獣医師による手作り食・自然療法ガイド

カルシウム

 ミネラル   骨・歯の健康  細胞内シグナリング 

手作り食で一番不足しやすいのがカルシウムです。犬猫は人間よりもずっと多くのカルシウムを必要としています。

成人
成犬
成猫

標準体重1 kgあたりに換算したカルシウムの所要量(成犬を100%で示す)

体内のカルシウムの99%は骨と歯に

カルシウムは丈夫な骨と歯の形成と維持に欠かせないミネラルで、そのほとんどが骨や歯に存在します。

残りのカルシウムは血液中にあり、さまざまな組織へ運ばれて神経伝達、筋肉の収縮、心臓の拍動、止血、酵素の活性化、細胞膜の透過性の維持といった重要な働きを行なっています。

カルシウムは常に骨から出し入れされている

骨はカルシウムを貯蓄する銀行の役割を果たしており、血中のカルシウム濃度が高い時はカルシウムが貯金され、血中カルシウムの濃度が低くなるとカルシウムが骨から引き出されます。

カルシウムはもう一つの重要なミネラルであるリンと密接に関係しており、一緒に調節を受けます。そのため、手作り食では次の2点に気をつける必要があります。

  1. 必要な量のカルシウムを与える
  2. カルシウムとリンのバランスを 1:1 1.4:1 の割合にする(カルシウムがやや多め)

給与量の目安(1日分)

体重 5 kg 10 kg 15 kg 20 kg 25 kg
目安 370〜640 mg 630〜1070 mg 850〜 1450 mg 1060〜1800 mg 1250〜2130 mg
上限 2660 mg 4470 mg 6060 mg 7520 mg 8890 mg

体重 3 kg 4 kg 5 kg 6 kg 7 kg
目安 140〜290 mg 170〜360 mg 200〜 420 mg 230〜480 mg 260〜540 mg

※猫の上限値は設定されていません。
※避妊去勢済み・普通の運動量の場合。給与量は、ライフステージ、運動量などによって変わります。こちらのページから正しい量を確認しましょう。

リンとのバランスを取る

カルシウムとリンは一緒に調節を受けるため、バランスよく与える必要があります。どちらかが多すぎても少なすぎても、もう一方に影響を与えます。理想的なカルシウム/リン比は1.0〜1.4で、カルシウムがやや多めです。猫は2.0まで許容範囲です。

とはいっても、カルシウムやリンの吸収は、食品中の形態、食品の種類や調理方法、食品中の他の成分などさまざまな因子に左右されるため、細かい計算をする必要はまったくありません。次のいずれかの方法を守れば、ちょうどよいバランスになります。

  1. 主食を肉・魚にし、必要量のカルシウムをサプリメントとして与える

肉・魚にはちょうどいい量のリンが含まれていますが、カルシウムはごく少量。ここに必要量のカルシウムを足すとちょうどよいバランスになります。

  1. 主食として与える肉・魚の1/4~1/2を骨付き肉に置き換える

骨はカルシウムとリンのバランスに優れるため、面倒な計算をする必要がありません。

詳しくは骨給与ガイドをご覧ください。

骨給与ガイド

また、毎日の食事でビタミンDをきちんと与えることも大切です。ビタミンDはカルシウムやリンの吸収を助け、カルシウム/リン比が多少ずれていても悪影響がでないようにしてくれます。ビタミンDは、イワシ、紅鮭、卵などに豊富に含まれています。

ベジタリアンの食事(猫にはお勧めしません)はリン濃度が低くなるため、カルシウム・リンバランスを別に計算する必要があります。

カルシウムの種類

生骨
生の骨付き肉
ボーンミール

 

 

最もナチュラル

みる

 

スモークボーン

 

 

生骨の匂いが
気になる方に

みる

 

カルシウムサプリ

 


確実な量を与えたい

骨をかじれない子に

みる

生の骨・骨付き肉・ボーンミール

もっとも自然に近い形でカルシウムを与えることができます。カルシウムとリンの両方をバランス良く供給でき、余分なカルシウムは糞便中に排泄されるので、与えすぎを目で確認できます(翌日のうんちが白っぽく、カチカチになります)。また、固いものを噛むことで、ストレスが発散でき、歯茎も丈夫にします。

丸飲みして喉に詰まらせることがないよう、体の大きさにあった骨を与えることが大切です。

カルシウム・リン以外のミネラルも補給!
マグネシウム ・ マンガン ・ 亜鉛 ・ ・ 銅 ・ フッ素など
骨髄には造血や免疫系に働くさまざまな生理活性物質が含まれています。
骨給与ガイド

ボーンミール

ボーンミールは動物の骨を粉状にしたもので、顎や歯の弱い犬猫、老齢の犬猫におすすめです。

フッ素は生体に必要なミネラルですが、過剰摂取に気をつける必要があります。米国産の骨付き肉やボーンミールは、フッ素濃度が非常に高いことが報告されています[1]。人や実験動物でフッ素化合物の過剰摂取により骨肉腫の発生率が上昇することが示されています。現在のところ、犬や猫ではこのような関連性は認められていませんが [2]、骨肉腫の発生しやすい大型犬では注意した方がよいでしょう。

米国に限らず、水道水にフッ化物を添加している国(オーストラリアなど)や飲用水のフッ素濃度が元々高い国(中国など)が原産の骨やボーンミールもこれに含まれます。これらの水道水を飲んだ家畜の骨には、フッ化物が蓄積するためです。

