抗酸化 免疫 細胞シグナリング 遺伝子発現 アポトーシス 脂溶性ビタミン
体をサビから守る!
現代の犬猫はペットフード、大気汚染、農薬、重金属など、必要以上の酸化ダメージにさらされる機会が増えています。細胞膜に存在する脂質は非常に酸化されやすく、酸化ダメージを受けた細胞は正常な構造や機能を保てなくなります。この脂質酸化を防止しているのがビタミンEです。
ビタミンEは、正常な免疫機能、遺伝子発現、生殖機能、細胞同士の連絡の調節も行なっており、細菌やウイルスを撃退するのにも役に立っています。また、酸化ダメージを抑制することでさまざまな炎症性疾患や慢性疾患の予防と治療にも効果を発揮します。
食品でも補うことができますし、人用のサプリはとても安く入手できるので必要量が特に多くなる大型犬に便利でしょう。
ビタミンEは体内でセレン・グルタチオン・ビタミンC・ベータカロテンと助け合っています。これらの成分やその材料を食事でしっかりと与えていればビタミンEの必要量が減り、逆にビタミンEをしっかり与えていればそのほかの成分の必要量が減ります。
サプリメントで与える場合、消化管におけるビタミンEの吸収はビタミンAやビタミンDと競合します。ビタミンEを朝ごはんに与えたら、ビタミンA・Dは夕ごはんに与えるというように分けて与えるのがおすすめです。
給与量の目安(1日分)
犬
体重 | 5 kg | 10 kg | 15 kg | 20 kg | 25 kg |
---|---|---|---|---|---|
目安 | 3 mg | 5 mg | 6.5 mg | 8 mg | 9.5 mg |
上限 | 100 mg | 180 mg | 240 mg | 300 mg | 350 mg |
猫
体重 | 3 kg | 4 kg | 5 kg | 6 kg | 7 kg |
---|---|---|---|---|---|
目安 | 2 mg | 2.5 mg | 3 mg | 3.2 mg | 3.5 mg |
※ α-トコフェロールの量。※猫の上限値は設定されていません。
※避妊去勢済み・普通の運動量の場合。給与量は、ライフステージ、運動量などによって変わります。こちらのページから正しい量を確認しましょう。
病気の時、ペットホテル滞在中などのストレス時、シニア期の犬猫では酸化ダメージが蓄積しやすいため、必要量より多めにサプリメントで与えるといいでしょう。
猫・小型犬: 25 IU
中型犬: 50 IU
大型犬: 100 IU
食品中のビタミンE(参考)
ビタミンEを作れるのは植物だけです。そのため、ビタミンEは植物性食品に豊富に含まれており、それを食べた家畜や魚介類にも若干含まれています。
食品(100 g 中) | ビタミンE(mg) |
---|---|
小麦胚芽油 | 149.4 |
アーモンド油 | 39.2 |
ひまわり油 | 38.7 |
アーモンド | 30.3 |
綿実油 | 28.8 |
小麦胚芽 | 28.3 |
サフラワー油(紅花油) | 27.1 |
オリーブ油 | 7.4 |
かぼちゃ・青菜・赤ピーマン | 2.0〜4.0 |
卵黄(生) | 3.4 |
全卵(生) | 1.0 |
ラム肉(脂つき) | 4.0 |
ヤギ・馬・鹿の赤肉(生) | 0.5〜1.0 |
鶏もも・手羽・ハツ・ひき肉(生) | 0.5〜1.0 |
養殖うなぎ | 4.9〜7.0 |
養殖はまち(生) | 4.6〜5.5 |
ビタミンE単位換算機
食物に含まれる天然ビタミンE(α-トコフェロール)は、通常「mg」で表示されます。サプリメントには天然型(食物由来)と合成型がありますが「IU」で表示されることが多くなっています。いずれも形態などさまざまな因子によって吸収率や活性が左右されるため、臨床では細かく考えずに「1 IU = 1 mg」で処方されます。
ビタミンE ➜ 食品換算はこちらで
ビタミンE欠乏症と過剰症
ビタミンEが不足するとどうなるの?
