肝胆系疾患における食事療法の役割
食事療法は肝臓病や胆嚢疾患の原因を治療するものではありません。今までペットフードを与えていた場合は、化学物質や有害な副産物を含まない新鮮な手作り食に切り替えると、肝酵素値が低下し、治癒したかのように見えることがあります。しかし、原因の除去または治療を行わない限り、必ず再発します(原因がペットフードそのものだった場合は別ですが…)。
その一方で、肝臓は再性能が非常に高い臓器。食事療法の一番大きな役割は、必要な栄養素をきちんと与えて肝臓の再生をサポートすることです。
かかりつけの病院で原因をしっかりと見極め、適切な対策を行なったら、食事で肝臓の治癒と再生を促していきましょう。
また、肝臓はタンパク質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラルすべての代謝に関わっており、食物から得たこれらの栄養素を別のものに作り変えて全身に送り出したり、必要時に備えて貯蔵を行なったりしています。そのため、肝障害が進行するとともにこれらの物質の体内での動きも大きく変化し、さまざまな症状が現れるようになります。特にタンパク質については合成・備蓄から消費へとシフトし、筋肉などの生体タンパク質は分解されやすくなり、アルブミンや血液凝固因子などの肝臓で作られるタンパク質の量が減っていきます。定期的な検査を行いながら、食事内容を補正していきましょう。
おそらく食欲がまったくないでしょう。無理に食べさせようとはせずに、病院で点滴を行い、状態に合わせて水分、ビタミン、糖、電解質などの補給をしてもらいましょう。食欲が回復してきたら、肝臓の負担になりにくいシンプルな食材を使った手作りレスキュー食から始めます。
肝レスキュー食症状が落ち着いてきたら、このページで紹介する食事療法に切り替えてください。
食欲廃絶状態が続く場合は、病院で鼻チューブや胃チューブを設置する必要があります。特に猫の肝リピドーシスでは、診断初期のカロリー量の維持が予後を大きく左右します。
入院を必要としない初期で軽度の肝臓・胆嚢の障害で、特に症状がない場合は、本ガイドの食事療法を取り入れていきましょう。
食欲のムラ、嘔吐、元気がないなどの症状が現れている場合は、まずは肝臓の負担になりにくいシンプルな食材を使ったレスキュー療法食から始め、その後、このページで紹介する食事療法に切り替えてください。
肝レスキュー食肝酵素が上昇したからといって肝臓や胆嚢の病気とは限りません。
膵炎、腸疾患、感染症、腫瘍、甲状腺機能の異常、副腎皮質機能亢進症、糖尿病、心疾患、重度の歯周病などさまざまな病気でも肝酵素値が上がります。まずは本当に肝臓が原因かどうか、かかりつけ医でしっかりと検査を行いましょう。別の原因が見つかった場合はその治療を行うと肝酵素値が低下するため、このガイドを使う必要はありません。
食事療法の基本
肝疾患では、肝臓に蓄えられているグリコーゲン(エネルギー源)の量が減るため、十分な量のカロリーを摂取することが重要になります。カロリー量が維持できないと、体のたんぱく質がエネルギー源として使われるようになり、その副産物としてアンモニアなどの有害物質が生成しやすくなります。
健康な時と同じカロリー量を目指しましょう。闘病中にやせてしまった場合は、現在の体重ではなく、理想体重をもとに必要なカロリー量を決めます。
たんぱく質は、肝組織の修復と再生に欠かせない成分です。肝性脳症(高アンモニア血症)を起こしていない限りは極端に制限する必要はありません。炭水化物の割合を通常より多めにすることで、たんぱく質をエネルギーではなく再生に回すことができます。脂質は、初期や急性期には控えるようにし、状態が安定化したら良質な脂質を少しずつ増やしていきます。
肝胆疾患の食事バランス少量ずつ1日4〜6回に分けて与えると肝臓の負担を減らすことができます。食欲がない場合は、この方法で1日のカロリー量を満たすことができ、嘔吐や下痢、軟便などの消化器症状も和らげることができます。
食物にはさまざまな菌が付着しており、通常は、胃酸、胆汁、腸管や肝臓の免疫細胞によって殺菌・排除されていますが、肝臓病が進行するとこの機能が弱まり、食中毒を起こしやすくなります。生食を与えている場合は加熱調理食に切り替えましょう。栄養分を壊しすぎないよう、軽くゆでるか蒸したり、少量の水で炒める「水炒め」がおすすめです。