ユビキノン・ユビキノール
細胞内小器官ミトコンドリアに存在し、エネルギー生産に欠かせない成分です。サプリメントとして与えた場合は、おもに抗酸化物質として働きます。体のどの部分にも欠かせない物質ですが、特に酸化ダメージを受けやすく、たくさんのエネルギーを必要とする心臓、免疫系、脳、筋肉、肝臓、腎臓などの健康に役立ちます。
体内のさまざまな組織で合成されますが、合成量や活性化の効率は年齢とともに低下し、ストレス、疾患、運動量などの影響も受けます。高齢期以降の犬猫では吸収されやすいユビキノールというCoQ10の活性型を与えるとよいでしょう。
一般的な機能と役割
- エネルギー生産を高める
- 老化に伴うミトコンドリアの機能低下を予防
- 酸化ダメージを抑制して、心臓、免疫系、脳神経系、肝臓の健康を守る
どんなときに与えればいいの?
- 高齢期以上の犬猫
- 運動量が多い動物
- キャバリアなど心不全になりやすいことがわかっている犬種
- 心臓病、筋症、肝疾患、認知障害
- 免疫疾患、歯周病、肥満、腎臓病、糖尿病など酸化ダメージが蓄積しやすい病気
- ペットフード、加熱調理食を与えている場合
与える量の目安
予防(1日1回)
- 猫・小型犬:10〜20 mg
- 中型犬:20〜60 mg
- 大型犬:60〜80 mg
治療(1日2回)
- 1頭あたり30〜100 mg
- CoQ 10は非常に安全な成分で、例えば小型犬に推奨量より多い人用のサプリメント(30〜150 mg)を毎日与えても問題は報告されていません。
- 油溶性成分であるため、オイルカプセルを選ぶと吸収されやすくなります。油脂の与えすぎは消化器症状や膵炎を起こしますから、健康によいからといって与えすぎないようにしましょう。
食品中のCoQ10
食品(100 g) | CoQ10(mg) |
---|---|
牛肉 | 3〜4 mg |
鶏肉 | 1.7〜2.5 mg |
にしん | 0.4〜2.7 mg |
ブロッコリー | 0.6〜0.7 mg |
心臓肉(ハツ)、レバー、腎臓肉(マメ)、サバ、イワシなどにも含まれています。
エビデンス
心不全
犬
Svete AN, Verk B, Seliškar A, Tomsič K, Križman PJ, Petrič AD. Plasma coenzyme Q(10) concentration, antioxidant status, and serum N-terminal pro-brain natriuretic peptide concentration in dogs with various cardiovascular diseases and the effect of cardiac treatment on measured variables. Am J Vet Res. 2017 Apr;78(4):447-457.
異なる種類と病期の心臓病の犬43頭と健康な犬29頭でCoQ10とNT-proBNPを測定。治療を受けているうっ血性心不全の犬でCoQ10濃度が高く、NT-proBNP濃度と負の相関性が認められたことから、CoQ10濃度とうっ血性心不全の重症度は関連している可能性が示された。
犬 総説
Sagols E, Priymenko N. Oxidative stress in dog with heart failure: the role of dietary Fatty acids and antioxidants. Vet Med Int. 2011 Apr 6;2011:180206.
心不全では心筋細胞が酸素を受け取れなくなり、細胞の代謝・機能が低下、急性的にも慢性的にもフリーラジカルが蓄積する状態になる。フリーラジカルは細胞膜やDNAのさらなる損傷を引き起こすと同時に細胞内メッセンジャーとして働き、心筋の肥大とリモデリングを誘導して心不全をますます悪化させる。オメガ3脂肪酸、CoQ10(30〜90 mg・1日2回)、ビタミンE、セレン、ポリフェノールといった抗酸化成分の摂取が推奨される。
犬 実験的研究
Harker-Murray AK, Tajik AJ, Ishikura F, Meyer D, Burnett JC, Redfield MM. The role of coenzyme Q10 in the pathophysiology and therapy of experimental congestive heart failure in the dog. J Card Fail. 2000 Sep;6(3):233-42.
心不全の犬と健康な犬ではCoQ10の血中濃度にも心筋濃度にも差はなかったが、CoQ10の投与により重度の心不全において心肥大が抑制された。
犬 実験的研究
Matsushima T, Sueda T, Matsuura Y, Kawasaki T. Protection by coenzyme Q10 of canine myocardial reperfusion injury after preservation. J Thorac Cardiovasc Surg. 1992 May;103(5):945-51.
