獣医師による手作り食・自然療法ガイド

エキナセア

Echinacea purpureaEchinacea angustifolia・Echinacea pallida・コーンフラワー

ひまわりやタンポポと同じキク科に属するエキナセアは、北米のネイティブ・アメリカンに万能薬として親しまれていたハーブ。現代では主に免疫力アップと抗菌・抗ウイルス・抗真菌作用を目的に単独または他のハーブと組み合わせて幅広い用途に用いられています。

数種類のエキナセアがあり、犬と猫では主に Echinacea purpurea(ムラサキレンバク)と Echinacea angustifolia の2種類が使用されています。 

五味五性:辛(やや甘・苦)・涼

主な作用

  • 病原体を貪食するマクロファージや好中球の活性化、抗体(IgG・IgM)やインターフェロンの産生促進など、複数の機序を介して抗菌・抗ウイルス作用を発揮
  • 創傷の治癒を促進
  • 白血球数赤血球数を上げる
  • 抗炎症サイトカインを誘導
https://www.whollyvet.com/wp-content/uploads/2019/03/Wolf-grey-background.jpeg

実験では食欲の増進、痛みの軽減、筋リラックス効果、抗不安、免疫調節作用のあるカンナビノイド受容体に作用すること、人の臨床研究では1週間の服用で抗不安作用を示すことが報告されています。

主な有効成分

アルキルアミド類・コーヒー酸誘導体(コーヒー酸・チコリ酸・エキナコシド等)・多糖類(アラビノガラクタン・ラムノアラビノガラクタン・フルクタン・キシログルカン・ヘテロキシラン等)・ベルベリン・フラボノイド(ケルセチン等)など多数。免疫調節作用に重要なのはアルキルアミド。

どんなときに与えればいいの?

  • 免疫力が弱く皮膚や耳の感染症を繰り返す犬猫に
  • ペットホテル滞在、引っ越しなど、環境の変化に伴うストレスや集団生活での感染症の予防に
  • ウイルス性・細菌性の呼吸器感染症に

与える量の目安

感染症の治療やストレス時の感染予防を目的とする場合は、必要な時に2週間〜2ヶ月程度与えましょう。特に感染初期は用量も回数も増やすことができます。

免疫力が弱っている子に常用したい場合は、最小用量で長期間与えます。効果が十分に感じられるようになったら5日与えて2日休むといった1週間のサイクルで与えるといいでしょう。

乾燥ハーブ
  • チコリ酸など一部の有効成分は失われてしまう
  • 体重1 kg あたり25 mgを1日3回
  • 感染の急性期には用量と回数を増やすことができる

アルコールエキス(30〜50%)
  • 効果が現れやすい
  • 体重 10 kg あたり0.5〜1.5 mLを1日2〜3回に分けて与える
  • 感染の急性期には用量と回数を増やすことができる
  • アルコール(エタノール)に弱い場合は、アルコール抽出のあとアルコールを除去したものか、グリセリン液を選ぶ(成分や安定性は若干低下)。
https://www.whollyvet.com/wp-content/uploads/2019/03/Bear-grey-background.jpeg

自分の舌に1滴のせてみて。ピリピリと痺れるような感覚があれば重要なアルキルアミドが含まれている証拠です。

軟膏

カレンデュラの軟膏にエキナセアエキスを混ぜて傷に塗ると、傷の感染を防いで治癒を早めることができます。

カレンデュラクリームの作り方(クイック法)カレンデュラ軟膏の作り方
E. purpurea vs. angustifolia
  • いずれも似たような効果が報告されていますが、一般的には angustifolia の方がアルキルアミドの含量が高くなっています。
  • ヨーロッパで多くみかけられる purpurea は多糖類の含量が高く、肝臓での分解が早いため効果が現れにくいことがあります。
  • 両方を混ぜると相乗効果を発揮。これは angustifolia の肝臓での分解が遅いため、purpurea が体内に残りやすくなるためと考えられています。

安全性と注意点

  • エキナセアは非常に安全域の広いハーブですが、キク科植物に対するアレルギーが疑われている場合は注意しましょう(犬猫ではまれ)。
  • 免疫抑制剤の効果を弱める可能性があります。免疫抑制剤で治療中の場合は、獣医師に確認してから使用しましょう。
  • 製造会社によって品質が大きく異なります。アルキルアミド、チコリ酸、エキナコシドなどの有効成分の分析を行い標準化されている製品を選ぶようにしましょう。
  • 抽出に使うアルコール濃度(50%以上)が高くなるほど免疫調節、抗炎症、貪食促進作用、抗不安作用をもつアルキルアミドの濃度が高くなります。
https://www.whollyvet.com/wp-content/uploads/2019/03/Bear-grey-background.jpeg

