獣医師による手作り食・自然療法ガイド

L-カルニチン

カルニチンは脂肪酸をミトコンドリア内に運ぶ役割を果たしており、その大部分が心筋と骨格筋に分布しています。ミトコンドリアに運ばれた脂肪酸はエネルギーに変換されます。肥満動物にカルニチンを与えると、脂肪の燃焼を促すことで効率よく減量ができることが示されています。

通常、犬は肝臓で、猫は腎臓で十分な量が合成されますが、何らかの理由でカルニチンが欠乏すると拡張型心筋症(犬)や脂肪肝(肥満猫)が生じやすくなることが知られています。また、最近では高齢犬の記憶力の改善に役立つことも報告されており、α-リポ酸と一緒に投与することで効果が上がることが示されています。

カルニチンを含む食品

ハツ・赤身肉(赤いほど多い)

カルニチンの体内合成には、アミノ酸のリジンとメチオニンが必要です。赤身肉、鶏肉、カツオ、卵白など、これらのアミノ酸を豊富に含むタンパク質食品をきちんと与えるようにしましょう。ビタミンB6、ビタミンCナイアシンも重要です。

一般的な機能と役割

  • 脂肪の代謝を促進
  • 老化に伴うミトコンドリアの機能低下を予防
  • 心筋機能を強化
  • 脳神経系の機能を助ける

どんなときに与えればいいの?

  • 肥満が気になる
  • 高齢期以降のボケ防止、心機能のサポートに
  • ​運動量の多い犬
  • 肥満​猫における肝リピドーシス(脂肪肝)の予防。カルニチンだけではなく、アルギニン、コリンタウリンを併用。
  • シスチン尿石の犬
  • ​猫の知覚過敏症
  • ​甲状腺機能亢進症
  • 疾患治療の一環として高脂肪食を食べている犬猫
  • カルニチン欠乏症による拡張型心筋症(ドーベルマン、ボクサー、A・コッカー、グレート・デーンなど)
  • 腎透析中(亜鉛ビタミンB6など、他の不足しやすい栄養素と一緒に)
うちの子の年齢期は?

与える量の目安

予防
  • 猫:50〜100 mg/頭
  • 犬:50 mg/kg
治療
  • 猫:125〜250 mg/頭
  • 犬:50〜100 mg/kg
  • 犬の認知機能の改善:α-リポ酸 3 mg/kg + L-カルニチン 6 mg/kg
チロキシン投与中の場合は獣医師に相談してから使用しましょう。

MEMO
  • カルニチンは安全な成分ですが、お腹がゆるくなりやすく、まれに腸内ガス貯留(オナラ)が生じることがあります。
  • ​​近年、L-カルニチンが人間の動脈硬化の原因の一つである可能性が報告されています。犬や猫で動脈硬化が生じることはあまりないと考えられていますが、一部の犬種(ミニチュアシュナウザー、ドーベルマン・ピンシャー、ラブラドールなど)、甲状腺機能低下症、糖尿病では、動脈硬化が生じることがあると報告されているので気をつけましょう。

豆知識

カルニチン尿症とは

まれですが、シスチン尿症の犬でカルニチンが尿に過剰に排泄されるカルニチン尿症が報告されています。シスチン尿症の治療では、高脂肪・低タンパク食を与えますが、高脂肪食はカルニチンの尿中排泄を促し、カルニチン欠乏症を起こして心筋症を起こす可能性があるため、予防的なカルニチンの投与が推奨されています。

エビデンス

肥満

給与試験

Center SA, Warner KL, Randolph JF, Sunvold GD, Vickers JR. Influence of dietary supplementation with (L)-carnitine on metabolic rate, fatty acid oxidation, body condition, and weight loss in overweight cats. Am J Vet Res. 2012 Jul;73(7):1002-15.

1 g あたり 0・50・100・150 µg のカルニチンを加えたフードを実験的に肥満させた猫に1ヶ月間給与。体重低下率には差がなかったが、呼吸商(栄養素の燃焼率を示す)、除脂肪体重に対するエネルギー消費量、脂肪酸化量などにおいて、代謝率の改善が示唆された。

給与試験

Floerchinger AM, Jackson MI, Jewell DE, MacLeay JM, Paetau-Robinson I, Hahn KA. Effect of feeding a weight loss food beyond a caloric restriction period on body composition and resistance to weight gain in dogs. J Am Vet Med Assoc. 2015  Aug 15;247(4):375-84.

Floerchinger AM, Jackson MI, Jewell DE, MacLeay JM, Hahn KA, Paetau-Robinson I. Effect of feeding a weight loss food beyond a caloric restriction period on body composition and resistance to weight gain in cats. J Am Vet Med Assoc. 2015  Aug 15;247(4):365-74.