実験的な虚血・再灌流処理を行なった犬の心臓において、CoQ10の事前投与によりATPの低下およびマロンジアルデヒド(酸化ストレスの指標)の増加が抑制され、心室機能の改善が認められた。
筋症
犬症例報告
Beltran E, Shelton GD, Guo LT, Dennis R, Sanchez-Masian D, Robinson D, De Risio L. Dystrophin-deficient muscular dystrophy in a Norfolk terrier. J Small Anim Pract. 2015 May;56(5):351-4.
発育不良、進行性の筋萎縮、CK値の上昇を示した先天性ジストロフィン欠損症の6ヶ月齢のノフォーク・テリア。CoQ10とL-カルニチンの投与で7ヶ月間状態を維持することができたが、その後、疾患が進行し、安楽死。
犬症例報告
Eminaga S, Cherubini GB, Shelton GD. Centronuclear myopathy in a Border collie
dog. J Small Anim Pract. 2012 Oct;53(10):608-12.
運動時の後肢脱力を主訴に来院した2歳のボーダーコリー。筋生検で中心核ミオパチーと診断される。L-カルニチン、CoQ10、ビタミンB群で症状が改善。
腦・認知機能
犬実験的研究
Martin SB, Cenini G, Barone E, Dowling AL, Mancuso C, Butterfield DA, Murphy MP, Head E. Coenzyme Q10 and cognition in atorvastatin treated dogs. Neurosci Lett. 2011 Aug 26;501(2):92-5.
高齢期の犬6頭にコレステロール降下薬アトルバスタチン(リピトール)を14.5ヶ月投与したところ、血中CoQ10濃度が低下し、脳のCoQ濃度の低下と認知機能の低下に相関性が認められた。
犬治験
Heath SE, Barabas S, Craze PG. Nutritional supplementation in cases of canine cognitive dysfunction – A clinical trial. Appl Anim Behav Sci. 105:274-283 2007 .
認知障害の犬20頭を対象とした二重盲検試験。DHA・EPA、ビタミンC、N-アセチルシステイン、L-カルニチン、α-リポ酸、ビタミンE、CoQ10、フォスファチジルセリン、セレンを配合したサプリメント(Aktivait)を42日間投与。11頭が試験完了。サプリメントを投与しなかった対照群と比べ、日中起きている時間、認知、そそう、飼い主との交流に改善が認められ、特に21日目以降でこの差が顕著だった。
犬実験的研究
Ren Z, Ding W, Su Z, Gu X, Huang H, Liu J, Yan Q, Zhang W, Yu X. Mechanisms of brain injury with deep hypothermic circulatory arrest and protective effects of coenzyme Q10. J Thorac Cardiovasc Surg. 1994 Jul;108(1):126-33.
実験的な脳虚血・再灌流を行なった犬において、CoQ10の投与により、脳の電子スピン共鳴(フリーラジカルを検出)の上昇、マロンジアルデヒドアルデヒド(酸化ストレスの指標)の上昇、ATP濃度の低下、皮質構造のが抑制された。
肝不全(うっ滞性黄疸)
犬実験的研究
Ogura Y, Takagi K, Kawarada Y, Mizumoto R. Pathophysiological effect of hepatic ischemia and reperfusion after hepatectomy in dogs with obstructive jaundice, focusing on the effect of coenzyme Q10 and styrene-co-maleic acid superoxide dismutase. J Gastroenterol. 1996 Jun;31(3):379-86.
うっ滞性黄疸を実験的に誘発した犬では、肝組織の過酸化脂質量の上昇、スーパーオキシドディスムターゼ(抗酸化酵素)の低下、肝実質細胞壊死が認めらたが、CoQ10の投与によりこれらの作用が抑制され、寿命が延長した。
安全性
犬毒性試験
Yerramilli-Rao P, Beal MF, Watanabe D, Kieburtz K, Blieck EA, Kitano M, Hosoe K, Funahashi I, Cudkowicz ME. Oral repeated-dose toxicity studies of coenzyme Q10 in beagle dogs. Int J Toxicol. 2012 Jan-Feb;31(1):58-69.
CoQ10を1200・1800 mg/kgの高用量で39週間投与。13週間で定常状態に到達。行動、血液検査値、病理組織検査で異常は認められず、死亡した犬もいなかった。