乳酸菌・善玉菌・生菌製剤・ビフィズス菌
腸管に住む微生物は、腸細胞や腸管免疫系と一緒に働いて腸内の環境を整え、腸の病気にとどまらず、まったく何の関係もなさそうな肥満、慢性腎臓病、尿石症、アトピー、心肺疾患、がんなどのさまざまなな病気から体を守ってくれています。プロバイオティクスは、この腸内細菌叢のバランスを正常化するために使用される生菌剤です。
一般的な機能と役割
- pH、粘膜などの腸内環境を調節し、便通を整える
- 腸管免疫系に働きかけて免疫バランスを整え、腸バリアを強化 ➜ アレルギー・感染症・自己免疫性疾患・がんの予防や治療、炎症の抑制に役立つ
- 抗菌物質を分泌し、免疫細胞からの抗体分泌を促して感染を予防
- 悪玉菌と競合し、増殖抑制物質を産生して悪玉菌を抑制
- 犬猫が自分で作れないビタミンB群や有機酸(腸細胞のエネルギー源)を産生
- 犬猫が消化できない栄養素を分解し、消化を助ける
- グルテン、レクチンなどの有害物質の分解・不活化
どんなときに与えればいいの?
- 抗生物質の投与中・投与後
- 下痢気味・便の臭いが気になる
- 食物繊維を与えても便秘が改善しない
- 帝王切開で生まれた子犬・子猫
- 母親から早く引き離された子犬・子猫
- 野菜や全粒穀物をうまく消化できない
- ストレス性腸炎を起こしやすい
- 各種のアレルギー・自己免疫性疾患
- 膵炎、胆嚢炎、胃酸抑制剤の投与中など、腸内細菌叢のバランスが崩れることが予想される場合
- 皮膚病、炎症性腸炎、関節炎、肝炎、腎臓病などの慢性炎症性疾患
- ペットホテルやデイケアで集団生活を送るとき
- 生食ではなく加熱調理食を与えている場合
与える量の目安
- 1頭あたり1日 2〜5 千万個以上(1000万 CFU以上)
- または、製品説明書の指示にしたがう。
与える量
- 猫・小型犬:1錠(杯)
- 中型犬:2錠(杯)
- 大型犬:3錠(杯)
1日3回1〜2週間継続。その後、1日1回で維持。
錠剤と細粒どちらを選ぶ?
錠剤には、乳糖、白糖、ステアリン酸マグネシウムなど避けたほうがよい添加物が散剤より多く使用されているため、長期使用の場合は細粒がオススメ。
ビオフェルミンS錠 | ビオフェルミンS細粒 | |
添加物 | トウモロコシデンプン デキストリン 乳糖水和物 沈降炭酸カルシウム アメ粉 白糖 タルク ステアリン酸マグネシウム |
トウモロコシデンプン デキストリン 沈降炭酸カルシウム アメ粉 |
含量 | 錠剤1錠中の菌量 6 mg = 添付のサジ1杯分の細粒 いずれも食後または食事に混ぜて与えると胃酸の影響を受けずに腸に届く |
人用のビオフェルミンも犬や猫に効くの?
