獣医師による手作り食・自然療法ガイド

オメガ3脂肪酸 (n-3)

 皮膚・被毛の健康   免疫・アレルギー   抗炎症   網膜・脳神経 

がん、皮膚病、心臓病、関節炎、腎臓病、肝臓病、腸炎、アレルギーなど、若齢期以降の病気の多くは炎症から始まります。オメガ3脂肪酸はこれらのさまざまな疾患の予防や改善に役立つ非常に重要な栄養素で[1]、若いうちからの積極的な摂取が推奨されています。

オメガ3脂肪酸の抗炎症作用

犬猫が食事から必ず摂取しなくてはいけない必須脂肪酸にはオメガ3脂肪酸系とオメガ6脂肪酸系の脂肪酸があります。それぞれの系には複数の種類の脂肪酸が含まれています。

オメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸は、同じ酵素群を使って合成され、別の生理活性物質に作りかえられています。オメガ6脂肪酸からは、炎症や痛みの原因となる物質イコサノイドが合成されます。しかし、オメガ3脂肪酸がたくさんあれば、そちらの方に酵素が優先的に使われるため、その分、オメガ6脂肪酸から合成される起炎物質の量を減らすことができます。オメガ3脂肪酸からもイコサノイドが作られますが、炎症を促進する作用はオメガ6系より弱く、結果的に炎症を抑制する方向に働きます。

MEMO
オメガ3脂肪酸からは炎症反応を収束させるレゾルビン・プロテクチンという物質も合成されることが示されています

犬猫に重要なのはDHAとEPA

オメガ3系では、α-リノレン酸を出発物質として抗炎症作用のあるEPA(イコサペンタエン酸)、そしてDHA(ドコサヘキサエン酸)が作られています。しかし、α-リノレン酸の変換効率は人を含めた雑食動物でも10〜15%程度と非常に低く、犬ではさらに低いことがわかっています[2]。

猫にいたっては、α-リノレン酸を変換する能力をほとんど持っていません。

つまり、炎症を効果的に抑制して病気を防ぎたい場合は、α-リノレン酸をスキップして、EPAやDHAを直接与える必要があるのです。

α-リノレン酸は動物性食品よりも植物性食品に多いので、肉食系の犬や猫がうまく利用できないのも納得です。

犬と猫のオメガ3脂肪酸を考えるときは、α-リノレン酸ではなく、DHAとEPAの量を基準にして考えるようにしましょう。

食材やサプリメントの選び方

DHAやEPAは、イワシ、サバ、サーモンなどの脂ののった魚や貝類、藻類に多く含まれています。これらを食材やサプリメントとして毎日の食事に取り入れる際には、次の点に注意しましょう。

  1. サケやサバなどの大きめ魚は水銀などの重金属が蓄積しているため、毎日の使用には向いていません。主食にする場合は週1〜2回に限定しましょう。
  2. サプリメントの場合は、イワシやニシン、クリル、イカ、藻類など汚染の少ない魚貝類由来のものか、重金属の除去処理をしているものを選びましょう。
  3. 人用のサプリには魚臭さを消すためにレモンなどが風味付けに使用されている場合があります。柑橘類の味は犬や猫には不評なことが多いので気をつけましょう。
  4. 動物性油脂は開封して空気に触れると酸化しやすいため、すぐに使い切れない場合は、液体よりもカプセルのものを選びましょう。
  5. サプリメントの投与量は、サプリメントや原料(魚油、クリルオイルなど)の重さではなく、DHAとEPAの合計量で決めましょう。
うちのコに合うオイルはどれ?(動物性油脂編)
注意
サプリメントは手術の1週間前から給与を中止しましょう。

非常にまれですが、術中・術後に出血しやすくなったり、術創の治癒が遅れたりすることがあります。

給与量の目安(1日分)

