犬猫でもっとも効果が高く、広く使われているのがミルクシスルです。
ミルクシスル(マリアアザミ・オオアザミ)は、肝障害および肝臓以外の原因による肝酵素の上昇や膵臓・腎臓の健康も気になるとき、肝毒性のある薬剤による治療や麻酔が必要なときなど、ありとあらゆる場面で使用できる安全性の高いハーブです。肝臓の健康が気になるようになったら、まずはミルクシスルから始めましょう。抗酸化・抗炎症作用、肝臓の再生促進、線維化抑制、抗腫瘍効果、肝保護効果など、幅広い効果が人や動物の研究で報告されています。
ミルクシスルから抽出された主な有効成分を総称して「シリマリン」と呼び、シリビニン(シリビン)はそのうちの1つでもっとも活性が高い成分。サプリメントを購入する際には、シリマリンまたはシリビニンの量がきっちりと表示されているものを選びましょう。
- 50%グリセリンチンキ:体重 5 kg あたり1 mLを1日2回
- 濃縮ハーブ(シリマリンまたはシリビン含量70〜80%):体重1 kg あたり 20〜30 mgを1日1〜2回
- 濃縮されていないハーブ(シリマリン含量1.5〜3%が多い):体重1 kg あたり 50〜100 mgを1日2回
- 麻酔を行う場合は、1週間前から1週間後まで与える。
ダンデライオン(西洋タンポポ)
肝臓の炎症を鎮めてくれる効果があるハーブ。根と葉では若干効果が異なります。
- ダンデライオンルート(根):抗酸化、肝細胞の再生、線維化抑制、利胆、緩下など
- ダンデライオンリーフ(葉):抗酸化、抗炎症、抗高脂血症、肝保護、利尿、利胆など
いずれも胆嚢の収縮作用があるため、急性の胆嚢炎や胆管閉塞がある場合は注意が必要です。
- 乾燥ハーブ:体重 1 kg あたり50〜400 mg を1日数回に分けて与える。
- ダンデライオンティー:熱湯1カップあたり5〜30 gでお茶を作り、体重10 kg あたり1/4〜1/2カップを1日3回に分けて与える。
- ダンデライオンルートのチンキ剤(25〜70%):体重 1 kg あたり 0.05〜0.2 mLを1日数回に分けて与える。
- ダンデライオンリーフのチンキ剤(25〜35%):体重 1 kg あたり 0.1〜0.3 mLを1日数回に分けて与える。
肝保護、利胆作用、抗酸化・抗炎症、免疫強化、便秘予防、アダプトジェン作用のあるハーブを組み合わせて全方向から肝臓と胆嚢の機能をサポートするレシピです。
- ミルクシスル50%チンキ
- ダンデライオンルート30〜50%チンキ
- シサンドラ(チョウセンゴミシ)30〜50%チンキ
- 朝鮮人参チンキ30〜50%チンキ
- バードック20〜30%チンキ
同量ずつ混ぜ、体重1 kg あたり0.2 mLを1日1〜2回与える。
チンキ剤にはアルコールを含むものがあります。肝臓の健康が気になるときはなるべくアルコールフリーの製品を選ぶようにしましょう。
ターメリック(ウコン)
毎日の食事にふりかけるだけで手軽に取り入れることができるハーブです。胃腸機能を促進し、抗炎症、肝保護、解毒、抗腫瘍など幅広い作用があります。
コーンシルク
胆嚢の病気や猫の脂肪肝(リピドーシス)におすすめなのがトウモロコシのヒゲです。肥満や糖尿病、膀胱炎などの持病があり、全身の炎症が進んで肝臓や胆嚢に波及し、なんとなく調子がでない犬猫にもおすすめです。
- 乾燥ハーブ:体重1 kgあたり50〜600 mgを1日2〜3回に分けて与える。
- コーンシルクティー:熱湯1カップあたり5〜30 gでお茶を作り、体重10 kg あたり1/4〜1/2カップを1日3回に分けて与える。
- 濃縮エキス(50%):体重1 kg あたり0.05〜0.2 mL。
柴胡(ブプレウルム)
上で紹介したハーブは比較的マイルドなので、サプリメント的に気軽に取り入れることができ、全種類を併用することもできます。それでも十分な効果が感じられないときや、肝臓と胆嚢を一緒にケアしたいときにおすすめなのが柴胡です。抗炎症作用が高く、解熱作用もあるため急性期の肝炎や胆管炎にも使用されます。
漢方薬の構成成分としてもよく使われており、漢方薬として使用した方が効果が高いのですが、近くに専門病院がなく、どの漢方薬を使ってよいのか判断に迷うときは、柴胡のエキスやパウダーを試してみましょう。
肝臓用のサプリメント
SAMe(サミー)