ココナッツオイル、L-カルニチン、リポ酸、リジン、ロイシン、食物繊維を加えた試験食を与えた犬・猫で体重および体脂肪が低下したが、筋肉量は維持されていた。

実験的研究

Gooding MA, Minikhiem DL, Shoveller AK. Cats in Positive Energy Balance Have Lower Rates of Adipose Gain When Fed Diets Containing 188 versus 121 ppm L-Carnitine. ScientificWorldJournal. 2016;2016:2649093.

維持カロリーより20%多い食事とともにカルニチン(188 ppm または 121 ppm)を16週間投与。体重は増えたが、121 ppm 群で体脂肪率が減少。

その他

  • Sunvold, G.D., Carnitine supplementation promotes weight loss and decreased adiposity in the canine, Proc XXIII WSAVA (1998); p 746.
  • Center, S.A.; Reynolds, A.P.; Harte, J., Clinical effects of rapid weight loss in obese cats with and without supplemental L-carnitine (abstract), Proc 15th ACVIM Forum ( 1997); p 665.

認知機能

実験的研究

Snigdha S, de Rivera C, Milgram NW, Cotman CW. Effect of mitochondrial cofactors and antioxidants supplementation on cognition in the aged canine. Neurobiol Aging. 2016 Jan;37:171-178.

6.8〜8歳のビーグル犬46頭をサプリメントなし、 α-リポ酸(3 mg/kg)+L-カルニチン(6 mg/kg)、 抗酸化成分(果物+野菜+ビタミンEビタミンC ②+③、 α-リポ酸(3 mg/kg)のみの5群に分け、36ヶ月間給与を行った。その結果、α-リポ酸とL+カルニチンを併用した場合に認知機能の改善が認められ、α-リポ酸のみを投与した場合は一部の機能に低下が認められた。ちなみに高用量の α-リポ酸(11 mg/kg)とL-カルニチン(27.5 mg)の短期併用(2.5ヶ月)では効果が認められていない [Christie et al 2009] ため、低用量での長期投与が重要と考えられる。

治験

Heath SE, Barabas S, Craze PG. Nutritional supplementation in cases of canine cognitive dysfunction – A clinical trial. Appl Anim Behav Sci. 105:274-283 2007 .

認知障害の犬20頭を対象とした二重盲検試験。DHAEPAビタミンC、N-アセチルシステイン、L-カルニチン、α-リポ酸ビタミンECoQ10、フォスファチジルセリン、セレンを配合したサプリメント(Aktivait)を42日間投与。11頭が試験完了。サプリメントを投与しなかった対照群と比べ、日中起きている時間、認知、そそう、飼い主との交流に改善が認められ、特に21日目以降でこの差が顕著だった。

実験的研究

Head E, Nukala VN, Fenoglio KA, Muggenburg BA, Cotman CW, Sullivan PG. Effects of age, dietary, and behavioral enrichment on brain mitochondria in a canine model of human aging. Exp Neurol. 2009 Nov;220(1):171-6.

8〜12歳のビーグル犬23頭をサプリメントなし+行動療法なし、 サプリメントなし+行動療法あり、 サプリメントあり+行動療法なし、 サプリメントあり+行動療法ありの4群に分け、2.4年〜2.8年間治療を行った。行動療法=2頭共同飼育、屋外の散歩、作業・学習訓練。サプリメント=ビタミンE+L-カルニチン+α-リポ酸ビタミンC+野菜+果物の増量。サプリメントの給与により脳ミトコンドリアにおけるフリーラジカル産生量が減少し、電子伝達系(複合体I)が活性化されることが示された。

犬の心臓病

総説

Sanderson SL. Taurine and carnitine in canine cardiomyopathy. Vet Clin North Am Small Anim Pract. 2006 Nov;36(6):1325-43, vii-viii.

タウリン欠乏症またはカルニチン欠乏症による心筋症はまれだが、タウリンやカルニチンの給与はこれらが欠乏していない場合でも効果的な場合がある。

給与試験

Freeman LM, Rush JE, Markwell PJ. Effects of dietary modification in dogs with early chronic valvular disease. J Vet Intern Med. 2006 Sep-Oct;20(5):1116-26.

早期の慢性弁膜症(臨床症状なし)の犬にオメガ3脂肪酸タウリン、カルニチン、アルギニンを加えた低塩食を4週間給与。対照群と比べて、左房最大径、拡張期左室内径が大きく低下した。

運動能力

給与試験

Varney JL, Fowler JW, Gilbert WC, Coon CN. Utilisation of supplemented l-carnitine for fuel efficiency, as an antioxidant, and for muscle recovery in Labrador retrievers. J Nutr Sci. 2017 Apr 3;6:e8.