私たちは一定量のアルキルアミドを含む製品を使用しています。

他のハーブとの組み合わせ例

エキナセア(0.5〜1 g/mL)40%
オレゴングレープルート(0.3〜0.5 g/mL)20%
アストラガルス(0.5 g/mL)20%
リコリス(0.5〜1 g/mL)20%
  • 体重 5 kg あたり 1 mL を1 日 1〜2 回食事とともに与える
エキナセア(0.5〜1 g/mL)50%
マーシュマロウ(0.2〜0.5 g/mL)50%
  • 体重 5 kg あたり 0.5 mL を1 日 2〜3 回食事とともに与える
  • 急性期には量と回数を増やしてよい
  • フェンネルエキスを同量加えると咳止め効果が高くなる
エキナセア(0.5〜1 g/mL)50%
ゴールデンシール(0.3〜1 g/mL)25%
ジンジャーまたはフェンネル(0.3〜0.5 g/mL)25%
  • 体重 5 kg あたり 1 mL を1 日 1〜2 回食事に混ぜて与える

エビデンス

 E. angustifolia 臨床研究

 

Sgorlon S, Stefanon B, Sandri M, Colitti M. Nutrigenomic activity of plant derived compounds in health and disease: Results of a dietary intervention study in dog. Res Vet Sci. 2016 Dec;109:142-148.

 

保護施設、訓練施設等の健康な中型〜大型の成犬14頭に E. angustifolia(エキナコシドとして0.1 mg/kg)を60日間給与。対照群と比較すると、好中球を誘引し貪食作用を促進するIL-8の遺伝子の発現が亢進、炎症マーカーTNFとNFKB1の発現が低下した。また投与前と比べると、炎症急性期に濃度が上昇することが知られているセルロプラスミンが低下し、血中亜鉛濃度の上昇が認められた。これらは人や実験動物で報告されているエキナセアの抗菌活性や抗炎症作用の作用機序と一致するものである。

 

ちなみにこの論文では、ビルベリー、ミルクシスルおよびターメリックの効果も同時に検討している。

 E. purpurea 治験

Reichling J, Fitzi J, Fürst-Jucker J, Bucher S, Saller R. Echinacea powder: treatment for canine chronic and seasonal upper respiratory tract infections. Schweiz Arch Tierheilkd. 2003 May;145(5):223-31.

 

慢性または季節性の上部呼吸器感染(咽頭炎・扁桃腺炎・気管支炎・ケンネルコフ)を呈し、抗生物質、ステロイド、NSAID等の治療を受けていない犬41頭(0.3〜13歳・3.5〜70 kg・最終的に3頭は解析から除外)にE. purpureaの根の粉末を体重10 kgあたり1 g(エキナセア末として0.3 g)で8週間投与。4週目で92%、8週目で95%の犬において効果が「良好」または「非常に良好」と獣医師により判定された。重症度スコアに有意な改善が認められた症状は、体温、非膿性鼻汁、リンパ節腫長、乾性咳、呼吸困難、乾性肺音。嘔吐や吐気も15頭中14頭で消失。飼い主評価では、毛艶、食欲、元気に有意な改善が認められた。

 

1頭の犬でケンネルコフが悪化し、抗生物質投与が必要だった。心不全による発咳があった1頭では発咳が重症化。3頭ではALT(GPT)が上昇(因果関係は不明)。

実験的研究

Torkan S, Khamesipour F, Katsande S. Evaluating the effect of oral administration of Echinacea hydroethanolic extract on the immune system in dog. Auton Autacoid Pharmacol. 2015 Jul;35(1-2):9-13.

 

雄犬7頭に50%エタノールで抽出したエキナセア(5%液)1 mLを1日2回2ヶ月間投与。投与前と比較して、ヘマトクリット赤血球数白血球数、リンパ球数、貪食細胞数、IgM濃度が上昇。プラセボ群と比較するとヘモグロビン濃度が高かった。残念ながらどのエキナセア種が使用されたかは不明。この論文は間違いや不確かな点が非常に多く、きちんとした査読を受けていないのが明らか。エビデンスとしては信頼性が低い。

 E. purpurea 疫学研究

Lans C, Turner N, Khan T, Brauer G. Ethnoveterinary medicines used to treat endoparasites and stomach problems in pigs and pets in British Columbia, Canada. Vet Parasitol. 2007 Sep 30;148(3-4):325-40.

 

カナダの自然療法医、訓練士、ブリーダー、ペットショップ、有機農家を対象に伝統薬の使用状況の調査を実施。エキナセアチンキはトリコモナス等の微生物感染に使用されており、投与量は1頭あたり0.25〜0.5 mL(重症例では3 mLを1日2回)。