S-アデノシルメチオニン(SAMe)は、肝臓を酸化ダメージから守っているグルタチオンの合成と再活性化に重要な役割を果たすほか、肝臓における解毒、エネルギー代謝、遺伝子発現などの過程にも関与しています。健康な犬猫では肝臓で含硫アミノ酸のメチオニンから合成されますが、肝臓の機能低下により合成量が低下。SAMeをサプリメントとして与えることによって活性型のグルタチオンが増えることがわかっています。
- 体重1 kg あたり 20 mg・1日1回(または製品説明書に従う)
- 壊れずに腸に届くようコーティングされた製剤を空腹時に与えるのが望ましい。
スピルリナ・クロレラ
スピルリナもクロレラも抗酸化剤として働くクロロフィルが豊富。その上、スピルリナは肝保護効果のあるフィコシアニンを含み、クロレラは食物繊維と同様に腸内の毒素を吸着して排泄させるデトックス効果があります。
- 犬:食事1カップあたり小さじ1/4(0.6 g)
- 猫:1頭あたり小さじ1/8
- ごく少量でよいので毎日続けるのがコツ
スピルリナはミクロシスチンという肝毒性がある有毒物も産生します。この量がきちんと管理・制限されている製品を選びましょう。
サプリメント以外でできること
毎日の暮らしの中で肝臓の負担をなるべく減らすことも肝臓の健康を長く維持する秘訣です。
無駄な薬の投与は行わない
車酔いの薬や消炎鎮痛薬(関節炎治療薬)、抗不安薬など、病院で処方されて何気なく使っている医薬品の多くは肝臓で代謝されます。抗がん剤など、命に関わる治療薬以外の薬については、本当に必要なものか、もっと安全で体に優しい選択肢はないか、かかりつけの病院で相談してみましょう。ノミやマダニの予防薬も必要な季節に必要な量だけ計画的に使うようにします。
環境中の化学物質や有毒物を減らす
- 家の中の掃除に使うクリーナーや洗浄剤も見直してみましょう。水や酢、重曹など、人間や動物、環境に優しい選択肢があります。赤ちゃんや妊婦さんがいる家庭用の製品は毒性が低いものが多くなっています。
- 浄水器やオーガニック食材を利用し、飲用水や食材に残留する化学物質の量をなるべく減らしましょう。
- マグロ、サーモン、サバなどの脂の乗った大型魚には重金属が蓄積しています。与えるのは週1回程度までとし、代わりに汚染の少ない小型の魚を取り入れるようにしましょう。
- プラスチックや食品ラップから溶出する化学物質にも気をつけましょう。高熱での利用を避けるか、ガラスやステンレスなどの安全性の高い素材の容器を使用するようにします。
ペットフードや加工食品をやめる
ペットフードの加工や貯蔵の過程で生じる酸敗した脂質や有毒な副産物、缶詰内側のコーティングに使われる化学物質、防腐剤もすべて肝臓の負担のもと。自然乾燥や低温調理したものであっても、空気に触れれば時間とともに劣化していくので、貯蔵方法に気をつける必要があります。ローハイドやジャーキーなどのおやつもなるべく減らすようにしましょう。
歯みがき
歯石や歯垢の中で盛んに繁殖している細菌と細菌が産生する毒素は肝臓の大敵。”原因不明”の肝酵素の上昇や慢性肝炎を起こした犬猫の多くで重度の歯周病が一緒にみられることがあります。特に猫や小型犬は注意しましょう。
薬膳を取り入れる
毎日さまざまなストレスにさらされている肝臓ですが、薬膳食材を取り入れることで内側から肝臓の機能をサポートし、修復と再生を促すことができます。
肝臓の不調を早めにキャッチして薬膳で改善腸の健康を守る
腸粘膜は口から入ってくる細菌、毒素、アレルゲンなどを体内に入り込ませないための第一のバリア。でもこのバリアが壊れると、これらの物質が血管を通って肝臓に入り込みます。グルテンやレクチンなどの腸のバリアを壊す成分が入った食材をなるべく減らすようにし、たまには腸を休めて修復を促す生活習慣を取り入れることで腸の健康を守りましょう。
絶食のススメ 健康バランスの鍵!腸の修復ガイド さまざまな病気を引き起こすグルテン レクチン除去食:あらゆる病気の治療になるか- 動物病院で実際に処方されている量を掲載しています。一般的には非常に安全な量ですが、新しいサプリの与え始めには、まれにお腹がゆるくなる等の症状が現れることがあります。症状が続く場合は量を減らしてください。量を減らしても症状が続く場合は中止しましょう。溶解剤や添加物など、サプリに含まれている有効成分以外の成分も確認する必要があります。