予防 ステージ1・2・3・4 猫 犬
腎臓病になったらタンパク質を制限するというのは、犬猫での研究が進んでおらず、雑食動物である人やラットの研究結果を参考にしていた時代の話です。現在では、あまり早いうちにタンパク質制限を行うと、体重や筋肉量の維持ができず、血液や免疫系の細胞、体の正常な機能に必要なホルモンや生理活性物質を十分に作れなくなるため、逆に寿命が短くなることがわかっています。
特に完全肉食の猫ちゃんは、タンパク質要求量が高いので気を付けましょう。
タンパク質制限を行うのは、ステージ4(まれにステージ3)で尿毒症の症状が発現した場合や重度の蛋白尿のコントロールが必要な場合です。
炎症を起こさない高品質のタンパク質食品を与える
現在、ペットフードを与えている場合は、まずは肉・魚中心の手作り食に切り替えることをおすすめします。”本物”の食べ物は、犬や猫が喜んで食べてくれるだけではなく、短期的にも長期的にも慢性腎臓病の治療に役立ちます。
- 新鮮な肉や魚は犬猫本来の食性に適しており(生物価が高い)、慢性腎臓病の大きな原因・促進因子の1つである炎症を起こしにくいため、残った腎臓組織にダメージを与えない。
- 新鮮な肉や魚はビタミンやミネラルなどの栄養素や生理活性物質を壊すことなくそのまま与えることができる。ペットフードは高熱で行う加工処理中に栄養素や生理活性物質が壊れてしまう。これを補うため、ビタミン類やミネラル類をあと付けしているが、食物に本来たくさん含まれているはずの他の生理活性物質を補うことはできない。
- 新鮮な野菜や果物を利用して抗炎症成分や抗酸化成分をたっぷり補給することができる。
- ペットフードには穀物や低品質で由来不明の肉や魚が大量に使用されている(コストを下げるため)。
- ペットフードには炎症を起こす成分がたくさん含まれている(グルテン、レクチン、防腐剤、増粘剤、甘味料、酸化脂質など)。
- ペットフードの加熱加工過程で有害な副産物が生じる。
- 新鮮な肉や魚の半分は水分。水分摂取量が増えることで、体や腎臓の水和状態を保つことができる。
- “本物”の食材を使った手作り食で食欲を維持することで、体力や筋力を維持し、悪液質を起こしにくくする。
必要なタンパク質の量
慢性腎臓病の犬猫に推奨されるタンパク質摂取量は最小必要量以上で、尿毒症を起こさない最大の量です。
どのステージでもBUN値を60 mg/dL未満に抑えることが目標です。
すでに手作り食を実践している場合は、必要な量のタンパク質をきちんと与えているかもう一度確認しましょう。当サイトの栄養自動計算機では、体重に合わせて必要な最低限の量のタンパク質量を計算することができます。
ステージ1・予防の場合
通常の手作り食と同じ内容で大丈夫です。すでに手作り食を与えている場合は今までと同じタンパク質量を維持するか、自動計算機で表示される必要最低量の4〜5倍まで少しずつ増やしていくことができます。これと同時に、飲水量を増やす・温かい食事を与える・炎症を抑えるといった対策を行いましょう。タンパク質量を急に増やすとBUNやクレアチニンが一時的に上昇することがありますが、これは腎機能の低下ではなく、尿素の生成量とクレアチンの摂取量が増えるためです。
ステージ2以降の場合
ステージ1の対策に加えて、リンの量を減らす必要があります。
リンを制限する サンプルレシピ尿毒症や重度の蛋白尿を起こしている場合
タンパク質の量の制限が必要になります。それでも必要最低限のタンパク質は必ず与えるようにしましょう。尿毒症の動物は筋肉や臓器などの体組織の分解が亢進した状態になるため、タンパク質とカロリーをきちんと与えないと、体組織がどんどん消耗されていきます。
タンパク質制限が必要になるタイミング- ステージ3〜4の腎臓病と診断されたばかりで手作り食の経験ゼロ(→ ペットフード療法食で状態を安定化させてから切り替えを!)
- 栄養バランスを考えるのが面倒くさい(→ こちらで自動計算可)
- 忙しくて時間がない(→ 数週間かけてバランスを整える)
このような場合は、自分で手作り食を作るよりもペットフード療法食から始めた方が安全です。どうしても手作り食にしたい場合は専門家にレシピを設計してもらうか、ペットフード療法食と治療薬で状態を安定化させてから切り替えを行いましょう。ペットフード療法食に腎臓によい食材やハーブ、サプリメント、漢方薬などを加えるのもおすすめです。
好き嫌いが激しい猫ちゃんの場合、切り替えは根気勝負です。これは、猫の味覚は離乳期にほぼ決まってしまうことと、キャットフードの嗜好成分がヤミツキになってやめられないためです。人間でもスナック菓子やインスタント食品ばかり食べている人に精進料理を食べさせても味気ないだけでありがたみはわかってもらえませんよね。
慢性腎臓病では必要なカロリーと水分を毎日きちんととってもらうことも大切ですから、急な食事の切り替えで食事嫌いにならないよう注意が必要です。好きなフードにお肉やお魚を一口ずつ紛れ込ませるところから始めましょう。
獣医師より