獣医師による手作り食・自然療法ガイド

タンパク質制限が必要になるタイミング

ステージ3・4

慢性腎臓病の食事療法でタンパク質量の制限が必要になるのは、主に次の場合です。

  1. BUNが継続して60〜80 mg/dLを超えるようになった場合
  2. 尿毒症になった場合
  3. 尿蛋白クレアチニン比(UP/C)が3を超えるようになった場合

尿毒症とは、腎臓の機能低下が進行したために、尿中に排泄されるべき毒素が排泄されずに血中に蓄積し、全身の臓器に作用してさまざまな症状を引き起こすようになった状態をいいます。血液検査でBUNの濃度が60〜80 mg/dLを超えるようになると発症しやすくなります。

腎臓病になったからといって、必ずしも尿毒症になるとは限りませんが、いつもと違う様子に気づいたら注意しましょう。尿毒症が起こりやすいのはステージ4ですが、ステージ3でも認められることがあります。

尿蛋白クレアチニン比(UP/C)が3以上の重度の蛋白尿でも、タンパク質の制限が勧められますが、慢性化した腎臓病では末期にならないとUP/Cがここまで高くなることはあまりありません。逆に、早期のうちに UP/C が2を超えるような場合は、他の疾患(糸球体疾患など)の存在が考えられるため、検査や診断をやり直す必要があります。

尿毒症の症状
  • 嘔吐・吐気
  • 食欲不振・元気消失
  • 口臭
  • 口腔潰瘍・舌壊死(特に猫)
  • 下痢・下血・血便
  • 震え・ふらつき
  • 尿失禁
  • 体重・筋肉量の著しい低下
  • 異常行動
  • 努力呼吸など

 尿毒症の診断は、主に臨床症状とBUN値で行います。BUN尿素尿素窒素)そのものは、毒性が低い物質ですが、尿毒症を引き起こすさまざまな種類の毒素の増加に伴って数値が上昇するため、代用として検査に使われています。

 BUN
正常範囲 9〜30 mg/dL 17〜40 mg/dL
コントロール目標値 60 mg/dL未満
尿毒症を起こしやすい 65〜80 mg/dL以上

BUN値が正常範囲を上回っていても尿毒症が起こるとは限りません。尿毒症を起こしやすいのは65〜80 mg/dLを超えた場合です。したがって、この範囲を超えたらタンパク質の摂取量の制限を行い、尿毒症の予防を行いましょう。

BUNを60 mg/dL未満に抑えることが食事療法の目標!
注意
BUNが60 mg/dL未満のうちにタンパク質の制限を行うと、タンパク質欠乏症を起こすことがあります。

タンパク質摂取量を減らす

尿毒症の原因となる物質は100種類以上あると考えられています。すべてが食事中のタンパク質に由来するものではありませんが、タンパク質食品の量を減らすことで尿毒症の症状を軽減することができます。ただし、減らすといっても、ゼロにしてはいけません。血液細胞や免疫細胞、臓器の構造や筋肉量の維持に必要な最小限のたんぱく質量は必ず守るようにします。

当サイトの自動計算機で体重を入力すると、最低限必要なタンパク質量と、それを与えるのに必要な肉や魚の量を知ることができます。

肉や魚を減らした分のカロリーは、炭水化物や脂質で補いましょう。長生きしてもらうためには、1 日分のカロリーを毎日きちんと与え、体力を維持してもらうことも重要です。

炭水化物の例
  • 白米
  • さつまいも
  • 長芋・山芋
  • キビ
  • キャッサバでん粉
  • タピオカ粉
脂質の例
  • 肉の脂身
  • 脂身の豊富な肉
  • ココナッツ(MCT)オイル
  • 植物油など

上に挙げた炭水化物食品は、レクチングルテンを全く含まないか、ごく少量しか含まないため炎症を起こしにくく、リン含量が低い食材です。すべて加熱調理する必要があります。そのほか、カロリーは低めになりますが、りんご、マンゴー、ベリー類、バナナなどの果物やブロッコリー、にんじん、かぶなどの根菜も利用することができます。

