副腎は、腎臓の近くに位置し、生命活動や臓器の機能に必要なさまざまなホルモンや生理活性物質を分泌しています。副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)は、この副腎の働きが盛んになり、複数のホルモンが過剰に分泌されるようになる病気です。その中でも、主にストレスホルモンのコルチゾールの作用により特徴的な症状が現れます。
クッシング症候群は犬に多く、猫ではまれだと考えられていましたが、近年になって猫でも診断されることが増えています。
- 肥満・体重増加
- 水を飲む量が増えた
- 尿が薄い・増えた
- 食欲が増えた
- 毛づやがない
- 毛が薄くなってきた
- 休息時も呼吸が荒い(パンティング)
- 元気がない・疲れやすい
- 筋肉の弱り・筋量の低下
- おなかがぽっこりしてきた
- 免疫力の低下により膀胱炎や皮膚感染を繰り返す
すべての症状が現れるわけではありませんが、当てはまるものが複数あったら注意しましょう。中高齢期に多く、数ヶ月の単位でゆっくりと進行するため、老化と間違われることもよくあります。
診断は、症状、血液検査、尿検査、内分泌検査(ACTH刺激試験・低用量デキサメタゾン抑制試験など)、画像検査によって行います。
種類と原因
クッシング症候群には複数のタイプがあり、原因によって治療方法が異なります。
毎日の診療で出会うことが圧倒的に多いのがこのタイプ。肥満気味、ALP・血糖値・コレステロール・コルチゾール・赤血球が高め、尿比重低めで、クッシング症候群が疑われるのに、内分泌検査を行っても正常範囲内というのがよくあるパターン。症状も、パンティング、暑がり、尿が薄い、疲れやすいなどなんとなく怪しい症状はあるけど、脱毛や皮膚の菲薄化といった決定的な外見の変化がまだないのが特徴です。超音波検査でも副腎が大きくなっていることもあれば、変化がないこともあります。そのため、はっきりと診断ができずに見過ごされてしまうことがよくあります。
このタイプは、まずは食事療法を試してみる価値あり。クッシング症候群と診断されるまで待たずに、今すぐ始めましょう。悪性腫瘍が原因でなければ、顕在化する前に症状を逆戻りさせることが可能なため、麻酔が必要な精密検査や試験的な薬物投与も避けることができます。
副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)の食事療法副腎にシグナルを送る脳下垂体の過形成や良性腫瘍によって生じます。悪性腫瘍はまれ。犬のクッシング症候群の85〜90%近くがこのタイプと考えられていますが、私たちの経験では、真の下垂体腫瘍は少なく、多くのケースでは、インスリン抵抗性による視床下部・下垂体・副腎軸の機能障害が背景にあります。
一般の病院では、副腎皮質ホルモンの体内合成を抑制するトリロスタンやケトコナゾール、副腎皮質を破壊するミトタンなどの投与が行われます。副腎皮質ホルモンは生きていくのに必要ですから、必要な分だけを合成できるよう投与量を調節します。画像検査で明らかな腫瘍が確認された場合は、外科手術も検討します。
統合療法では、食事療法を中心に、ハーブや漢方薬で根本にあるインスリン抵抗性を正常化していきます。多くの場合は、治療薬を併用する必要はなく、使用してもごく低用量です。すでに治療薬を投与している場合は、食事療法やハーブ療法を併用しながら、徐々に治療薬の量を減らしていきます。
副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)の食事療法副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)のハーブ療法副腎皮質ホルモン剤の長期投与や間違った断薬方法によって生じます。皮膚病や自己免疫性疾患で多用されるプレドニゾロンなどのステロイド薬が原因です。原因の薬を徐々に減らし、他の治療薬に切り替えていくことで治癒します。
他の原因と比べると少数ですが、副腎皮質そのものに良性または悪性の腫瘍が発生することがあります。この場合も、インスリン抵抗性により過剰産生される副腎皮質刺激ホルモンの刺激によって副腎皮質が腫大化していることがあるため、インスリン抵抗性を緩和する食事療法とハーブ療法を行います。ただし、原発性の悪性腫瘍が確認された場合は、副腎皮質ホルモン合成阻害薬や手術が必要になります。
副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)の食事療法副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)のハーブ療法本サイトの「副腎皮質機能亢進症」ガイドは、他に記載がない限り、臨床経験と次の資料に基づいて書かれています。
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