効きます。
医療用ビオフェルミンは動物病院でもよく処方される乳酸菌製剤ですが、抗生物質や抗がん剤などの長期使用による下痢や軟便、便秘を実際に改善してくれます。ただし、与えた乳酸菌が腸の中で定着するかどうかは別問題。そのため、症状が改善しても定期的な投与が必要になることがあります。
プロバイオティクスの選び方
食品で
便の調子に問題がなく、特に気になる病気がない場合や若くて健康な場合は食品で与えれば十分です。
グリーントライプ・発酵食品・ヨーグルト・ナチュラルチーズ・マンゴーなど
サプメントで
サプリメントにはさまざまなものがあります。きちんと基礎研究や臨床試験が行われて論文として臨床効果が公表されている製品もあれば、外部の人間が知ることのできない”社内試験”や”モニター様の声”を実績として宣伝しているものもあります。
かかりつけの動物病院できちんと効果が証明されたものを購入するのが理想的ですが、取り扱っていない場合は、目安として次の条件を満たしているものを選ぶようにしましょう。
- サプリメント化されても菌が生きている
- 投与後に胃酸や消化酵素で死なない
- 腸粘膜に生着して増殖する
“生菌”剤ですから、善玉菌が生きて腸まで届き、増えてくれることが大前提。善玉菌が活動・増殖する過程で産生するさまざまな物質が腸細胞や腸管免疫系、悪玉菌に働きかけて、作用を発揮します。そのまま腸管に住み着いてくれると、ずっとサプリメントを与える必要がなくなるのですが、実際にはなかなか難しく、投与をやめると効果がなくなることがよくあります。犬猫由来の善玉菌だと定着しやすい傾向にありますが、臨床効果が報告されているものの多くは人由来なので必ずしも犬猫由来である必要はありません。
- 複数の菌株を十分な数含んでいる
善玉菌には乳酸菌、ビフィズス菌、エンテロコッカス菌などいろいろな種類があり、それぞれ違う作用を持っているため、相乗効果が期待できます。
また、腸内細菌叢は”第2の指紋”といわれるほど個体差があり、同じプロバイオティクス製品でも一頭一頭で反応が異なるのが普通です。つまり、たくさんある製品の中で自分の犬猫に合うものをピンポイントで選ぶのはギャンブルのようなもの。多くの菌株を含む製品を選ぶと、当たる確率が高くなります。
ビフィドバクテリウム・アニマリス 犬由来 |
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ラクトバチルス・アシドフィルス 人・犬・牛由来など |
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ラクトバチルス・ファーメンタム 人・犬由来 |
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ラクトバチルス・ラムノサス ラクトバチルス・パラカゼイ K71株 ラクトバチルス・サケイ |
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ラクトバチルス・カゼイ(DG株) |
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エンテロコッカス・フェシウム(SF68株) 人由来 |
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Azodyl 3種類の菌とプレバイオティクスの配合剤 |
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VSL#3 人由来の8種類の菌を配合 |
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- 犬猫での安全性が確認されている
- GMP基準を満たした工場で製造されている
善玉菌だからといって安全とは限りません。中には、悪玉菌の数を逆に増やしてしまう製品もあることが報告されています。
GMPは、工場での原料の調達から製造、出荷まですべての過程において、安全かつ優れた品質の製品が作れるよう必要条件や手順、検査方法を定め、外部機関による定期的な検査を行う仕組みです。不純物や雑菌の混入を防ぎ、安全性を確保する上で非常に大切な役割を果たしています。通常は医薬品の製造に適用されるもので、日本ではサプリメントへの適用は義務付けられていませんが、多くの会社が自主的にGMP制度を取り入れ、安全と品質への積極的な取り組みを行なっています。
効果を判定するには
数週間試して効果を感じられなければ別の製品に切り替える
早くて1〜2週間、遅くても2〜3ヶ月後には細菌叢バランスや免疫マーカーに違いが現れます。1種類の製品を数週間試してみて、特に違いを感じなければ別の製品に切り替えましょう。自宅で効果を測るときに一番わかりやすいのは便の硬さや匂い、回数の変化です。免疫状態については特殊検査が必要になるため、自宅や一般の動物病院では判定が難しいですが、全身状態や症状の再発の有無からある程度判断することができます。いずれも他の因子にも影響されやすいことを覚えておく必要があります。
効果が期待できるまでの時間の目安
- 便の性状:数日〜2週間
- 慢性化した腸炎:1〜3ヶ月
- 皮膚病・アレルギー:1〜6ヶ月
- 免疫系:2週間〜6ヶ月
- 腎臓病(高窒素血症の抑制):2ヶ月
豆知識
動物が何を食べられるかは腸内細菌が決めている!
コアラは食の好みがとても激しく、ユーカリの木の中でも決まった種類のものしか食べません。同じコアラ同士で違う種類のユーカリを食べる「棲み分け」をすることによって共存してきたと考えられています。
しかしこの特殊な食性のせいで、住む場所を失ったコアラを別の森林に移動させると、どんなにユーカリがたくさんあっても餓死してしまうことがあります。
2018年の米国微生物学会で発表された研究によると、あるコアラのウンチを食性が異なる別のコアラに移植したところ、移植を受けたコアラはわずか2週間ほどで今まで食べなかったユーカリを食べるように。腸内細菌のパワーが絶滅の危機にある動物を救える可能性があることが明らかになりました。
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