獣医師による手作り食・自然療法ガイド

慢性腎臓病のモニタリング

Googleカレンダーで病院と日記をオンライン共有

食事療法や治療が効果的かつ安全にできているかどうかを評価するには、自宅での観察や病院での定期検査で客観的な判断を行う必要があります。

自宅でできること

愛する犬や猫の健康状態の評価は非常に主観が入りやすく、訓練された科学者であってもとても難しいものです。食欲の増減に一喜一憂したり、尿量がほんの少し増えただけでも受けている治療のすべてに疑問が湧いてきたりすることもあるでしょう。新しいサプリメントを与え始めたらなんとなく調子がよくみえるのもよくあることです。

もちろん、そういった直感や疑問も大切ですが、治療の効果については、主観的な印象だけで判断せず、本当に犬や猫の健康状態の改善につながっているかを考えることが重要です。そのため、私たちは長期の自宅ケアを行なっている飼い主の方には日記を付けることをおすすめしています。

自宅での毎日の様子を記録しておくと、かかりつけ医とのコミュニケーションも効果的になります。例えば「食欲はどうでしたか?」と聞かれた場合、「食べなくて困ったんです」と印象に残っていることだけを報告するよりも(よく聞くと実は1週間のうちそんな日が1日あっただけということがよくあります)、「残さずに食べていた日は○○日間で、先月より○○日減った」「○○は食べるが○○は必ず残す」「雨の日は食欲が半分になる」といった形で報告することができれば、短い診察時間でも変化を的確に伝えることができ、獣医師も全体像を把握しやすくなります。また、獣医師の機嫌を損ねたくない、悪い飼い主だと思われたくないといった理由で、何か問題があってもきちんと伝えられない飼い主さんにとっては、日記を共有することで解決につながることがあります。

もちろん、事細かな記録を行う必要はありません。目標は、その日その日の小さな変化ではなく、週単位や月単位で変化や傾向を追って行くことです。

下に観察項目の一例を示しました。どの項目を中心にモニタリングするかは、愛犬や愛猫の全身状態を一番よく把握しているかかりつけの獣医師に相談して決めてもらいましょう。

観察項目 目的・目標 頻度
体重
  • 毎回、同じ時間帯に計測する
  • 必要な量のカロリーを摂取できているかを評価
  • 急激な減少はなんらかの問題があることを示す
週1回
食事の量
  • 食欲の維持は長生きの秘訣
  • 食事療法中は食事内容も記録
  • 食欲のない(ある)時間帯や天気
毎日
水分摂取量
  • きちんと水を飲ませることで脱水を防ぎ、脱水による食欲不振や嘔吐などの症状を緩和
  • 手作り食は水分が豊富なため、切り替え後に減るのが普通(特に猫。猫は食事から水分を取るのが自然な形であるため、水を飲む量だけではなく食事中の水分を増やすことも意識する。)
毎日
脱水の有無
  • 毎日の水分摂取量が足りているかをチェック
  • 脱水の確認方法はこちらから
毎日
口の中
  • 口臭をチェック(尿毒症では口臭が変わることがある)
  • 歯みがきによって口腔内の衛生状態を保つことは、末期におこる可能性がある尿毒症による口内潰瘍の予防に役立つ(特に猫)
毎日
排尿
  • 尿の量、色、回数など
  • 手作り食は水分が豊富なため、切り替え後に尿量が増えることがある。
  • 尿失禁、トイレ以外での排尿などの異常
  • 夜間の尿の回数
毎日
排便
  • 便の硬さ、回数、付着物の有無など
  • 便秘や軟便、下痢の記録
毎日
生活の質(QOL)
症状
  • 元気・活動度
  • 活動的な時間帯や天気
  • すでになんらかの症状がある場合は、その変化を記録
  • 特にない場合は、いつもと違う様子がないか観察
  • 1 週間のうち普通に過ごせた日と過ごせなかった日の日数を記録
  • 寒がる・暑がるなどの傾向
  • 夢を見る(寝ている間に鳴いたり手足を動かす)回数
  • 分泌物の変化
毎日〜週1回

は漢方・鍼灸専門医の診療に役立つ情報。普通の動物病院に通院している場合は必要ありません。

病院での定期検査

慢性腎臓病の治療には病院での定期的な検査が欠かせません。慢性腎臓病は腎臓以外のさまざまな部位にも影響を及ぼす可能性がある複雑な症候群です。高齢で発症することが多いため、他の病気が併発していることも多いでしょう。腎臓の機能だけでなく、腎臓以外の検査も定期的に行なって全身の状況を把握することで、新たな問題が表面化する前に早めに対策を取ることもできます。