スモークボーン(ペット用の骨のおやつ)

生骨の匂いが気になる方におすすめです。無添加・自然素材でかじって完食できるような大きさの合った製品を選びましょう。

ビタミンや生理活性物質は加工の過程で壊れてしまいますが、カルシウムなどのミネラルは補うことができます。

カルシウム・サプリメント

粉末や錠剤のカルシウムサプリメントは、骨を受け付けない子や歯が弱い子にも安心して与えることができます。また、確実な量をキッチリと与えたい方にもおすすめです。

注意する点は、リンを補給することができないこと。リンの豊富な食事(肉・魚中心)や健康食品(ニュートリショナルイーストなど)を一緒に与えるようにしましょう。1日量の半分程度をカルシウムサプリメントで与え、残りを骨で与えることもできます。

クエン酸カルシウム・乳酸カルシウム

吸収されやすく、過剰摂取による結晶形成の危険性が少ないため安全に与えることができるのがクエン酸カルシウムと乳酸カルシウムです。

卵殻パウダー(炭酸カルシウム)

卵の殻は、野生時代の犬猫の貴重なカルシウム源だったと考えられています。卵の殻を取っておけば自宅で作ることもできます。炭酸カルシウムは、体内に沈着することがあるため過剰に与えないよう注意しましょう。炭酸カルシウムは腸内でリンと結合し、リンの吸収を妨げるため、慢性腎臓病の食事療法に使われることがあります。

卵の殻を再利用!カルシウムサプリ

海藻由来カルシウム(炭酸カルシウム)

海外の獣医師やペット愛好家で人気なのが石化海藻由来のカルシウムです。ヨウ素セレン、マグネシウムなどのミネラルも補うことができ、フッ素や重金属による汚染の心配がありません。ヨウ素含量が高いため、甲状腺の健康が気になる猫ちゃんにはお勧めしません。

食品中のカルシウム(参考)

食品(100 g 中) カルシウム(mg)
10,000〜30,000
ボーンミール 24,000〜30,000
かたくちいわし(煮干) 2200
ごま 1200
ひじき(干) 1000
鶏ネック 890〜1500
凍り豆腐 630
うるめいわし(丸干) 570
木綿豆腐 86
全卵(生) 51
軟骨  47

カルシウム ➜ 食品・サプリメント換算

骨・内臓肉の給与量を体重で計算骨・内臓肉の給与量を体重で計算 卵の殻を再利用!カルシウムサプリ

カルシウム欠乏症と過剰症

カルシウムが不足するとどうなるの?

食事中のカルシウムの不足が続くと、血中カルシウム濃度を維持するために骨からカルシウムが引き出されます。

血中のカルシウム量は一定に保たれるため、初期はカルシウムが不足していてもなかなか血液検査に現れず、気づかないまま病気が進行していきます。別の理由でレントゲンを撮ったときに骨がスカスカになっていることに気づいたり、歯がグラグラになってからはじめて気づくこともあります。また、骨からカルシウムを引き出すホルモンを作っている上皮小体が刺激され続けるため、上皮小体機能亢進症が生じます。

普段から食事中のカルシウムの量には気をつけるようにしましょう。

カルシウム欠乏症の症状
  • 食欲不振・元気消失・異食
  • 骨の透過性亢進(顎骨に最初に現れやすい)
  • 骨粗鬆症・骨折
  • 歯がグラグラになる・抜ける
  • 脊髄圧迫による疼痛、麻痺
  • 関節の痛み、腫脹、跛行、指の開き
  • けいれん・発作(急性欠乏症)
  • 発育不良(子犬・子猫)

カルシウムが多すぎるとどうなるの?

手作り食でのカルシウムの過剰給与は主にカルシウムサプリメントを使っている場合に起こります。骨を給与している場合は、余分なカルシウムは便と一緒に排泄され、便秘を起こしたり、目で確認することができるため、与えすぎにすぐ気づくことができます。

カルシウムが過剰になると、リンや亜鉛、マグネシウムなどの他のミネラルの吸収が阻害され、食欲不振、元気消失、皮膚炎などの症状が現れます。カルシウム沈着による臓器の機能低下が起こることもあります。また、尿中へのカルシウムの排泄が増加するため、カルシウムを含んだ尿石が生じやすくなりますが、シュウ酸カルシウム結石については逆に予防効果があります。

カルシウム過剰症の症状
  • 便秘
  • 尿量・飲水量の増加
  • 食欲不振・元気消失・脱力
  • 嘔吐
  • 皮膚炎
  • 尿結石
  • 骨の形成異常(子犬・子猫)

成長期の子犬や子猫では、骨の発達のためにカルシウムを余分に与えようと考えがちですが、過剰給与でも骨格の形成異常が起こるため注意が必要です。品種にあった適量を守り、リンとのバランスを維持するよう心がけましょう。

  1. Environmental Working Group (2009) Dog food comparison shows high fluoride levels. http://www.ewg.org/research/dog-food-comparison-shows-high-fluoride-levels 
  2. Rebhun RB, Kass PH, Kent MS, Watson KD, Withers SS, Culp WT, King AM: Evaluation of optimal water fluoridation on the incidence and skeletal distribution of naturally arising osteosarcoma in pet dogs. Vet Comp Oncol 2016. Jan 14.