ラブラドール・レトリーバーにカルニチン(12 mg/kg)の投与と短距離・長距離のトレーニングを実施。カルニチンを投与しなかった犬と比べると運動量、筋肉量、運動後のCPK・ミオグロビン濃度、抗酸化能が優れていた。

腎臓病

給与試験

Hall JA, MacLeay J, Yerramilli M, Obare E, Yerramilli M, Schiefelbein H, Paetau-Robinson I, Jewell DE. Positive Impact of Nutritional Interventions on Serum Symmetric Dimethylarginine and Creatinine Concentrations in Client-Owned Geriatric Dogs. PLoS One. 2016 Apr 18;11(4):e0153653.

Hall JA, MacLeay J, Yerramilli M, Obare E, Yerramilli M, Schiefelbein H, Paetau-Robinson I, Jewell DE. Positive Impact of Nutritional Interventions on Serum Symmetric Dimethylarginine and Creatinine Concentrations in Client-Owned Geriatric Cats. PLoS One. 2016 Apr 14;11(4):e0153654.

魚油、リポ酸、ビタミンCビタミンE、L-カルニチン(フード 1 kg あたり300 mg)、野菜・果物、高品質のタンパク質を配合したヒルズの低塩腎保護食を9歳の小型犬・中型犬および猫(クレアチニン正常、SDMAは一部で上昇)に6ヶ月間給与。SDMAとクレアチニンが低下した。

魚油、L-カルニチン、MCTを添加した低リン・低たんぱく食を高齢猫に6ヶ月間給与した別の試験 [Hall JA et al. 2014] では、GFR、クレアチニン、SDMAには良好な変化は見られていない。

ミトコンドリア病

症例報告

Shelton GD, et al. Pyruvate dehydrogenase deficiency in Clumber and Sussex spaniels in the United States and Belgium, J. Vet. Intern. Med. 14 (2000) 342.

ピルビン酸デヒドロゲナーゼ欠損に伴う運動不耐性を呈したクランバー・スパニエルに対し、高脂肪・低炭水化物食、L-カルニチン(50 mg/kg・1日2回)、チアミン(100 mg/日)の併用で運動不耐性が改善。

症例報告

Abramson CJ, Platt SR, Shelton GD. Pyruvate dehydrogenase deficiency in a Sussex spaniels. J. Small Anim. Pract. 45 (2004) 162–165.

ピルビン酸デヒドロゲナーゼ欠損に伴う運動不耐性を呈したサセックス・スパニエル(2歳・避妊雌)に対し、高脂肪・低炭水化物食(プリスクリプション・ダイエット n/d)、L-カルニチン(1 g・1日2回)、チアミン(100 mg/日)を併用。食事療法を行なっていた6ヶ月間は症状が悪化しなかったが、中止後6ヶ月目に脳神経症状を発現(原疾患との関連性は不明)。

 筋症

症例報告
Giannasi C, Tappin SW, Guo LT, Shelton GD, Palus V. Dystrophin-deficient muscular dystrophy in two lurcher siblings. J Small Anim Pract. 2015 Sep;56(9):577-80.

吐き戻し、進行性の脱力と筋肉萎縮を呈し、ジストロフィン欠損症と診断された16週齢のラーチャー2頭(兄弟犬)。L-カルニチン(50 mg/kg・1日2回)と流動食の給与を行なった1頭で改善が認められた。L-カルニチンに加えて鎮痛薬メロキシカム、トラマドールを必要としたもう1頭では変化なし。

症例報告
Beltran E, Shelton GD, Guo LT, Dennis R, Sanchez-Masian D, Robinson D, De Risio L. Dystrophin-deficient muscular dystrophy in a Norfolk terrier. J Small Anim Pract. 2015 May;56(5):351-4.

発育不良、進行性の筋萎縮、CK値の上昇を示した先天性ジストロフィン欠損症の6ヶ月齢のノフォーク・テリア。CoQ10とL-カルニチンの投与で7ヶ月間状態を維持することができたが、その後、疾患が進行し、安楽死。

症例報告
Eminaga S, Cherubini GB, Shelton GD. Centronuclear myopathy in a Border collie
dog. J Small Anim Pract. 2012 Oct;53(10):608-12.

運動時の後肢脱力を主訴に来院した2歳のボーダーコリー。筋生検で中心核ミオパチーと診断される。L-カルニチン、CoQ10ビタミンB群で症状が改善。