小柴胡湯(しょうさいことう)は7種類の生薬を含む漢方薬で、犬猫のさまざまな病気に使用されています。体の中心部の「停滞」を解消して、上半身と下半身の連絡をスムーズにしてくれる作用があります。
体を「前・中・後」に分けて考える
犬猫の体を「頭部・胸部・前肢」「腹部」「腰部・後肢」の3つに分けて考えると、どのような症状に小柴胡湯を使えるかが理解しやすいでしょう。
頭部から体の中心部を通って尾や後肢の方へと流れる循環経路に何らかの理由で障害が生じると、真ん中の腹部にエネルギーや血液、体液が貯留し、腹部膨満(お腹の張り)を生じます。医学的には肝臓または脾臓の腫大化や腹水として現れることが多い状態です。
腹部に詰まりが生じると、上半身から下半身への気の流れがストップし、逆流して嘔吐、げっぷ、咳などの症状を起こします。熱も上半身に溜まり、イライラや不安、発熱、目の充血として現れるようになります。
一方、上半身からエネルギーや熱を受け取れなくなった下半身では冷えが進み、後肢の震え、麻痺、尿失禁、乏尿といった症状が現れます。
さらに進行して上半身と下半身の連絡が完全に途絶えると、突然の失神、全麻痺などの重篤な症状が生じます。
小柴胡湯は、原因となった循環障害(詰まり)を解消することで分断されてしまった体の流れを正常に戻してくれるお薬です。
薬理学的には、抗炎症作用が高く、人ではひき始めで治らなかった風邪やインフルエンザ、慢性肝炎によく使用されます。犬や猫でも、肝臓や脾臓のリンパ腫、胆管炎、肝炎、膵炎、腎炎、椎間板ヘルニアなど、高度の炎症を伴う疾患の急性〜亜急性期の使用に適しています。
サイコ ハンゲ オウゴン タイソウ ニンジン カンゾウ ショウキョウ
用量・用法
- 1日量として体重1 kg あたり 60〜75 mg から開始し、1日2回に分けて食事とともに与える。副作用がない場合は、用量を2〜3倍まで増やしていく。
- 2〜3週おきに症状を確認し、その都度、処方を調節する。
- 救急の場合や吸収障害がある場合は、経口量の2〜3倍の量をぬるま湯に溶かして横行結腸に注入し、門脈から肝臓へ直接吸収させる。
- 小柴胡湯は疾患の急性〜亜急性期における短期間の使用に向いています。小柴胡湯で「詰まり」が解消されたら、長期使用に向いている漢方薬に切り替えましょう。例えば肝酵素の急激な上昇が見られたときには小柴胡湯を使用し、落ち着いたら逍遥散に切り替えて維持します。
- 相互作用としてプレドニゾロンの血漿中濃度を下げることが人で報告されています。プレドニゾロンで治療中の場合には、必ず獣医師に相談してから使用しましょう。
- サイコは溶血作用のある成分を含みます。高用量の長期使用を行う際は気をつけましょう。
適応
- 炎症性疾患の急性期〜亜急性期に
- 肝酵素値の急な上昇があり、特にコレステロール値も上昇しているとき
こんな症状が気になるときに…
三焦の阻滞または少陽病期の症状
- 腹部膨満・脾臓または肝臓の肥大・腹水
- コレステロール値の上昇
- 肝酵素の上昇
- 肋骨弓の圧痛
- リンパ節の腫脹
- 嘔吐・食欲不振
- 攻撃性・イライラ・不安・落ち着きのなさ(特に夜間)
- 後肢の脱力・震え・麻痺
- 失禁
- 乏尿
- 少陽胆経の熱感
上記に加えて次のような症状も見られることがあります。
- パンティング
- おくび(げっぷ)
- 慢性の乾性咳
- 目の充血
- ふらつき
- けいれん
- 失神・麻痺
よく使用される疾患
消化器系
- 肝臓のリンパ腫
- 慢性活動性肝炎
- 胃拡張捻転症候群
- 胆管肝炎
腎泌尿器系
- 尿失禁
- 慢性腎臓病
- 糖尿病性腎症
- 蛋白喪失性腎症
腫瘍
- 肝臓・脾臓のリンパ腫
- 甲状腺腫
- 化学療法中の肝酵素・コレステロール値の上昇
神経系・筋骨格系
- 椎間板ヘルニア
- 十字靭帯損傷
- 股関節形成不全
- 関節炎・変形性関節症
- 固有位置感覚の喪失
- 前庭疾患
- けいれん
- 背部・腰部痛
- 脳炎・髄膜炎
免疫系
- 全身性エリテマトーデス
- 免疫介在性血小板減少症
- 免疫介在性溶血性貧血
行動問題
- 認知力の低下
- 攻撃性・イライラ・落ち着きのなさ
- 不眠
- 沈うつ
症例報告(犬・猫)
- Bauer LA. A Chinese medical approach to cholangiohepatitis in the dog. J CIVT. 2012; 2(1): 13-21.
- Farr D. Use of Xiao Chai Hu Tang to treat poor appetite in a young German shepherd. J CIVT. 2012; 2(2): 3-7.
- Marsden K. Treating the “menopausal” pet: keeping Yin and Yang in balance. AHVMA Conference 2008 Proceedings.
- Marsden S. Update Chinese Herbs for Liver Disease – Case and Evidence Based. CIVT Conference 2016 Seminar Note.
基礎・医学研究
- Homma M, Oka K, Ikeshima K, Takahashi N, Niitsuma T, Fukuda T & Itoh, H. Different effects of traditional Chinese medicines containing similar herbal constituents on prednisolone pharmacokinetics. J Pharm Pharmacol. 1995, 47 (8) 687-692.