獣医師による手作り食・自然療法ガイド

甲状腺機能低下症の食事療法・サプリメント

甲状腺機能低下症の治療中に気をつけなければいけないことは、食事の内容よりもタイミングでしょう。甲状腺ホルモン薬(チラーヂン・レボチロキシンなどのT4製剤)の吸収率に大きく影響を与えるためです。

新鮮でバランスが取れた手作り食をすでに与えている場合は、特にほかに大きな変更を加える必要はありません。温かい食事で滞りがちな水分や血液、リンパの循環を促し、代謝をさらに下げないよう心がけましょう。肥満と併発症の予防には、低炭水化物食がおすすめです。

タイミング

甲状腺ホルモン薬を投与している場合は、投薬の時間・食事の時間・検査の時間を一定にすることがおすすめです。

甲状腺ホルモン薬の吸収率が食事の内容に影響されやすいためです。

ポイント
一般的には、朝一番の空腹時に薬を投与し、1時間以上空けてから食事を与えると、T4値と必要な薬の量が安定しやすくなります。

1日2回投薬している場合は、夜の食事の1時間前には2回目の投薬を行なってください。

空腹時に薬を与えると調子が悪くなる場合は、夜寝る前(夕食を与えてから3〜4時間後)に投薬するか、毎回の食事内容を一定にして食事と一緒に与えます。数日〜数週間分の食事をあらかじめ作っておき、等分にして与えるといいでしょう。

T4値の検査時間も毎回一定にしましょう。通常は、投薬の4〜6時間後に採血を行います。詳しくはかかりつけの先生と相談してください。

必須栄養素を再確認

ヨウ素

まずは甲状腺ホルモンを作るのに必要なヨウ素がきちんと足りているかチェックしましょう。食品中のヨウ素の量は、季節や産地、製造会社よって変動するため、ヨウ素の量が一定しているサプリメントやブラダーラックという海藻エキスに切り替えるのもおすすめです。最小必要量の2〜3倍を目安に。

ただし、自己免疫性の甲状腺機能低下症はこの例外です。自分の免疫系が甲状腺ホルモンの合成に使われる物質を攻撃することで甲状腺が破壊されるため、ヨウ素摂取量を制限してホルモンの合成を抑える必要があります。

ヨウ素
注意
正常な甲状腺組織がほとんど残っていない場合、他の全身性疾患や薬物のために甲状腺機能が抑制されている場合は、いくらヨウ素を増やしてもT4値を上げることはできません。前者の場合はT4薬を投与し、後者の場合は原因対策を行いましょう。

ビタミンB群

栄養代謝、脳神経や筋肉の機能に大切なビタミンB群が不足していないか確認しましょう。甲状腺の機能低下が進んだり、長く続くと神経細胞の代謝が鈍り、不要物の蓄積や脱ミエリン化などにより、顔面神経の麻痺、前庭障害、四肢の機能の低下といったさまざまな神経症状・筋障害が現れやすくなります。

ビタミンB群

オメガ3脂肪酸(DHA・EPA)・リノール酸

甲状腺機能低下症では、皮膚病、高脂血症、免疫力の低下が起こりやすくなっています。オメガ3脂肪酸をきちんと与えるようにしましょう。リノール酸は皮膚の脂質量の維持に欠かせません。

オメガ3脂肪酸 (n-3)オメガ6脂肪酸 (n-6)

セレン・亜鉛

甲状腺機能低下症の犬では、セレン亜鉛の給与量が不足していることがよくあります。給与量を再確認しましょう。

セレン亜鉛

温かい食事

温かい食事は健康の基本ですが、体熱の産生がうまくいかなくなる甲状腺機能低下症では特に大切です。体を温め、循環を促すことで代謝を維持し、余分な老廃物の蓄積を防ぎましょう。

免疫力も低下しやすく、腸管の蠕動も鈍るため、腸の悪玉菌を排除する力も弱くなっています。生食を与えている場合は軽く加熱調理した食事への切り替えがおすすめです。

低炭水化物・低GI食

炭水化物を控えめに

甲状腺機能低下症では基礎代謝率が15%ほど低下するといわれています。つまり、太りやすくなるということ。でんぷん質の多い穀類やイモ類、甘い果物を減らし、健康的な体重を維持するようにしましょう。

甲状腺機能低下症ではインスリン抵抗性も起こしやすく、高脂血症や肥満とあいまって全身炎症を起こすメタボリック・シンドロームになることもよくあります。そうなると、ストレスホルモンのコルチゾールの産生が増え、クッシング症候群を起こすこともあります。糖分の多い食事を控えることは、これらの病気の予防にも役立ちます。

食物繊維を活用

食事の吸収をゆるやかにする食物繊維もおすすめです。セロリやごぼう、アスパラガス、アーティチョークなど、不溶性繊維プレバイオティック繊維を含む野菜を組み合わせて、みじん切りから一口大にカットして混ぜてあげましょう。甲状腺機能低下症では腸の蠕動が鈍るため、便秘したり、悪玉菌が増殖して腸炎を起こしやすくなりますが、食物繊維はこれらも防いでくれます。

食物繊維 (プレバイオティクス)炭水化物ガイド

高脂血症になったら

甲状腺機能低下症では、脂質の分解速度が遅くなるため脂質が蓄積しやすくなります。コレステロール値や中性脂肪値の検査を定期的に行いましょう。人間とは違い、動物は高脂血症になっても動脈硬化を起こすことはありませんが、甲状腺機能低下症だけは例外です。神経症状の一部は動脈硬化に起因する可能性も指摘されています。

ただし、食事中の脂肪を極限まで減らす必要はありません。食事中の脂肪は脂溶性ビタミンの吸収に必要ですし、動物はコレステロールを自分で合成しているため、食事中の脂肪が血中の脂肪に寄与する割合は1〜3割程度です。

生物学的に適正な食事バランスは、動物の自然治癒力を回復する最大の武器です。オメガ3脂肪酸オメガ6脂肪酸など、生きていく上で欠かせない脂質をきちんと給与するようにしましょう。

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ゴイトロゲン

ゴイトロゲンは、植物性食品中に含まれ、甲状腺の機能を阻害する成分です。多くは加熱または必要量のヨウ素の給与によりゴイトロゲンの活性化や作用が抑制されるため、大量に与えない限りは甲状腺機能には大きく影響しません。今まで大量に与えていた場合や、T4値が安定しにくかったり、症状が重度な場合には気をつけましょう。

ゴイトロゲンを含む食材例
  • 大豆などの豆類
  • キャッサバ(タピオカ)
  • ソルガム
  • ミレット(きび・あわ)
  • 亜麻仁
  • 松の実、ピーナッツ
  • さつまいも
  • ブロッコリー、カリフラワー
  • 芽キャベツ、キャベツ
  • ケール、ほうれん草、小松菜
  • 大根、カブ、ラディッシュ
  • その他のアブラナ属野菜
  • たけのこ
  • いちご、ナシ、桃など
MEMO
缶詰の内側のコーティングに使用されるBPA(ビスフェノールA)などの化学物質にもゴイトロゲン作用があります。

避けましょう

  • グルテンレクチン:自己免疫性の甲状腺疾患の場合は避けましょう。腸管免疫系を刺激して免疫系のバランスを崩したり、体の組織に結合して自己免疫様の反応を起こすことが知られています。グルテンに含まれるグリアジンという物質は甲状腺と似た構造をしています。

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