獣医師による手作り食・自然療法ガイド

炎症を抑える

予防 ステージ1・2・3・4

慢性腎臓病は数年かけて徐々に進行するため、診断された時点ではもうすでに元の原因がわからなくなっている場合がほとんどです。加齢、外傷、感染、免疫疾患、腫瘍、虚血、低酸素血症、毒素、腎毒性のある薬剤、遺伝など、さまざまな原因が考えられますが、これらに共通するのが炎症腎血流量の低下です。

炎症と虚血は、疾患の原因でもあり、憎悪因子でもあります。

慢性腎臓病の負のスパイラル。初期は外側の水色のサイクルをぐるぐると回っているが、ある程度進行すると、元の原因がなくなってもひとりでに病気が進行するようになり、内側の負のスパイラルに突入。この多くの過程で炎症や血流の低下が関与。ネフロン=腎臓の機能単位。

温かい食事で腎臓への血行を促すと同時に、抗炎症効果の高い食材やサプリメントを食事に加えて腎臓を炎症から守り、腎臓病の進行を食い止めましょう。

温かい食事を与える

オメガ3脂肪酸(DHA・EPA)

オメガ3脂肪酸は慢性腎臓病の予防と治療に必ず取り入れたいサプリメントです。

  • 抗炎症作用をもち、炎症促進作用のあるオメガ6脂肪酸を抑制
  • 血液をサラサラにして血行を促し、腎血流量を改善
  • 脂肪代謝を改善。慢性腎臓病の犬猫で上昇していることが多いコレステロールや中性脂肪を低下させる

オメガ3脂肪酸はこれらの機序を介して、腎臓の損傷を防いで腎機能を改善し、慢性腎臓病による死亡率を低下させると考えられています。

オメガ3脂肪酸のうち、DHA(ドコサヘキサエン酸)EPA(イコサペンタエン酸)が有効性が高いことがわかっています。魚油、クリルオイル、イ貝抽出物、藻オイルなどで与えることができます。

投与量
  • 犬:体重 5 kgあたり150 mg(DHAEPAを合わせた量)
  • 猫:1 頭あたり90〜150 mg(DHAEPAを合わせた量)
参考 オメガ3脂肪酸の選び方

基本の抗酸化・抗炎症ビタミン・ミネラル

毎日の食事で与えているビタミンやミネラルも抗酸化や抗炎症に重要な役割を果たしています。摂取量を見直しましょう。

ビタミンC

犬も猫も体内で合成できるビタミンですが、疾患時は必要量が増えるのでサプリメントとして与えることがおすすめです。

ビタミンE

ビタミンEも疾患時に必要量が増えるため、いつもより多めに与える必要があります。

セレン

セレンも重要な抗酸化ミネラルですが、与えすぎにも注意する必要があります。腎臓肉マメ)を与えている場合はサプリメントで与える必要はありません。ペットフードを与えている場合は十分量が含まれているか確認しましょう。

給与量の目安

  猫・小型犬 中型犬 大型犬 回数
ビタミンC 50〜125 mg 125〜250 mg 250〜500 mg 1日2回
ビタミンE 20〜50 IU 50〜100 IU 100〜400 IU 1日1回
セレン 5〜10 µg 10〜20 µg 20〜50 µg 1日1回

慢性腎不全では水分の排泄量が増加するため、水分と一緒に排泄されやすいビタミンB群も多めに与えるのがおすすめです。

カロテノイド

カロテノイドも慢性腎臓病によく使用される抗酸化成分で、そのうち特にベータカロテンやルテインがよく研究されており、最近ではより抗酸化効果が高いとされるアスタキサンチンやゼアキサンチンなどが注目されています。通常の代謝活動や外的要因によって生じる酸化ストレスを抑えることで、腎臓だけではなく全身の炎症の抑制に役立ちます。

ベータカロテンやルテイン、ゼアキサンチンは、ほうれん草やケール、にんじん、さつまいも、かぼちゃなどの緑黄色野菜に多く含まれており、アスタキサンチンは、クリルオイルや鮭に多く含まれています。

抗酸化カクテルレシピ
  • ケールまたはサラダ用タンポポの葉(※)2カップ
  • にんじん 1本
  • パセリ 1/2束
  • ローズマリーの葉 1本分
  • ブルーベリー 1/2カップ(なくてもよい)