100 kcal あたり タピオカ粉 キャッサバ粉 白米 さつまいも 長芋 きび
リン(mg) 2 2 20 35 42 44
タンパク質(g) 0 0 1.5 0.9 3.4 3.1
100 kcal あたり 山芋 あわ・ひえ 玄米 ソルガム 里芋
リン(mg) 53 76 79 80 95
タンパク質(g) 2.4 3.0〜3.5 1.7 2.6 2.6

 

動物性脂肪は、もともと肉食であった犬や猫の食性にあったカロリー源です。ただし、急に増やすと嘔吐や下痢、膵炎、胆嚢炎などを起こすことがあるため、少量から初めて少しずつ増やしていきます。肉の脂身は脂溶性ビタミンが豊富ですが、酸化しやすく、調理すると膵炎を起こしやすくするので、生のまま与える必要があります。MCT(中鎖脂肪酸)オイルは消化分解の必要がなく、細胞がエネルギー源としてそのまま使うことができますが、やはり急にたくさんの量をあげると消化器症状を起こすことがあります。少しずつ増やしていくようにしましょう。

そのほか、今までの経験を元にそれぞれのワンちゃん・猫ちゃんに合う食材を取り入れてあげましょう。

うちのコに合うオイルはどれ?(動物性油脂編) うちのコに合うオイルはどれ?(植物油編) サンプルレシピ

モニタリング(経過観察)

1. BUN

たんぱく質制限食を開始したら、1〜2週間おきに血液検査でBUN値を確認します。BUNが目標の60 mg/dL未満まで下がり、安定したら、また少しずつ肉や魚を増やしていきます。ステージ3〜4になると、タンパク質の異化(筋肉や臓器などの生体タンパク質の分解が進むこと)が進行しやすく、必要最小量のタンパク質しか与えない状態が長く続くと、体重も免疫などの体の機能もどんどん落ちていきます。最小必要量以上で尿毒症を起こさない最大のタンパク質量を見つけることが目標です。

最小必要量以上でBUNを60〜80 mg/dL未満に抑えられる蛋白質量がベスト!

2. タンパク質欠乏症

タンパク質食品を減らしすぎるとタンパク質欠乏症が起こります。タンパク質は、筋肉や皮膚、内臓などの構造を作っているほか、ホルモン、血液細胞、免疫細胞、消化酵素、抗体、シグナル伝達物質などの材料として使われ、生命の維持に欠かせない物質です。

体重筋肉量(マッスル・コンディション・スコア)血中アルブミン濃度血中クレアチニン濃度等を定期的に測定して、タンパク質欠乏症が起こっていないか確認しましょう。

善玉菌を増やす

腸内の善玉菌を増やすことも尿毒症の予防や治療に役立ちます。腸内細菌が窒素や窒素化合物を取り込むことによって、BUN値が下がり、タンパク質給与量を増やしても尿毒症を起こしにくくなります。

犬または猫用の乳酸菌製剤を使い、善玉菌のエサになるプレバイオティクス繊維も与えると効果的です。リン結合剤を使用している場合は、キチン・キトサン系の製品を加えるとプレバイオティクスとしても働きます。

食事で与えられるプレバイオティクス繊維
  • アスパラガス
  • アーティチョーク
  • ごぼう
  • チコリーの根
  • タンポポの葉など
Step 0
モニタリング

食事療法や治療がうまくいっているかどうかを知るために病院と自宅の両方で経過観察を行いましょう。

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Step 1
タンパク質量を維持

最初に減らさなくてはいけないのはタンパク質ではなくてリン。タンパク質量を減らさずに筋肉量をどれだけ長く維持できるかが寿命を決める鍵です。

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Step 2
水分量を増やす

脱水は食欲不振や嘔吐の原因になるだけでなく、腎臓組織にもダメージを与えます。早期のうちから積極的な水分摂取を心がけましょう。

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Step 3
温かい食事

腎臓への血流を促して細胞の寿命を延ばします。

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Step 4
炎症を抑える

慢性腎臓病の大きな原因である炎症から腎臓を守りましょう。

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Step 5
リンの量を制限

食事中のリンの量を制限すると慢性腎臓病の進行を抑制できることがわかっています。

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Step 6
タンパク質を制限

タンパク質の量を減らす正しいタイミングを学びましょう。

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Step 7
食事でできるその他のこと

一頭一頭違う体の状態や検査結果に合わせて必要な対策を取ることで快適に過ごしてもらうことができます。

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