DHAとEPAは、最低限必要な量と予防・治療効果を出す量に大きな差があるので注意しましょう。

体重 5 kg 10 kg 15 kg 20 kg 25 kg
α-リノレン酸(必要量) 40 mg 70 mg 95 mg 120 mg 140 mg
DHA + EPA(必要量) 40 mg 70 mg 95 mg 120 mg 140 mg
DHA + EPA(予防・治療量) 100〜150 mg 200〜300 mg 300〜450 mg 400〜600 mg 500〜750 mg
DHA + EPA(上限値) 1050 mg 1760 mg 2400 mg 3000 mg 3500 mg

体重 3 kg 4 kg 5 kg 6 kg 7 kg
DHA + EPA(必要量) 4.8 mg 5.9 mg 6.3 mg 8.0 mg 9.0 mg
DHA + EPA(予防・治療量)
50〜150 mg

※DHAとEPAを足した合計量で表示しています。
※避妊去勢済み・普通の運動量の場合。給与量は、ライフステージ、運動量などによって変わります。こちらのページから正しい量を確認しましょう。

食品中のオメガ3脂肪酸(参考)

食品(100 g 中) α-リノレン酸(mg) EPA(mg) DHA(mg)
サンマ刺身 270 1400 2100
太平洋鮭(養殖) 140 850 1400
銀鮭(養殖) 480 310 890
ブリ 97 940 1700
サバ(まさば) 76 690 970
トロ 210 1400 3200
まぐろ赤身 3 27 120
いわし・にしん 59〜100 780〜880 770〜880
鶏全卵 43 0 120
うずら全卵 31 34 240
あまに油・えごま油 57000〜58000 0 0

DHA・EPA ➜ 食品換算

若いうちや普段は刺身や魚を、中齢期以降と予防・治療をしっかり行いたい場合はサプリを。

豆知識

他にもある!DHAとEPAの役割

DHAとEPAは炎症を抑えることで細胞や組織の損傷を防ぎ、臓器の機能の維持に役立っていますが、抗炎症以外の役割もあります。

  • 好中球などの免疫細胞の機能を強化。
  • 犬の高脂血症を抑制。
  • がん細胞膜に取り込まれて、抗がん剤や免疫系に対するがん細胞の抵抗性を弱める。
  • 脂質代謝を調節して悪性疾患末期の悪液質を予防・改善。
  • DHAは網膜や神経系に高濃度に分布。母乳中のDHAは子犬と子猫の眼と脳神経の正常な発達を促します。子犬では、α-リノレン酸をDHAに変える能力が成犬よりも高くなっています。
MEMO
最新の研究では残念ながら歯肉炎や歯周病、歯石の予防には役立たないことが報告されています[3]。やっぱり歯ブラシが一番効果的なようですね。

α-リノレン酸は?

一部がEPAとDHAに変換される以外には、あまり機能が明らかになっておらず、品種による違いもあるようですが、皮膚の健康に間接的に役立つことがわかっています。これは、リノール酸の役割を一部とって代わることで皮膚バリア中のリノール酸の量を増やすことができるためではないかと考えられています。

また、DHAにはなれなくても、DHAの前駆物質のDPAになることができます。神経細胞や網膜細胞はDPAをDHAに変えることができるため、目や脳の発達や正常な機能に間接的に役立っています。

  1. Bauer JE. Therapeutic use of fish oils in companion animals. J Am Vet Med Assoc. 2011 Dec ;239(11):1441-51.
  2. Dunbar BL & Bauer JE. Conversion of essential fatty acids by delta 6-desaturase in dog liver microsomes. J Nutr 2002;132:1701S–1703S.
  3. Lourenço AL, Booij-Vrieling HE, Vossebeld CB, Neves A, Viegas C, Corbee RJ. The effect of dietary corn oil and fish oil supplementation in dogs with naturally occurring gingivitis. J Anim Physiol Anim Nutr (Berl). 2018 Oct;102(5):1382-1389.