材料をミキサーに入れ、少量の水を加えてよく混ぜます。猫は小さじ1から、犬は大さじ1から始めて、好きなだけ食事に加えて与えてください。2〜3日以内に使いきれない分は、冷凍保存しましょう。

※ ほうれん草、モロヘイヤ、クレソン、チコリーの葉などもベータカロテン、ルテイン、ゼアキサンチンを多く含んでいます。

炎症を起こさせない

抗炎症効果のあるサプリメントや食材を取り入れるだけでなく、炎症の原因をなるべく少なくすることも重要です。次の項目をチェックしてみましょう。

ペットフード

防腐剤、増粘剤などが入っていないものを選びましょう。ドライフードは加熱成形中に有害な副産物が生じる場合があり、慢性腎臓病では水分の摂取量を増やすことも大切なので、缶詰や冷凍品、水で戻すフリーズドライ・エアドライタイプのものを選ぶとよいでしょう。

ペットフード成分ガイド

飲み水

浄水器でろ過したものがベストですが、雨水や水道水しか飲まない場合は、飲水量を確保することが優先されます。

重金属汚染

脂肪が多い青魚はオメガ3脂肪酸が豊富ですが、一方で水銀などの重金属による汚染も懸念されます。サバ、サーモン、マグロなどの大きな魚(食物連鎖の上の方にいる魚)は週1回を限度とし、代わりに小さめの魚を使うようにしましょう。

腎毒性のある薬物

抗生物質や鎮痛剤など、一部の治療薬には腎臓に負担になるものがあります。投薬中の場合は、かかりつけの病院で確認しましょう。

ワクチン・予防薬

かかりつけ医に相談し、ワクチンの接種や予防薬の投与は控えるか、生活環境や習慣に合わせて最小限になるようなプランを立ててもらいましょう。

洗剤・クリーナー

床やカーペット、ソファなど、家の中の掃除に使うクリーナーは犬や猫が接触する可能性があります。安全なものを選ぶか、水を使うようにしましょう。

歯石

歯石の中に含まれる細菌は、腎臓病の原因になることがわかっています。毎日の歯磨きで蓄積を予防しましょう。

受動喫煙

現在、ペットに対する受動喫煙の影響の研究が米国や欧州で進められています。ペットの方が人間の子供よりも影響を受けやすい可能性があり、これは、家の中で過ごす時間が長いことと、煙を吸うだけではなく煙が染み付いたカーペットやソファ、被毛を舐めるためと考えられています。

炭水化物の過剰摂取

本来、肉食動物である犬や猫にとって穀類やでんぷん質の多い食材は、体にストレスをかけます。尿毒症や重度の蛋白尿でタンパク質制限が必要になるまでは、なるべく減らして体への負担を軽くしてあげましょう。特に、グルテンレクチンなどの炎症を起こしやすい食材は、極力少なくします。

ペットのメタボについて考えよう
Step 0
モニタリング

食事療法や治療がうまくいっているかどうかを知るために病院と自宅の両方で経過観察を行いましょう。

詳しくみる

Step 1
タンパク質量を維持

最初に減らさなくてはいけないのはタンパク質ではなくてリン。タンパク質量を減らさずに筋肉量をどれだけ長く維持できるかが寿命を決める鍵です。

詳しくみる

Step 2
水分量を増やす

脱水は食欲不振や嘔吐の原因になるだけでなく、腎臓組織にもダメージを与えます。早期のうちから積極的な水分摂取を心がけましょう。

詳しくみる

Step 3
温かい食事

腎臓への血流を促して細胞の寿命を延ばします。

詳しくみる

Step 4
炎症を抑える

慢性腎臓病の大きな原因である炎症から腎臓を守りましょう。

詳しくみる

Step 5
リンの量を制限

食事中のリンの量を制限すると慢性腎臓病の進行を抑制できることがわかっています。

詳しくみる

Step 6
タンパク質を制限

タンパク質の量を減らす正しいタイミングを学びましょう。

詳しくみる

Step 7
食事でできるその他のこと

一頭一頭違う体の状態や検査結果に合わせて必要な対策を取ることで快適に過ごしてもらうことができます。

詳しくみる

サンプルレシピ 腎臓の健康を守るハーブとサプリメント腎臓の健康を守るハーブとサプリメント 服用中の治療薬について 慢性腎臓病のステージ判定慢性腎臓病のステージ判定 高齢期の腎臓ケア