獣医師による手作り食・自然療法ガイド

犬の急性膵炎

激しい嘔吐、下痢、腹痛などの症状が現れる膵炎の急性期は、自然療法の出番ではありません。重度の場合は、入院して積極的な点滴治療を行わないと死亡する危険性があります。病院での治療を優先し、その上で膵臓の炎症を鎮める漢方薬やハーブ、食事療法を併用するとよいでしょう。回復を早め、再発や慢性膵炎への移行を防止することができます。

特に全身性炎症反応症候群、凝固系の異常、クレアチニン上昇、イオン化カルシウムの低下が見られる場合は死亡率が高くなるので要注意。

入院治療

点滴

激しい嘔吐や下痢、栄養不良状態によって重度の脱水状態、電解質バランス異常、膠質浸透圧低下が起こるため、できる限り早い段階で点滴を開始する必要があります。この状態が長く続くと、内臓に十分な血液を送ることができず、多臓器不全を起こし、回復することができなくなります。

疼痛管理

膵炎は激しい腹痛を起こす病気です。複数の鎮痛薬が必要になることもあり、入院させることで適切な疼痛管理を行ってもらうことができます。

栄養補給

胃腸を経由した栄養補給は、膵炎の治療で非常に重要な役割を果たしています。膵臓の機能を抑えるためには絶食した方がいいように感じるかもしれませんが、実際には絶食することによって重要な臓器への血流量が低下し、腸粘膜の萎縮や筋肉分解が起こり、回復が遅れます。

入院してからできるだけ早い段階(1〜3日以内)で開始する必要があります。食欲が戻っていないことが多いため、食道や胃にチューブを設置する必要があるかもしれません。

与える栄養剤や食事は、脂肪10〜15%未満の低脂肪のものを選びます。太っているほど脂質量を少なくする必要があります。炭水化物量も低いものがベスト。手作り食を与えていて、入院中もきちんとした食事を与えたい方は、食事療法のページを参考にしながら、流動食を作ってあげましょう。

膵炎の食事療法

嘔吐抑制剤

栄養補給をなるべく早く開始するため、嘔吐が激しい場合は制吐剤の投与も必要になります。

抗炎症剤

ステロイド(糖質コルチコイド・副腎皮質ホルモン剤・コルチコステロイド)はショック状態を起こしている場合や自己免疫性疾患であるとわかっている場合を除き使用されません。NSAIDは急性期での使用には注意が必要です。

現在は、日本で開発されたブレンダZ(フザプラジブナトリウム水和物)という犬の急性膵炎用の新しい抗炎症剤が利用できるようになりました。

フザプラジブは、白血球が血管から膵臓へ入り込むようシグナルを送っている「LFA-1」というタンパク質を阻害する作用があります。

その他

必要に応じて胃酸抑制剤の投与、腹水や膵臓貯留液の排液処置を行うことがあります。

原因を理解する

急性膵炎は、脂肪分の多いお肉を盗み食いしたり、ゴミ箱をあさった後に起こることがあります。そのため、脂肪分の多い食事のせいにされがちですが、実は膵臓に毒性のある薬剤、中毒、遺伝性の高脂血症、感染などさまざまな原因が考えられます。

 

救急手当てが落ち着いたら、原因についてかかりつけの獣医師とよく話し合い、再発防止に役立てましょう。

ずっと手作り食を与えていた犬では、炭水化物量が多すぎたり、肥満や糖尿病、甲状腺や副腎などの基礎疾患がない限り高脂肪食で膵炎を起こすことはほとんどありません。