手術で治療できる病気や腫瘍、自己免疫性疾患を除くと、現代医療による肝臓や胆嚢の病気の治療方法は非常に限られています。でも、漢方薬やハーブによる治療がもっとも研究されているのもこの分野。ここで紹介する漢方薬やハーブは、抗生物質やウルソ、利尿剤、ステロイドなどの医薬品との併用が可能です。
肝臓や胆嚢の疾患では、「急性/重度の疾患」と「慢性/軽度/初期の疾患」に分けて考えると、ハーブや漢方薬、サプリメントを選びやすいでしょう。急性疾患または重度疾患では、炎症が激しく、痛みや発熱のため食欲も元気もないのが普通です。嘔吐や下痢などの消化器症状、黄疸、腹水などの症状もあるかもしれません。肝酵素値は末期の場合を除き、大きく上昇しているでしょう。この時期には、原因の除去または治療を行うと同時に、とにかく炎症を抑えることが第一です。私たちの一番のおすすめは漢方薬です。
急性期がすぎて症状が落ち着き、食欲が回復してきたら、残った炎症を積極的に取り除いて再燃を予防すると同時に、肝臓・胆嚢の血流を回復して肝細胞の再生をサポートし、組織の線維化(肝硬変)を防ぐことが目標です。初期または軽度の疾患で症状があまりはっきりしないけれども、悪化を防ぎたい場合もこちらに当てはまります。
急性期または重度の疾患のケア
病院で原因の治療を行うとともに症状に応じて点滴などの対症療法を行います。合わせて漢方薬の投与を行いましょう。食欲がない場合は、病院で漢方薬を座薬として直腸内に注入してもらうとよいでしょう。
小柴胡湯(しょうさいことう)
原因を問わず肝酵素の大きな上昇を示す肝臓や胆嚢の疾患に広く使用できる抗炎症効果の高い漢方薬です。一酸化窒素合成酵素を阻害することで炎症を抑制し、肝細胞を保護すると同時に、血管や胆管のうっ滞を緩和します。自己免疫性や感染性の肝炎にも使用することができます。- 急性肝障害(中毒・感染性・反応性・原発性など原因を問わない)
- 胆管肝炎・胆嚢炎・胆管炎・胆管肝炎
- 肝性の黄疸・腹水
- 胆嚢の粘液嚢腫
- 自己免疫性肝炎
- 肝臓のリンパ腫(化学療法を行わない場合)
- もともと痩せ気味で体力がかなり消耗している犬猫に使用する場合は、最小投与量から始めましょう。
- リンパ腫で抗がん剤治療を受けている場合は、初期のプレドニゾロン投与中だけ小柴胡湯の使用を控えましょう。その後は抗がん剤と併用できます。
用量・用法
- 経口投与:体重1 kgあたり60〜75 mgを1日2回。量は2〜3倍まで増やしていくことができる。
- 浣腸(肝臓に直接届ける):経口量の2〜3倍をぬるめのお湯5〜15 mLに溶かし、肛門から横行結腸までチューブを入れ、ゆっくりと注入し、そのまま5〜10分おく。改善が見られるまで1日3〜4回繰り返す(通常は、2〜3日必要)。グリセリン・アルコールチンキなどの液剤は使用しないこと。
肝酵素値の上昇が止まらない場合
- 原因の除去または治療方法を見直す。
- 抗炎症作用の高い漢方薬ではなく、血流を促す慢性期の漢方薬を試してみる。
そのほかの治療選択肢
- N-アセチルシステイン(NAC):肝臓のグルタチオン量をあげることで抗酸化・抗炎症効果を示す。特に急性の肝障害、中毒、猫の肝リピドーシスで効果あり。経口投与では消化器症状を起こすことが多いため、病院で静脈内投与してもらう。
- 四妙散(しみょうさん):柴胡ではなく黄柏・蒼朮ベースの漢方薬で小柴胡湯と同じく高い抗炎症作用をもつ。適応症もほぼ同じだが、肝障害が現れる前から関節炎、膀胱炎、外耳炎、膵炎などの炎症性疾患が再発しやすく、メタボリックシンドローム(肥満、インスリン抵抗性、糖尿病、副腎皮質機能亢進症)などの湿熱の傾向があった動物、猫の肝リピドーシス、細菌性肝炎に向いている。ステロイドの副作用も緩和。小柴胡湯と併用可能。用量用法は同じ。
- 膈下逐瘀湯(かくかおちくとう):肝臓の腺癌・リンパ腫で小柴胡湯と併用(抗がん剤治療を行わないと選択した場合)。
慢性期または軽度の疾患のケア
慢性期の治療目標は、肝臓や胆嚢への血流を回復し、細胞の再生に必要な酸素や栄養素を届けることで線維化を防ぐことです。
慢性期の漢方薬
慢性期におすすめの漢方薬は、急性期の漢方薬ほど抗炎症効果は高くありませんが、長期間安全に使用ができ、炎症でダメージを受けた肝臓を修復・再生するのに役立ちます。
漢方薬 | 目的・作用 | 使用例 |
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逍遥散(丸) しょうようさん |
抗炎症作用★★★ 肝保護・肝臓への血流を改善 ALT/ASTを下げる 線維化抑制 アルブミン生成促進 |
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当帰芍薬散 とうきしゃくやくさん |
抗炎症作用★★ 肝保護・肝臓への血流を改善 利尿(腹水緩和) 線維化抑制 ALT/ASTを下げる |
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胃苓湯 いれいとう |
抗炎症作用★ 食欲増進 線維化抑制 肝臓への血流を改善 ALT/ASTを下げる 利尿(腹水緩和) |
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その他 |
- 肝酵素の上昇(炎症)や症状が落ち着いてきたら慢性期の漢方薬に切り替えることができます。
- 最初の数週間(3〜6週間)は、急性期の漢方薬と併用します。朝は慢性期の漢方薬、夜は急性期の漢方薬を与えましょう。
- 肝酵素が再び上昇した場合は、まだ炎症が完全にコントロールできていない証拠です。抗炎症作用のより強い漢方薬(★印に注目)に切り替えるか、急性期の漢方薬に戻しましょう。
- 特に問題がなければ、慢性期の漢方薬に完全に切り替えます。
- 漢方薬以外のハーブやサプリメントも併用できます。
ハーブ・サプリメント
漢方薬と合わせて肝臓の健康を守るサプリメントを取り入れていきましょう。
肝臓の健康を守るハーブとサプリメント腹水が生じたら肝性脳症・高アンモニア血症になったら
猫の肝リピドーシス(脂肪肝)
上述の急性期または慢性期の漢方薬に加えて、次のサプリメントの併用がおすすめです。