猫の甲状腺機能亢進症とは、中〜高齢の猫においてよく認められる甲状腺の病気で、近年増加する傾向にあります。甲状腺が大きくなることで甲状腺が作るホルモン(T3とT4)の量が異常に増えます。甲状腺ホルモンは、熱産生、代謝、タンパク質合成などのさまざまな生体機能の調節を行っているため、多様な症状が現れます。
漢方医学から見た病期分類
現代獣医学では、遺伝子変異、猫砂などの環境要因、キャットフード中の大豆やヨウ素、内分泌撹乱物質など、さまざまな原因が疑われていますが、明確な発症の機序は不明です。漢方医学では、甲状腺機能亢進症は4つの段階を経て進行すると考え、それぞれの段階に合わせた食事療法や漢方療法を行っています。
1. 未病の段階
胃腸の弱りや炭水化物が多い不適切な食事により体内に不要物(脂肪や炎症性物質)が蓄積。食後の嘔吐、腹部膨満、体重増加、食欲の増加または減少、尿量の増加などの変化が現れますが、この段階ではまだ甲状腺も腫れておらず、甲状腺ホルモン値も正常なため、通常の検査では気づかれることはほとんどありません。
脈診や舌診では、すでにこの段階で病気のサインが現れはじめます。
- 脈:細・滑
- 舌:胖大・歯痕・湿潤・豊富な唾液
敏感な飼い主さんは、雨の日に調子が悪い(または良すぎる)など、天気による体調の変化に気づくかもしれません。
2. 発症期
体内に蓄積した不要物が全身の循環を妨げ、内熱(炎症症状・代謝と酸化の異常亢進)を生じます。食欲が増し、活発になるため、逆に健康になったと錯覚することがあります。しかし、嘔吐が慢性的になる、心拍数が上昇する、暑がる(物陰などの涼しいところに隠れる)、水をよく飲むなど、さまざまな異常も明らかになってくる頃です。
- 脈:滑・弦・速
- 舌:胖大・歯痕・湿潤・豊富な唾液・紅色・ラベンダー色
3. 増悪期
内熱が長期間持続することよって体を冷やしてくれる血液やリンパ液などの体液が蒸発。活発な代謝に対し体の抗酸化機能(陰)が追いつかず、さらに体に熱がこもるという悪循環に陥ります。
- 脈:滑・弦・速・洪
- 舌:紅色・乾燥・小さくなる
4. 末期
体液の枯渇により、生命の維持に必要なエネルギーや体熱も作り出すことができなくなります。上記の熱の症状に加えて、それに相反する震え、涼しいところを避けるといった「冷え」の症状が生じるようになり、著しい削痩や体力の消耗が見られるようになります。尿量が再び増加することがあります。
- 脈:弦・速・洪→微
- 舌:紅色・乾燥・小→蒼白・小
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