慢性腎臓病(CKD)は高齢期に多い疾患です。
多くの人が考えているのとは異なり、慢性腎臓病の診断は必ずしも重病や死を意味するものではありません。診断時のステージにもよりますが、適切なケアを行なえば、多くの犬猫は数ヶ月から数年は普通に暮らしていくことができます。したがって、家庭での健康管理も長丁場になり、定期的な検査も必要になりますから、飼い主の方にとって精神的、経済的に負担になりすぎないようなケアプランを立てることが重要になります。不安や負担を感じる場合は正直にかかりつけの動物病院に相談し、コミュニケーションを欠かさないようにしましょう。
高齢期の腎臓の機能低下は老化現象の一つともいえます。症状が発生した時や診断の直前に生じたものではなく、それまでに数年単位の長い時間をかけて進行してきたものです。急な病や事故でなすすべもなく亡くなってしまう場合と比べると、慢性腎臓病の犬猫は闘病を通して飼い主さんのとの絆が深まり、愛情感じながら幸せな最後を迎えることができるといえます。ただ長く生きることではなく、苦痛なく幸せに暮らしてもらうことを目標にがんばりましょう。
食事療法の基本
すでに失われた腎臓の機能を治療で回復することは現在の医療では不可能ですが、残っている腎臓組織を保護することで進行を抑制し、対症療法により症状を和らげることができます。食事療法は、手作り食であっても、ペットフード療法食であっても、症状の改善と疾患の進行の抑制のいずれにも大きな役割を果たしています。
慢性腎臓病は、副甲状腺や循環器系など腎臓以外の体のさまざまな部位に影響する複雑な症候群です。また、高齢期に多い病気のため、他の病気が併発していることもよくあります。そのため、同じ病期(ステージ)でも症状や検査結果などが大きく異なることがあり、すべての犬猫に適したレシピというものは存在しません。実際の臨床では、一頭一頭の状態に合わせて治療内容や食事の処方が行われています。
ここでは、なるべく多くの方の参考になるようもっとも標準的で必ず取り入れる必要がある食事の調節方法を目的別に分けて掲載しました。ステージや検査結果に合わせて必要な対策を取り入れてください。かかりつけの病院で定期的な検査を行いながら調節を行うと一頭一頭に合わせて最適化していくことができます。
ステージ | |||||
---|---|---|---|---|---|
予防 | 1 | 2 | 3 | 4 | |
1. タンパク質量を維持 » 読む | ◎ | ◎ | ◎ | △ | △ |
2. 水分量を増やす » 読む | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ |
3. 温かい食事を与える » 読む | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ |
4. 抗酸化・抗炎症 » 読む | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ | ◎ |
5. リンの量を制限 » 読む | ✕ | △ | ◎ | ◎ | ◎ |
6. タンパク質量を制限 » 読む | ✕ | ✕ | ✕ | △ | △ |
7. その他にできること » 読む | ✕ | △ | △ | △ | △ |
◎ 推奨 △ 必要になる場合がある ✕ 必要なし
本サイトに掲載している慢性腎臓病の食事療法は、臨床経験と以下の文献に基づいて書かれています。
- International Renal Interest Society (IRIS) ガイドライン
- Ettinger SJ, Feldeman, E, Côté, E. Textbook of Veterinary Internal Medicine: Diseases of the Dog and Cat. 8th Ed. (2017) Elsevier, St. Louis.
- Case LP, Daristotole L, Hayek MG, Raasch MF. Canine and Feline Nutrition: A Resource for Companion Animal Professionals. 3rd Ed. (2011) Mosby, Maryland Heights.
- Hand MS, Thatcher CD, Thatcher CD, Remillard RL, Roudebush P, Novotny BJ. Small Animal Clinical Nutrition. 5th Ed. (2010) Mark Morris Institute, Topeka.
- Pitcairn RH, Pitcairn SH. Dr. Pitcairn’s Complete Guide to Natural Health for Dogs & Cats. 4th Ed. (2017) Rodale, NY.