(ステージ1) ステージ2・3・4 猫 犬
食事中のリンの量を制限することは、慢性腎臓病の食事療法の中でもっとも大切です。高リン血症は、慢性腎臓病を進行させることが知られており、血中のリン濃度が 1 mg/dL上昇するごとに腎臓の機能低下リスクと死亡リスクが上昇することがわかっています。
腎臓の機能が低下すると、リン(リン酸)が腎臓から尿中に排泄されなくなり、血液中に蓄積して血中のリン濃度が上昇します。初期には、まだ元気な腎臓組織や上皮小体(副甲状腺)ががんばって働くことで、血液中の正常なリンの濃度を維持することができますが、この段階でリンの濃度を抑制できないと、残っている腎臓組織や上皮小体にますます負荷がかかり、腎臓組織の寿命を早め、上皮小体機能亢進症を引き起こします。上皮小体機能亢進症は骨粗鬆を起こしたり、腎臓などの軟部組織にカルシウム沈着を引き起こして炎症を起こし、腎臓にさらにダメージを与えます。そのため、血中のリン濃度がまだ上昇しないうちに、早めの対策を取る必要があります。
リンの制限は主にステージ2から取り入れます。
血中リン濃度の目標値(犬猫共通)
ステージ2 | ステージ3 | ステージ4 | |
---|---|---|---|
mmol/L | 0.9 〜1.5 | 0.9 〜1.6 | 0.9 〜1.9 |
mg/dL | 2.7〜4.6 | 2.7〜5.0 | 2.7〜6.0 |
食事中のリン含量の目安
- 犬:0.2〜0.5%(水分を除いた乾物換算)
- 猫:0.3〜0.6%(水分を除いた乾物換算)
リンの量を減らす方法
食事中のリンの量を減らす方法には主に次の3通りがあります。
1. リン含量の高い食材を避ける
- 豆腐、大豆製品
- 酵母
- 卵黄
- 米ぬか、小麦胚芽、全粒穀物
- 種子類(亜麻仁、ゴマなど。種子油はOK)
- 乾物・燻製(しらす、煮干し、鰹節、干しエビなど)
- 乳製品(チーズ、ホエイなど)
リン量の高い食材はなるべく避けるようにしましょう。植物性食品に含まれるリン(フィチン酸)は、そのままでは吸収されにくいことがわかっていますが、調理や発酵などの加工方法によっては吸収されやすくなります。
2. 肉や魚を卵の白身で置き換える
新鮮な肉や魚は犬や猫にとって炎症をもっとも起こしにくい良質なたんぱく質源です。慢性腎臓病の初期(ステージ1)の場合は、それまで食べていたペットフードをやめて、肉魚中心の手作り食に切り替えるだけで、特にリンの量の調節を行わなくても状態が改善することがよくあります。これは本来の犬猫の生態に適正な食事を与えることで、体への負担が軽くなることやペットフードには含まれない生理活性物質を補うといった、さまざまな作用が総合的に働くためと考えられています。
ステージ2以降の場合、または、ステージ1でもリンが上昇してきた場合は、まずはリン含量の少ない卵白で肉や魚を置き換えてみましょう。手作り食の利点を生かしながら、腎臓の負担を減らすことができます。
100 g あたり | カロリー(kcal) | たんぱく質含量(g) | リン含量(mg) |
---|---|---|---|
卵白(ゆで) | 50 | 10.5 | 11 |
鶏肉(皮なし) | 120〜140 | 20〜25 | 150〜220 |
牛肉(赤身) | 150〜250 | 19〜22 | 160〜210 |
豚肉(赤身) | 110〜160 | 20〜22 | 190〜230 |
ラム肉(脂身つき) | 200〜300 | 16〜20 | 120〜200 |
ヤギ・シカ・馬肉 | 100〜110 | 20〜22 | 170〜200 |
白身魚 | 80〜180 | 18〜23 | 160〜240 |
青魚・鮭 | 120〜240 | 18〜22 | 180〜280 |
貝類 | 30〜80 | 6〜8 | 80〜120 |
エビ・カニ・イカ・タコ | 60〜100 | 13〜20 | 100〜300 |
食品中のリンの含量は、季節や部位、産地などによって異なりますが「肉魚100 g あたり200 mg」「卵白100 gあたり10 mg」を目安に考えましょう。
血中リン濃度が…
- 正常範囲内またはやや上昇している:肉魚の1/4〜1/2を卵白で置き換える
- 大幅に上昇している:肉魚の1/2〜全量を卵白で置き換える
卵白はカロリーもたんぱく質含量も低いため、肉・魚を減らした分の2〜3倍の量で置き換える必要があることに注意しましょう。それでもリンの量はかなり抑えることができます。カロリーが足りない場合は、白ごはん、かぼちゃ、さつまいもなどで補います。
どうやって適切なリンの摂取量を知るの?
1〜2週間おきに血液検査で血中リン濃度を測るのがベスト。
血液検査で血中リン濃度を測りながら肉や魚、卵白の給与量を調節します。血中リン濃度が目標値まで下がったら、その量を維持するか、目標範囲内におさまる程度で肉や魚を少しずつ増量していきます。卵白のみを長期間タンパク質源にすることは推奨できません。
卵白は生で大量に与えると消化不良や下痢を起こします。
調理したものを与えましょう。
3. リン結合剤を使う
食事だけで血中リン濃度が低下しない場合は、リン結合剤を食事に混ぜるようにしましょう(製剤によっては食前に飲ませるものもあります)。通常、リン結合剤が必要になるのはステージ3〜4です。
- 水酸化アルミニウム(30〜90 mg/kg/日)
- 炭酸アルミニウム(30〜90 mg/kg/日)
- 活性炭(ネフガードなど。40〜80 mg/kg/日)
- 炭酸ランタン(30 mg/kg/日)
- キチン・キトサン(レンジアレンなど。添付文書に従う)
使用中の治療薬との相互作用を考慮する必要があるため、動物病院で処方してもらうのが安全です。低リン血症を起こさないよう1〜2週間おきに血液検査を行いながら用量を調節しましょう。
リン結合剤の多くは、便秘を起こしやすく、嗜好性が悪いのが特徴です。
キチン・キトサンは、主に甲殻類の殻に由来する天然の食物繊維です。リン結合剤としてはアルミニウム製剤よりも効果が落ちますが、便秘を起こしにくく、食物繊維が腸内細菌の増殖を助けるため、リンだけでなくBUNの低下にも役立ちます。
炭酸カルシウムもリン結合剤として使用されることがありますが、十分な効果を出すためには高用量が必要になる場合があり、高カルシウム血症を起こす可能性があるので単剤での使用には注意が必要です。
カルシウムとビタミンDの給与について
手作り食では、カルシウム/リン比 = 1.0〜1.4の割合で収めるのが理想的です。これは、腎臓病の治療中も変わりません。リンの量を減らす場合は、カルシウムの給与量も一緒に減らしましょう。多くの場合は、カルシウムを最小必要量まで減らす必要があります。
すでにリン濃度が目標値を上回っている場合は、リンが正常値または目標値になるまでカルシウムとビタミンDの投与は中止します。リンが下がったら、再び開始しましょう。サプリメントで与える場合は、リンと結合する炭酸カルシウムを最小必要量から開始するのがよいでしょう。