獣医師による手作り食・自然療法ガイド

犬の慢性膵炎

犬の慢性膵炎は急性膵炎が完全回復せずに慢性化したものと軽度の膵炎がゆっくりと進行して症状を起こすようになるものがあります。症状も軽度のものから重度のものまでさまざまです。

治療の目標は、原因を除去して悪化と再燃を起こしにくい体を作ること。食事療法と漢方薬・ハーブ療法はいずれにも役に立ちます。

原因を除去する

膵炎の治療の第一歩は原因をつきとめて除去することです。かかりつけの病院で病歴や薬物の投与歴などをチェックしてもらいましょう。

メタボリックシンドローム・肥満

慢性膵炎の一番の原因がメタボリックシンドロームです。特にペットフードを食べている犬で多くみられます。太り気味の犬に多いですが、太る手前の肥満予備軍も気をつける必要があります。

犬のメタボの原因は、精製加工された炭水化物食品。摂取後、すみやかに吸収されて血糖値を上昇させるため、膵臓から血糖値を下げるホルモンのインスリンが分泌されます。時々起こる程度なら問題はありませんが、穀類や芋類の多いペットフードを毎日のように与えて血糖値とインスリンが常に上昇した状態が続くと体がインスリンに反応しなくなり、インスリンをいくら出しても血糖値が下がらなくなります。これをインスリン抵抗性と呼びます。

インスリン抵抗性や肥満の状態になると体内で炎症性サイトカインが盛んに産生されるようになり、アディポネクチンというホルモンが減り、血中の脂質濃度や糖濃度がさらに上昇。これらの変化が全身の血管の内面を覆っている内皮細胞の正常な機能や遺伝子発現を障害するようになります。

アディポネクチンは脂肪から分泌される抗炎症ホルモンで、脂肪を燃焼させ、細胞のインスリン感受性を高めて血糖値と脂質濃度を調節しています。内臓脂肪が増えるとアディポネクチンの産生量は逆に低下し、さらに脂肪が蓄積してインスリン抵抗性が高まるという悪循環に陥ります。

中でも重要な変化は、血管を弛緩させる一酸化窒素(NO)やプロスタノイドの減少と、血管収縮作用があるエンドセリン1の産生の増加です。これらはいずれも血管を収縮させるように働きます。

血管が収縮すると血流が滞り、血液は凝固しやすくなり、白血球の組織浸潤(炎症)を促進する接着分子が誘導され、集まってきた白血球がさらに炎症性サイトカインを産生します。こうなると、体は爆弾を抱えた状態です。2型糖尿病、膵炎、副腎皮質機能亢進症、甲状腺機能低下症、肝炎など、どの臓器の疾患がいつどの順番で起こっても不思議はありません。

膵臓内で作られる消化酵素は本来なら消化管内に放出されてから活性化され、はじめて食物の消化が行えるようになりますが、膵臓の虚血(酸欠)状態が続くと膵臓内で活性化されしまい、膵臓組織を消化するようになります。この状態がゆっくりと進行していくのが慢性膵炎です。一方、酸化劣敗した脂肪を多く含む食事や起炎物質、別の炎症性疾患など、何らかの酸化的損傷を起こす引き金が急激に加わり、膵臓組織の壊死を引き起こすと急性膵炎になります。

膵炎を根本的に治療し、再発を防止するには、引き金になる高脂肪食を控えるだけでなく、膵炎を起こしやすい体を作っている炭水化物の多い食事をやめ、肥満を予防する必要があります。

高脂血症

ミニチュア・シュナウザーやビーグルなど、遺伝的な脂質代謝異常をもつ犬種では高脂血症から血管内皮障害や酸化的障害を起こし、膵炎にいたることがあります。膵炎だけでなく、けいれん発作を予防するためには低脂肪食を維持するのがベスト。

遺伝的な脂質代謝障害のない犬では、メタボリックシンドロームが高脂血症を起こす第一の原因です。脂質だけではなく、炭水化物の摂取量を控えましょう。

自己免疫性疾患

免疫系が間違えて自分の膵臓組織を攻撃することで起こります。イングリッシュ・コッカー・スパニエルなどで報告されており、慢性膵炎の標準治療(低脂肪食)に反応を示さない場合に疑われます。免疫を正常化する漢方薬または免疫抑制剤による治療が必要になります。

私たちは、グルテンレクチンなど、腸バリアを壊して免疫系のバランスを崩したり、体内の組織に結合して自己免疫様の反応を起こす物質の関与も気づかれていないだけでかなりの数が潜在しているのではないかと考えています。

そのほか

高脂血症以外の起炎物質として薬物、胆管炎、中毒、感染症などがありますが、急性膵炎を発症することが多くなっています。通常は、診断時に獣医師が病歴や治療歴を詳細に調べ、疑われる原因があれば適切な対策を取ります。

対症療法

鎮痛・嘔吐抑制

腹痛や嘔吐、脱水がある場合には、病院で適切な治療を行ってもらいましょう。不快感をなるべく緩和し、食欲を維持することが大切です。漢方薬やハーブも役に立ちます。

犬の腹痛の症状は、固まって動かない、隠れる、触られたがらない、別の部屋に独りでこもる、抱き上げると鳴く、食欲不振、元気消失などです。

ステロイドに注意

膵炎の原因を理解せず、食欲増進だけを目的にステロイドを投与する獣医師がいまだにいるようです。膵炎でのステロイドの投与は自己免疫性疾患や急性膵炎でショック状態を起こしている場合を除き推奨されていません。

併発症

膵臓の炎症から肝炎、胆管炎、腸炎、糖尿病を起こすことがあるため、併発症の有無や経過を確認し、一緒に治療していく必要があります。胆管炎や糖尿病は膵炎の原因にも結果にもなります。メタボ状態ではこれらの炎症性疾患や代謝性疾患が混在しているのが普通です。食事療法と漢方薬で根本から治療していきましょう。

犬の膵炎に使われる漢方薬とハーブ 膵炎の食事療法