通常、食事の切り替え時や新しい治療を始めた際には1〜2週間おきの検査が必要ですが、状態が安定化したら数ヶ月おきで大丈夫になります。

検査は、朝食前の朝一番に行うのが理想的ですが(絶水は行わないこと)、絶食が危険な状態の場合は、かかりつけ医の指示に従いましょう。

一般的な検査の頻度
  • 食事の切り替え期・治療開始時:1〜2週間おき
  • 安定化したら:

ステージ1:6〜12ヶ月おき
ステージ2:3〜6ヶ月おき
ステージ3:2〜4ヶ月おき
ステージ4:必要に応じて

検査の頻度や項目は、必要に応じて、または、かかりつけ医と相談して決めましょう。

身体検査

項目 目的・目標
体重
BCS・MCS
 
  • 体重だけでなく、脂肪や筋肉のつき具合を判断してもらう
  • タンパク質欠乏症、食事量の過不足の指標
  • 判定方法を教えてもらい、自宅で実施してもよい
血圧
  • 慢性腎臓病では高血圧が起こる場合がある
その他
  • 体温
  • 心拍数・呼吸数・心音・肺音
  • 脱水、毛づや、姿勢、口腔内の様子、貧血の有無など
  • 腎臓の触診
  • その他、それぞれの状態に合わせて

血液検査

項目 目的・目標
赤血球数PCV・ヘモグロビン
  • 慢性腎臓病で起こりやすい貧血の有無を確認
クレアチニン
BUN
BUNクレアチニン
  • 食事中のタンパク質量や筋肉量を評価
SDMA
  • 早期の慢性腎臓病のモニタリング
  • 食事内容や筋量によるクレアチニンの過小評価または過大評価を補正
総蛋白質(TP)
  • 脱水の有無を評価
  • 栄養状態の評価
アルブミン(ALB)
  • たんぱく質欠乏症をモニタリング
  • グロブリンとセットで検査することがある
リン(P)
 
カルシウム(Ca)
電解質(Na・K・Cl)
  • 慢性腎臓病では電解質バランスが崩れやすい
  • 特にカリウムに注意
血液ガス分析
  • ステージ3〜4で起こりやすい代謝性アシドーシスをモニタリング

尿検査

項目 目的・目標
尿試験紙(ディップスティック)
  • 尿蛋白、pHなど一般的なスクリーニング
尿比重
  • 尿の濃縮能を評価
尿蛋白:クレアチニン
  • 蛋白尿が認められる場合、その重症度を評価

その他

そのほかにも、現在注目されている新しい検査方法や将来的に慢性腎臓病のモニタリングに役立つと考えられている検査項目があります。費用や簡便性などの点から一般病院で行われることはありませんが、大学病院などで研究目的で測定されることがあります。

項目 目的
尿アルブミン
  • 尿試験紙で検出されるよりも低い濃度の尿蛋白を検出
  • 高血圧、糖尿病、好発品種における腎泌尿器疾患の早期発見に利用されることがある
  • 腎機能とは関係なく手作り食への切り替え時に若干上昇することがあるので注意
マグネシウム
  • 慢性腎臓病では高マグネシウム血症が起こりやすい
  • 手作り食はマグネシウムの濃度がもともと高くないため、問題になることはあまりない
  • カリウム濃度やアシドーシスの有無など、複数の因子と関連しているため注意深い解釈が必要
FGF-23
  • 高リン血症・上皮小体機能亢進症に関わるホルモン
  • 早期のうちに上昇
  • 現在、早期発見または予後予測に関する研究が行われている
炎症・線維化マーカー
  • IL-18・VEGF・TGF-β・エンドセリンなど
Step 0
モニタリング

食事療法や治療がうまくいっているかどうかを知るために病院と自宅の両方で経過観察を行いましょう。

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Step 1
タンパク質量を維持

最初に減らさなくてはいけないのはタンパク質ではなくてリン。タンパク質量を減らさずに筋肉量をどれだけ長く維持できるかが寿命を決める鍵です。

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Step 2
水分量を増やす

脱水は食欲不振や嘔吐の原因になるだけでなく、腎臓組織にもダメージを与えます。早期のうちから積極的な水分摂取を心がけましょう。

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Step 3
温かい食事

腎臓への血流を促して細胞の寿命を延ばします。

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Step 4
炎症を抑える

慢性腎臓病の大きな原因である炎症から腎臓を守りましょう。

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Step 5
リンの量を制限

食事中のリンの量を制限すると慢性腎臓病の進行を抑制できることがわかっています。

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Step 6
タンパク質を制限

タンパク質の量を減らす正しいタイミングを学びましょう。

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Step 7
食事でできるその他のこと

一頭一頭違う体の状態や検査結果に合わせて必要な対策を取ることで快適に過ごしてもらうことができます。

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