ビタミンEは動物が生きていくのに必要な栄養素です。不足すると細胞膜のダメージによりさまざまな慢性疾患が現れ、ビタミンEを全く含まない食事を与えた犬では、骨格筋の変性による脱力、心筋障害、繁殖障害、網膜変性、溶血などが報告されています。
脂がのった魚ばかりを食べている猫では、ビタミンEの不足により体脂肪が酸化・炎症を起こして痛みが生じるようになる汎脂肪織炎という病気になることあるので気をつけましょう。
ビタミンEを過剰に与えるとどうなるの?
ビタミンEは非常に安全な栄養素で、過剰摂取による問題は報告されていません。ただし、非常に高い濃度でビタミンAやビタミンD、ビタミンKの吸収阻害がおこる可能性があります。余分なビタミンEは肝臓に貯蔵されるか、胆汁を介して糞便中に排泄されます。
がんで抗がん剤や放射線治療を行なっている場合は、高用量での投与は行わないようにしましょう。一部の抗がん剤や放射線はがん細胞の細胞膜に酸化ダメージを与えることで効果を発揮します。ビタミンEによってがん細胞が保護されてしまう可能性があります。
豆知識
α型とγ型
天然ビタミンEには8種類の化合物があり、そのうちもっとも活性が高いのがα-トコフェロールです。犬猫の栄養基準もα-トコフェロールで設定されています。
γ-トコフェロールについては、従来、食品の保存に重要な役割を果たすと考えられていましたが、人の研究では生体内でも重要な役割を果たしている可能性が示されています [1,2]。γ-トコフェロールは、あまに油、ごま油、えごま油、くるみなどに豊富に含まれています。
天然型と合成型の見分け方
サプリメントの製品説明書に「d-α-トコフェロール」と記載されている場合は天然由来のビタミンE、「dl-α-トコフェロール」と「l」が付いている場合は合成ビタミンEです。
合成型よりも天然型の方が活性が高く、例えば同じ30 mgでも天然型の場合は 50 IU、合成型の場合は30 IUに相当します。
ビタミンEとセレンの関係
セレンはグルタチオンペルオキシダーゼという酵素を助けている微量元素です。グルタチオンペルオキシターゼもビタミンEと一緒に細胞膜脂質の酸化を防いでいます。ビタミンEがきちんと仕事をしていれば、セレンの必要量が減り、逆にセレンがきちんと仕事をしていればビタミンEの必要量が減ります。
レクチンを含まないビタミンEサプリメント
ひまわり油、小麦胚芽油、大豆油など、自然素材のビタミンEサプリメントはレクチンを含むオイルが由来になっていることがよくあります。レクチン完全除去食を実施中の場合は次の選択肢があります。
- 天然ではなく合成のビタミンEサプリメントを利用
- アーモンドなどのナッツ類、レッドパームフルーツはレクチンフリー
ひまわり油や小麦胚芽油由来のサプリメントでも、ビタミンEだけを抽出・濃縮しているのでレクチンはほとんど含まれていません。それでも調子が悪くなるようなら上記2つの方法を選びましょう。
うちのコに合うオイルはどれ?(植物油編)よくある質問
治療用量のビタミンEをオイルで与える場合、猫や小型犬でも50〜100 mLの植物油が必要になります。ビタミンE含量が一番高い小麦胚芽油でも大さじ1が必要です。これは現実的に与えるのが不可能な量なので、食用油ではなくビタミンEサプリメントで与えるようにしましょう。
サプリメントを使いたくない場合は、卵やアーモンド、鮭、豚肉、ラム肉、青菜などビタミンEが比較的多い食品を普段から取り入れ、体内に”貯金”させるようにしましょう。食品中のビタミンE含量は文部科学省の食品データベースで調べることができます。
ビタミンEは油溶性のため、オイルカプセルとして販売されていることがほとんど。でも一般的なサプリメントは一番小さいものでも100 IU。猫や小型犬ならカプセルを切って1〜2滴、大型犬でも1〜2粒あれば十分です。食事全体の量からみれば脂質量にはほとんど影響しません。心配なら1滴ずつからはじめ、様子を見ながら増やしていきましょう。
- Jiang Q, Christen S, Shigenaga MK, Ames BN. gamma-tocopherol, the major form of vitamin E in the US diet, deserves more attention. Am J Clin Nutr. 2001 Dec;74(6):714-22.
- Wolf G. How an increased intake of alpha-tocopherol can suppress the bioavailability of gamma-tocopherol. Nutr Rev. 2006 Jun;64(6):295-9.